今回頂いた質問
113回の国試で、活動電位に対する髄鞘の働きに関する問題がありました。
髄鞘はわかるのですが……解説していただけないでしょうか。
ご質問ありがとうございます。
1.活動電位とは
まず活動電位について説明します。活動電位とは、ニューロン(神経細胞)や筋肉細胞に生じる、一過性の膜電位(細胞膜の内側の電位)の変化をさします。ここでは、ニューロンを例にして考えましょう。
下のグラフは、膜電位の変化を示したものです。
陽イオンに着目すると、ニューロンの細胞膜の内側にはカリウムイオンが多く、外側にはナトリウムイオンが多い、アンバランスな状態にあります。このアンバランスな状態によって、膜電位(膜の内側の電位は)マイナス60mVになり(グラフ内(A)部分)、外側は反対にプラスの電位が生じます。
ニューロンに刺激が加わると、細胞膜のナトリウムチャネル(ナトリウムイオンを通す扉)がわずかに開き、ナトリウムイオンが膜の外から内側に入ってきます。そうすると、膜電位が徐々にプラスに向かって上昇していきます(グラフ内(B)部分)。
膜電位のプラスへ向かっての上昇が、あるレベル(閾値)に到達すると、わずかに開いていたナトリウムチャネルが、パカッと大きく開いて、どんどん外からナトリウムイオンが入ってきます。
結果、膜電位は一気に25mVまで上昇します。この、一気に電位がプラスになることを、オーバーシュートといいます(グラフ内(C)部分)。
2.髄鞘について
次の図は、プラスになった膜電位が、隣のマイナスの電位をプラスに変換させながらニューロン内を電気が流れていく様子を示しています。
ニューロンの中には髄鞘という脂質を含む鞘で包まれているものがあり、これを有髄神経といいます(下図)。
髄鞘は電気を通さない性質がありますが、髄鞘のないむき出しの部分(ランヴィエ絞輪)のみは電気が流れます。電気が流れる部分がとびとびなので、有髄神経は、電気の流れるスピードが速いのが特徴です。
以上が質問の回答です。
では、「活動電位に対する髄鞘の働き」に関する国家試験の過去の問題を解いてみましょう。
問題
第113回看護師国家試験 午前問題26
神経線維には髄鞘があるものとないものがあるが、活動電位に対する髄鞘の働きはどれか。
1. 活動電位の発生頻度を増やす。
2. 活動電位のピークを高くする。
3. 活動電位の伝達速度を速くする。
4. 活動電位が周囲の神経線維に伝わるのを防ぐ。
2.× 活動電位のピークを高くする働きはない。ちなみにピークの電位は常に一定である。
3.○ 髄鞘は電気を通さない性質をもつ。その結果、活動電位が流れるのは、髄鞘のないランヴィエ絞輪だけのとびとびの部分になるので、活動電位の伝達速度が速くなる。
4.× 活動電位が周囲の神経線維に伝わるのを防ぐ役割はない。
正解…3
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編集部より
膜電位が一気にプラスになって活動電位が流れた後、ニューロン内に入ってしまったナトリウムイオンは、細胞膜上のナトリウム・カリウムポンプによって細胞外に押し出されます。これで元のアンバランスなイオンの状態に戻ります(冒頭グラフ内(D)参照)。
イオンチャネル、イオンポンプ、受容体(レセプター)などは、細胞が膜外の環境とやり取りする扉のようなものです。薬理学や生化学などでも学ぶキーワードですので、しっかり確認しておきましょう。