今回頂いた質問

実習で受け持った高齢の患者さんが、「俺には彼女がいるんだよ。この治療が無事に終わったら、彼女と再婚しようと思っている。」と教えてくれました。その話を聞いた時に、高齢者になっても異性への恋愛感情や性意識は変わらないものなのか、気になりました。もちろん個人差はあると思いますが、参考までに教えてください。

ご質問ありがとうございます。

みなさんのような若い人たちにとって、高齢者を“性に関心をもった個人”と捉えるのは、少々難しいかもしれませんね。たしかに、加齢にともなう性ホルモンの減少や、生殖器系の機能低下などは、性的な側面に何らかの影響を与える可能性があります。しかし実際には、高齢者の多くが性に対して関心を持ち続けており、老年期に入っても満足のいく性生活を望んでいるともいわれています。

そこで今回は、加齢にともなう生殖器系への影響や、高齢者の性意識・性行動の傾向について、基本的なポイントを整理しておきましょう。
 

1.加齢にともなう男性生殖器系への影響

男性ホルモン(テストステロン)の分泌量は、20歳頃から年1〜2%の割合で減少します。ただし、減少するスピードは個人差が大きく、70歳代でも30歳代の平均値とほとんど変わらない男性もいます。男性ホルモン(テストステロン)が減少すると、性的欲求(性欲)の低下やED(勃起障害)が生じやすくなります。
また、加齢とともに増加する酸化ストレスの影響により、1日につくられる精液量、総精子数、総運動精子数、正常形態精子率は、35歳頃から徐々に減少していきます。睾丸の容積も、加齢とともにゆるやかに減少し、硬さも柔らかくなります。

 

2.加齢にともなう女性生殖器系への影響

加齢による卵巣の機能低下により、女性ホルモン(エストロゲン・プロゲステロン)の分泌は、閉経(月経が永久に停止した状態のこと)の数年前から徐々に減少し始めます。これにより、月経や排卵の周期が不規則になります。やがて、女性ホルモンの分泌が停止すると、閉経を迎えます。日本人女性の場合は、平均49.5歳です。
閉経を迎えると、膣の粘膜が薄くなり、乾燥しやすくなります。また、性交時の潤滑性が不十分となり、性交時に痛みが生じることもあります。多くの女性は、年齢を重ねても変わらずオルガズムを得ることができますが、人によってはオルガズムに達するのに時間を要することがあります。
また、乳管を刺激するエストロゲンの分泌量が減少することにより、乳房は小さくなります。加齢により皮膚の弾力性や柔軟性も低下するため、乳房は垂れ下がり、乳房の張りも失われやすくなります。

 

3.高齢者の性意識・性行動

加齢による性交頻度には個人差があるものの、40歳頃から徐々に低下し始めます。ただし、性的欲求は男女ともに加齢により低下するものの、高齢者においても比較的よく保たれるといわれています。異性に対する意識や羞恥心も維持されます。臨床では、男性看護師から清潔・排泄ケアを受けることを、高齢の女性患者さんが拒否する場面も多くみられます。

また、高齢者であっても、異性への恋愛感情を抱くケースは決して少なくありません。内閣府の「平成8年度高齢者の健康に関する意識調査」によると、調査対象となった全国の60歳以上の男女約3,000人のうち、半数近くが高齢者の恋愛や結婚について「良いことだと思う」と回答しています。

高齢者が望む性的関係としては、男性は「性行為」への関心が高い一方で、女性は「スキンシップ」や「精神的な愛情やつながり」など、より広範な身体的・心理的活動を含む傾向にあります。すなわち、高齢者にとっての性は、単に性欲を満たすための行為(セックス/sex)にとどまらず、人生の性の経験に関わるすべての活動(セクシュアリティ/sexuality)が含まれるといえます。いずれにせよ、高齢者にとって豊かな性生活を営むことは、その人の生きがいや健康度の高さに影響するといわれており、人生の最終目標であるQOL(社会の中でより自分らしく生きること)の実現においても重要な部分を占めるといえるでしょう。

 

以上が質問の回答です。
では、「高齢者の性」に関する国家試験の過去の問題を解いてみましょう。

問題

第109回看護師国家試験 午前問題51

高齢者の性について正しいのはどれか。

1. 女性の性交痛は起こりにくくなる。
2. 男性は性ホルモンの分泌量が保たれる。
3. 高齢になると異性に対する羞恥心は減退する。
4. セクシュアリティの尊重はQOLの維持に影響する。

1.× 女性の性交痛は起こりやすくなる。
2.× 加齢にともなう、性ホルモンの分泌量は減少する。
3.× 高齢であっても、異性に対する羞恥心は保たれる。
4.○
正解…4

●老年看護学ついて理解を深めるには、科目別強化トレーニング「老年看護学」

編集部より

加齢に伴う身体機能の低下には一定の方向性が認められますが、その一方で、高齢者の価値観やライフスタイルには多様性があります。「高齢者」という言葉からイメージされる特定のステレオタイプや先入観で対象者を捉えることは、その人らしさを尊重した関わりとは大きくかけ離れるものであり、さらには年齢差別(エイジズム)にも大きく影響します。高齢者との関わりにおいては、高齢者を“多様な人生経験をもつ個人”として、その人のセクシュアリティ(sexuality)も含め、個別性や価値観を尊重することが大切ですね。