今回頂いた質問
110回の国試で、アドバンス・ケア・プランニングに関する出題がありました。老年看護学の終末期の治療方針などの意志をあらわすものは、「アドバンス・ディレクティブ」や「リビング・ウィル」など似たような意味の言葉がいくつかありますよね。違いを教えて頂けますか。
ご質問ありがとうございます。
「アドバンス・ケア・プランニング」「アドバンス・ディレクティブ」「リビング・ウィル」は、いずれも自らが望む人生の最終段階の医療やケアを明確化することです。
1.アドバンス・ケア・プランニング(事前の医療・ケア計画:ACP)とは?
アドバンス・ケア・プランニングとは、患者自身の自己決定能力が低下した場合であっても、患者が最も望む医療やケアを受けるために、患者が大切にしている人生観・価値観や、どのような医療やケアを望むかなどについて、患者自身が前もって考えたり、信頼できる人(家族・友人など)や医療従事者とともに話し合って共有したりする取り組みのことです。
時間の経過や、その時の健康状態によって、患者の意思は変化することがありますので、何度も繰り返し考えたり、定期的に話し合ったりすることが望ましいとされています。
アドバンス・ケア・プランニングは、すべての人が取り組まなくてはならないというものではありません。あくまでも、患者自身が主体的に考えたり、取り組んだりしながら進められるものです。患者によっては、「縁起でもない」と話し合いを避けるケースもありますが、そのような場合は、患者自身の「知りたくない、考えたくない」という意思への配慮が必要です。
2.アドバンス・ディレクティブ(事前指示)とリビング・ウィル(生前の遺書)
アドバンス・ディレクティブとは、患者自身が将来的に自己決定能力を失った際に、自分自身に行われる医療行為についての意向を前もって意思表示することです。
(上のイラストのうち、5の部分が「アドバンス・ディレクティブ」です。)
アドバンス・ディレクティブには、「代理人指示」と「内容的指示」があります。このうち、リビング・ウィルは「内容的指示」のひとつで、終末期医療の意向を「生前の遺書」として書面で伝えることです。
アドバンス・ディレクティブには、「代理人指示」と「内容的指示」があります。このうち、リビング・ウィルは「内容的指示」のひとつで、終末期医療の意向を「生前の遺書」として書面で伝えることです。
●代理人指示:患者自身が、将来的に意思表示ができなくなった場合に備えて、患者の代わりに医療・ケアを決定する人(代理決定者)をあらかじめ指定しておくこと
●内容的指示:終末期において、患者自身がどのような医療・ケアを望むかについて、あらかじめ指定しておくこと(「生前の遺書」として書面で伝える=リビング・ウィル)
(例)心肺蘇生、人工呼吸器、昇圧剤、人工透析、輸血、経鼻や胃管からの栄養補給、点滴等からの水分補給、苦痛の緩和についての希望など
患者の意思や考え方が変わった場合、アドバンス・ディレクティブやリビング・ウィルの内容は、いつでも変更・撤回(取り消し)することができます。
以上が質問の回答です。
では、「アドバンス・ケア・プランニング」に関する国家試験の過去の問題を解いてみましょう。
問題
第110回看護師国家試験 午後問題43
現在の日本の終末期医療において、患者の将来の自己決定能力の低下に備えて、患者・家族と医療者が今後の治療・療養についての気がかりや価値観を定期的に話し合って共有し、患者の意向に沿った医療を提供することが望ましいとされている。
この内容を示すのはどれか。
1. グリーフケア
2. 代理意思決定の支援
3. アドバンス・ケア・プランニング
4. アドバンスディレクティブ〈事前指示書〉の支援
2.× 代理意思決定支援とは、患者自身の意思表示ができなくなった場合において、患者の代わりに医療・ケアを決定する人(代理決定者)を支援することである。
3.○ 正しい。
4.× アドバンス・ディレクティブ〈事前指示書〉の支援とは、患者自身が将来的に自己決定能力を失った際に、自分自身に行われる医療行為についての意向を前もって意思表示することを支援することである。
正解…3
●老年看護学について理解を深めるには、科目別強化トレーニング
編集部より
終末期においては、約70%の患者が、自らが望む医療やケアを自分自身で考えたり、意思表示することができなくなったりするといわれています。入院中の患者にとって、看護師はもっとも身近な存在であり、キーパーソンのような役割を担うこともあります。看護師には、患者自身が最期まで自分らしく過ごせるよう、患者がもつさまざまな感情に寄り添いつつ、患者にとっての大切な人や医療チームとの連携を図りながら、患者の意思決定を支援する関わりが求められます。