今回頂いた質問

医療介護総合確保推進法に関する出題が国家試験にもありますよね?授業では習ったのですが今ひとつわかりにくいです。109回の問題は他の法律との関係も問われていて難しいですよね。どの程度まで理解していればいいのでしょうか。

ご質問ありがとうございます。

医療介護総合確保推進法に関しては、他の法律や制度との関係も絡んでくるので難しく感じますよね。ここでは、医療従事者という視点で、医療介護総合確保推進法の基礎知識を理解するとともに、「法律による行政」という根本のお話から、試験に出るポイントをおさえておきましょう。
 

医療介護総合確保推進法の基礎知識

1.医療介護総合確保推進法とは?

正式名称は「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備に関する法律」といい、文字通り、効率的かつ質の高い医療提供体制と地域包括ケアシステムの構築を通じて、地域における医療および介護の総合的な確保を推進するための法律です。平成26(2014)年に制定されました。医療と介護を確保するのですから、それに関係の深い医療法、介護保険法などの関連法と矛盾してはいけません。そのため、これらの法律も改正して一緒に整備していきましょう、というのがこの法律なのです。

この法律が主に定めている内容には以下のものがあります。

(1)地域における効率的かつ効果的な医療提供体制の確保
(2)地域包括ケアシステムの構築と費用負担の公平化

(3)新たな基金の創設と医療・介護の連携強化(地域医療介護総合確保基金を都道府県に設置。その財源は消費税増税分となっています)
(4)その他(看護師の特定行為の明確化と手順書による研修の創設、介護人材確保対策の検討など)

もともと、この法律は、制定されるまでの経緯がありました。その一つが2025年問題です。約800万人いるとされる、いわゆる団塊の世代が75歳以上となり、医療や介護など社会保障に不備が生じるのではないか、という問題です。それに対応するために作られた法律なのです。上記をみると、確かに、医療と介護を確保・推進するために必要なものというのがわかります。

 

2.医療法との関係

医療介護総合確保推進法に合わせて医療法が改正されました。主な内容を見ていきましょう。

(1)地域における効率的かつ効果的な医療提供体制の確保
     ↓←医療法改正
A.都道府県は、各医療機関にある病床の医療機能等を基に地域医療構想を策定:第7次医療計画が2016(平成28)年度に策定
B.地域医療支援センターの機能を医療法に位置付け
C.医療の安全のための措置:医療事故調査制度の設立 など

<地域医療構想とは?>
地域における将来の医療提供体制をどうするかのビジョンのことです。好きな病院を好き勝手に設立してしまうと、地域に必要な医療が整わない可能性があります。そのためにはビジョン・計画が必要です。ですから、病院・有床診療所は、自分たちの病床の担っている医療機能の今後の方向性(高度急性期、急性期、回復期、慢性期から選択)を都道府県に報告し、都道府県知事はこの報告を受けて、地域医療構想を策定し、ビジョンに合った病床の機能分化、連携の推進などを定めるのです。

そして、それをうけて、第7次医療計画が2016(平成28)年度に策定されました。その主な内容は、以下のとおりです。

・急性期から回復期、慢性期までを含めた一体的な医療提供体制の構築
・疾病・事業横断的な医療提供体制の構築
・5疾病(癌・脳卒中・急性心筋梗塞・糖尿病・精神疾患)・5事業(救急医療・災害医療・へき地医療・周産期医療・小児(救急)医療・その他都道府県知事が特に必要と認める医療)及び在宅医療に係る指標の見直し等による政策循環の仕組みの強化
・介護保険事業(支援)計画等の他の計画との整合性の確保

たしかに、医療制度を考えるときに、よく聞くワードばかりだと思いませんか?

<地域医療支援センターとは?>
都道府県が設置する医師の地域偏在を解消することを目的とした機関です。各都道府県が地域と連携し、医師不足の状況等を把握・分析を行ったり、医師のキャリア形成支援と一体的に医師不足病院の医師確保の支援を行ったりしています。
 

3.介護保険との関係

医療介護総合確保推進法にあわせて介護保険法が改正されました。主な内容を見ていきましょう。

(2)地域包括ケアシステムの構築と費用負担の公平化
↓←介護保険法改正
A.予防給付(訪問・通所介護)を地域支援事業として市町村へ移譲
B.地域密着型通所介護(小規模デイサービス)の創設(2016(平成28)年4月から)
C.低所得者の介護保険料軽減の強化と一定以上所得のある利用者の自己負担の引き上げ など

<地域包括ケアシステムとは?>
高齢者が住み慣れた地域で生活を継続できるようにするための、介護・医療・住まい・生活支援・介護予防を充実させるためのシステムのこと。認知症高齢者の生活を支えるためにも、重要とされています。市町村などの自主性・主体性・地域の特性に基づいた構築が必要とされています。

<地域密着型通所介護(小規模デイサービス)とは?>
利用定員が19人未満の小規模なデイサービスのこと。2016(平成28)年からスタートしています。利用できるのは要介護1以上の認定を受けた者となっており、要支援者は利用することができません。 

 

以上が質問の回答です。
では、「医療介護総合確保推進法」に関する国家試験の過去の問題を解いてみましょう。

問題

第109回看護師国家試験 午前問題86

地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律〈医療介護総合確保推進法〉で推進するのはどれか。2つ選べ。

1. 子育て世代包括支援センター
2. 地域包括ケアシステム
3. 子どもの医療費の助成
4. 地域生活支援事業
5. 地域医療構想

1.× 母子健康包括支援センターのことで、「母子保健法」で設置義務が市町村に定められている(努力義務)。
2.○ 地域包括ケアシステムの構築が推進すべき事項にあげられている。
3.× 市町村独自の助成とされている。
4.× 障害者が地域で生活するための支援で、「障害者総合支援法」に規定されている。
5.○ 地域医療構想の策定が推進すべき事項にあげられている。
正解…2・5

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編集部より

医療介護総合確保推進法をとらえるポイントは、この法律によってどんな制度が行政で進められるか、という点です。なぜ、地域包括ケアシステムが叫ばれるのか、と考えたとき、この法律があるから、という考え方ができるとつながります。その法律がつくられた目的がこうだから(立法趣旨といいます)、だからこの制度になるのか、と考える。法律や制度の基本を理解して、自分たちの役割を理解することも、これからの看護師に求められる重要な課題のひとつといえるでしょう。