今回頂いた質問

医療現場で気を付けるべき感染症って何がありますか?

ご質問ありがとうございます。
医療現場では様々な感染症に接触する場面が多くあり、医療従事者は「患者などから感染するリスク」と「感染源となるリスク」があります。巷でも毎年のように流行するインフルエンザやノロウイルスへの警戒はもちろん、院内感染や思わぬ感染症は多数あるので、一概に特定の感染症だけを警戒するのではなく、感染を防ぐためには、適切な予防策を実施し、また、現場では予防のための設備・器材を提供しなければなりません。
毎年、世界的にも新たな感染症が発生しており、あらゆる感染経路が存在します。感染経路を遮断し拡大を防ぐためには看護職、医師などの医療従事者のみならず、職場に出入りする作業員や業者なども確実に予防対策をする必要があります。

●感染経路の分類

 

感染症の予防策

■標準予防策(スタンダードプリコーション)の実施
標準予防策実施以前は、血液検査で感染症の有無を確認したのち、陽性であった場合のみ特別な感染対策を行ってきていました。しかし、未検査の患者や潜伏期の患者、また、未確認の感染症患者に対しては無防備になってしまうという問題がありました。そこで、この問題への対策として1996年にアメリカ疾病管理予防センター(Centers for Disease Control and Prevention = CDC)から出されたガイドラインに基づいた標準予防策(スタンダードプリコーション)が発表されました。
標準予防策(スタンダードプリコーション)は、湿性生体物質からの病原体の感染リスクを減らすために作成され、「すべての患者の血液・体液・(汗を除く)分泌物・排泄物・傷のある皮膚・粘膜は感染症がある対象」として定義され、対応しています。

<標準予防策(スタンダードプリコーション)の主な実施項目>
・適切な手指衛生
・個人防護用具(PPE)の使用
・患者ケアに使用した器具の適切な取扱い
・環境対策
・リネンや鋭利なものの取扱い
・患者の蘇生など救急時の対応
・患者配置
・呼吸器衛生/咳エチケット

などがガイドラインであげられています。

■予防接種の実施
インフルエンザなどの流行性ウイルス疾患やB型肝炎などワクチンにて予防可能な感染症については、可能な限り予防接種を受け、感染症への罹患を予防することが重要です。医療機関での予防接種の対象者には、看護師や医師、その他の医療職以外や、事務職、教員、実習学生、ボランティア、清掃員など患者と接する可能性のある全ての人が含まれます。しかし、予防接種を受けているからといって、感染する可能性がゼロになるとは言い切れません。また、ワクチンのない感染症やワクチンを接種できない場合もあります。日常的に、予防策を実施し、感染症発生時の対応について体制を整備しておくことが重要です。

●医療従事者に推奨される予防接種

 

職業感染について

医療従事者が業務を通じておこす感染症を職業感染と言います。血液で汚染した針や鋭利な器材による針刺し・切創、あるいは粘膜や損傷した皮膚への血液や体液の飛散などによる血液媒介病原体による感染が、職業感染の大きな要因となっています。

■針刺し事故の防止
<注射器などの取り扱いルール>
・リキャップをしない
・翼状針などの安全装置はきちんと最後まで作動させる
・注射器等を運ぶ場合、準備ではトレイ等を使うが、使用した鋭利器材はトレイで運ばない
・使用後の注射器や注射針等は素手で扱わない
・使用後の注射針等は放置せずに、すぐに廃棄する
・使用後の注射針等は、必ず使用者が責任を持って廃棄する
<ヒヤリ・ハット(潜在事故)の経験>
針刺し切創にならないまでも危険を感じたケースを職場で積極的に取り上げ、そうした潜在事故の経験を交換しあい、必要な防止対策があれば早急に構じます。
<イメージトレーニングの勧め>
普段から作業の危険な場面を想定し、常に安全が確保されるようにイメージトレーニングを行います。

 

院内感染の主な例

B型肝炎
C型肝炎
SARS(重症呼吸器症候群)
インフルエンザ
ウイルス性出血熱
ウエルシュ菌感染症
感染性胃腸炎
急性出血性結膜炎
クロストリジウム・ディフィシル感染症
水痘
セレウス菌感染症
炭疽
天然痘(痘そう)
ノロウイルス感染症
麻疹
流行性角結膜炎
レジオネラ症

以上が質問の回答です。
では、「感染症」に関する国試の過去問を実際に解いてみましょう。

問題

第107回看護師国家試験 午後問題55

入院中に陰圧室に隔離すべき感染症はどれか。

1. 麻 疹 
2. 風 疹
3. 手足口病
4. 流行性耳下腺炎

1. ○ 麻疹は、飛沫感染や接触感染もあるが、空気感染もする。空気感染は、病原体を含む小さな粒子(5ミクロン以下の飛沫核)が拡散され、これを吸い込むことによる感染経路を指す。飛沫核は空気中に浮遊するため、患者を陰圧室に隔離し、医療従事者はN95マスクを着用する。
2. × 風疹は、主に飛沫感染なのでサージカルマスクにより予防する。
3. × 手足口病は、接触感染予防と飛沫感染なので、サージカルマスクの着用や、手洗いや手袋の着用と交換により予防する。
4. × 流行性耳下腺炎(ムンプス、おたふくかぜ)は、主に飛沫感染なのでサージカルマスクにより予防する。

正解…1

●「疾病の成り立ちと回復の促進」の理解を深めるには
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編集部より

これから医療現場に実習に行かれる看護学生さん、現場で働く医療従事者の方々は感染症にかかる危険性と常に隣り合わせです。感染しない、自分が感染源にならないためにも、今回紹介した標準予防の徹底、予防接種など個人でも意識的に気を付けて、自分や患者さん、仲間を守れるようにしましょう!