看護師にとって薬理学の知識は必要不可欠!
奥が深いお薬の世界を現役の看護師&薬剤師が丁寧に解説します。
国試の過去問といっしょに学習していきましょう。

1 ステロイド薬ってなんだろう。

副腎皮質ステロイドとは、左右両方の腎臓の上についている副腎の外側の皮質で分泌されるホルモンで、3つの種類に分けられます。
(1)糖質コルチコイド:これを人工的に合成したものが副腎皮質ステロイド。
(2)膠質コルチコイド:体内のナトリウム(つまり水分)の調節に関わる。
(3)アンドロゲン:男性ホルモン

目的は「抗炎症作用」「免疫抑制」です。
疾患別に見ると、膠原病、ネフローゼ症候群、IgA腎症、アトピー性皮膚炎や気管支喘息、間質性肺炎、臓器移植後、血液疾患など本当に多岐に渡ります。

ステロイド薬が使われる主な病気と副作用

ステロイド薬が使われる主な病気と副作用イメージ

投与法としては、注射、内服、点眼、吸入、皮膚外用薬の貼付があり、点眼や吸入、皮膚外用薬は局所作用薬のため、全身への副作用は比較的生じにくいとされています。

いろいろなステロイド薬

ステロイド薬イメージ


2 ステロイド薬の作用と副作用

作用

抗炎症作用

そもそも炎症とは、なんらかの障害を受けた組織が回復するために起こる生体反応でその際にサイトカインやプロスタグランジン(第7回参照)といった物質が作られます。ステロイドはこのような炎症を起こす物質をブロックし、炎症を重くする白血球の働きを抑える作用があります。

免疫抑制作用

免疫に関わるリンパ球の作用を抑え、リンパ球が作り出す抗体の量を減少させる働きがあります。

ステロイド離脱症候群

糖質コルチコイドを一定期間外部から投与されると、体内の副腎皮質からは分泌されなくなります。そのためステロイドの服用を急に中止すると、体内の糖質コルチコイドが不足し、倦怠感や吐き気、頭痛などが起きることがあります。だから徐々に減量していきます。

副作用

消化性潰瘍

消化管粘膜保護のプロスタグランジンなどを抑えるため起こりやすくなります。これに対しては、胃粘膜保護の内服、胃酸分泌を抑制する内服を行います。

骨粗鬆症

ステロイドに骨形成を低下させる働きがあるため、骨密度が減少し骨粗鬆症のような状態になります。これに対しては、ビスフォスフォネートなどの内服をすることもあります。

精神症状

不眠や、興奮気味になったり、逆にうつ症状が現れることがあります。場合によっては精神科に紹介し内服をしてもらうこともあります。

感染

免疫機能を低下させる主作用からくるものですが、時に重篤な感染症になります。また日和見感染といって、カリニ肺炎などになることもあり予防のためにバクタ(ST合剤)を内服したり、食道カンジダ症を予防するためにフロリードゲルを口腔内に塗布し飲み込むこともあります。

高血糖

肝臓の糖新生を促進し、血糖値をあげる効果があります。通常であればインスリンの作用により血糖値はコントロールされますが、もともとの体質や膵臓の機能により糖尿病と診断される場合もあり、その場合はインスリン注射や内服を行います。

クッシング徴候

満月様顔貌、野牛肩(肩に脂肪はつくけれど手足は細い)などが現れます。他、血小板の機能が亢進し血栓症が起こりやすくなる、高血圧などの副作用もあります。

クッシング徴候の症状

クッシング徴候イメージ

薬剤師から一言

薬剤師

鶴原伸尚さん
つるさん薬局(東京都)の薬剤師。患者さん一人ひとりの想いを大切に日々奮闘中。
ステロイド薬は、注射、内服、点眼、吸入、外用薬など剤形にこだわらず効果の高い薬です。いずれの剤形であっても、ステロイドが処方されるということは、状況が悪いと判断した方が良いでしょう。

つまり、ステロイド薬が処方された時は、起きるかどうかわからない副作用を心配するよりも、目の前の治療に専念することが重要な場面にいるのだと考えてください。特に短期間での利用は、副作用のデメリットよりも効果のメリットの方がはるかに大きい場合が多いです。短期間のステロイドの利用であれば、消化性潰瘍、一時的な血圧、血糖値の上昇等副作用はありますが、中止すれば回復します。クループ(喉頭気管気管支炎)、喘息発作など短時間で命にかかわり、重症化を起こす症状の場合もあるので、躊躇することなく早めの利用開始をお勧めします。

3 看護のポイント

自己中断させない。

これがステロイド薬服用の注意点のひとつです。
ステロイドは医療者側からみるととても効果が高く、生命を救うと実感する事例にもよく出合います。ステロイド薬が登場する以前は、全身性エリテマトーデスの5~10年生存率は50%程度といわれていました。現在は、5年生存率90%以上、日本の施設では95%以上とも言われます。それほどの効果があるのです。

でも、患者さんが拒否する薬のトップ? と思うくらい否定的な意見をよく聞きます。

この理由としては、実際に副作用の種類も多く、それを予防するためにさらなる内服が必要となる場合もあり、患者さんにとって負担が大きいことがあげられます。私たち看護師は、医師や薬剤師と協力してきちんと情報を伝え、予防するための手段や早期発見のポイントを伝えたり、看護師自身が観察できるようにしていくことが大切です。
☆たとえば感染予防ではマスクや手洗いを励行し、発熱・咳などの体調管理は患者さん自身が普段から行えるので、その推奨をします(ただ、これも程度の問題もあり、強調しすぎると生活範囲を過剰に狭めてしまうケースもありますね)☆


4 患者の不安によりそう

誇張された副作用情報の不安から患者を守る。

インターネットでの情報で、ステロイド薬について誇張されたものが流れているのも否めません。病院や製薬会社、個人のブログでも正確な情報をきちんと伝えているものもありますが、患者さんの不安を煽るような情報が氾濫しているのも事実です。
私が経験した臨床で、ステロイド薬を自己中断したことにより全身エリテマトーデスが急激に悪化し、入院後そのまま人工呼吸器管理となり亡くなられた患者さんがいました。まだ若い患者さんで一緒に暮らしていた家族も、自己中断していた事実を知りませんでした。なので、その患者さんがどのような不安をかかえ、なぜ誰にも言わずに服用を中断してしまったのかはわかりませんでした。
どんな薬にもいえますが、服薬コンプライアンスを向上するためには、患者さんが抱えている不安と私達も一緒に向き合わなければならないと思います。当たり前ですが、患者さんが何に不安なのか、まずは傾聴の姿勢が必要になるのかもしれません。

ステロイド自己中断しないでイメージ

再び薬剤師から。

薬剤師

長期利用の際には、様々な副作用が起きうるので、治療の効果と副作用発現のバランスを考える必要があります。
いずれの場合も「ステロイド治療の継続」が重要となります。

例えばリウマチの患者さんでは、骨粗鬆症の副作用リスクとリウマチ症状の低減、IgA腎症の患者さんでは、ムーンフェイスの副作用発現と腎症の完治を考慮した場合、副作用発現抑制と治療継続のいずれが重要かを個々に考えます。この例の場合は、「骨粗鬆症薬の併用」「ムーンフェイスはやむを得ないものとして完治を優先」などの方法をとる、また「不眠の場合には、寝る前ではなく、朝食後に飲む」など、飲み方の工夫をすることで改善されるケースもあります。
丁寧な説明があれば、患者さんは納得してお薬を利用してもらえます。

5 最後に国試の過去問を解いてみよう。

第102回看護師国家試験 午後問題24(必修問題)

長期間の使用によって満月様顔貌〈ムーンフェイス〉をきたすのはどれか。

1.ヘパリン
2.インスリン
3.テオフィリン
4.プレドニゾロン
5.インドメタシン

正解・・・4
正解は代表的ステロイド薬である選択肢4のプレドニゾロン。


(テキスト:sakura nurse・鶴原伸尚 イラスト:中村まーぶる)

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