今回頂いた質問

LGBTに関する出題が国家試験にもありますよね? 授業ではほとんど習っていません。なのに、特に108回の問題は難しいですよね。どの程度まで理解していればいいのでしょうか。

ご質問ありがとうございます。
LGBTに関しては、法的ならびに社会的な視点から、さまざまな議論が展開されている現状にあります。ここでは、医療従事者という視点から、LGBTの基礎知識を理解するとともに、「性同一障害の診断・治療」「性別適合手術後における戸籍上の性別変更」について、ポイントをおさえておきましょう。

LGBTの基礎知識

(1) LGBTとは?
レズビアン・ゲイ・バイセクシャル・トランスジェンダーのそれぞれの頭文字をとった略語のことです。平成27~28年に行われた調査などによると、我が国におけるLGBTの割合は約8%といわれています。

Lesbian」(レズビアン/女性の同性愛者)
Gay」(ゲイ/男性の同性愛者)
Bisexual」(バイセクシュアル/両性愛者)
Transgender」(トランスジェンダー/心とからだの性の不一致)

一般的には、これらのカテゴリーに該当しない多様な性的指向(性的な魅力を感じる性格)や性自認(自分の性別に対するイメージ)をもつ人々も含めた総称のひとつとして用いられることがあります。

(2) 性同一性障害とトランスジェンダーの違い
「性同一性障害」とは、トランスジェンダー(心とからだの性の不一致)のうち、何らかの医療的治療を必要とする人が、自ら病院を受診することで診断される「医学的疾患名(診断名)」のことです。ただし、すべてのトランスジェンダーが医療的治療を必要としている(「性同一性障害」という診断を受けている)わけではありません。

 

性同一性障害の診断・治療

(1) 性同一性障害の診断
性同一性障害の診断は、経験のある2名以上の医師によって確定します。

1.生物学的性(SEX)の決定
染色体検査、ホルモン検査、内性器および外性器の検査を行い、生物学的に、正常な男女どちらかの性別であることを証明します。
2.ジェンダー・アイデンティティの決定
生育歴、生活史、これまでの人間関係などについて質問し、性別役割の状況を調べ、ジェンダーを決定します。
3.下記の除外要件に該当していないかどうかの確認
・性分化疾患(性分化の異常により、性染色体、性腺、内性器、外性器が生まれつき非典型的である状態)ではないこと
・他の精神疾患(統合失調症やうつ病など)ではないこと
・社会的理由による性別変更(性別の変更によって社会的な不利益を解消することを目的とする)ではないこと

これらのことから、生物学的な性別とジェンダーが一致していないことを明らかにした上で、「性同一性障害」と診断されます。

(2) 性同一障害の治療
性同一性障害の治療は、「性同一性障害の診断と治療のガイドライン」に沿って、段階的に進められます。

第1ステップ:精神療法(精神的サポート、カミングアウトの検討など)
第2ステップ:内分泌療法(ホルモン療法)
第3ステップ:外科的療法(性別適合手術:手術によって外性器などを反対の性別に近づける)

 

性別適合手術後における戸籍上の性別変更

2004(平成16)年に「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」が施行され、性別適合手術を前提とした戸籍上の性別変更が認められるようになりました。
戸籍上の性別変更には、以下の要件をすべて満たした上で、家庭裁判所における審判手続きを受ける必要があります。

【法的要件】
1.20歳以上であること
2.現に婚姻をしていないこと
3.現に未成年者の子がいないこと
【医学的要件】
4.生殖腺がないこと、生殖機能を永続的に欠くこと
5.望みの性に近似する性器を有すること

以上が質問の回答です。
では、「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」に関する国家試験の過去の問題を解いてみましょう。

問題

第108回看護師国家試験 午前問題63

平成16年(2004年)に性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律が施行され、戸籍上の性別を変更することが可能になった。
その変更の条件で正しいのはどれか。

1. 15歳以上であること
2. うつ症状を呈していること
3. 現に未成年の子がいないこと
4. 両親の同意が得られていること

1.× 変更の条件は「20歳以上」と定められている。
2.× うつ症状は、他の精神疾患とみなされ、性同一性障害から除外される。
3.○ 正しい。
4.× 両親の同意は、変更の条件として定められていない。

正解…3

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編集部より

LGBTが抱える医療問題としては、病状説明・緊急手術の同意・終末期医療などにおける代理意思決定、問診票の性別記載、病室や入院着の配慮などが挙げられます。また、LGBTに対する医療従事者の無理解や偏見などにより、LGBT患者が受診行動を躊躇したり、自分自身に関する情報を伝えることに抵抗感や恐れを感じたりすることがあります。患者さんがもつ多様なニーズに対応すべく、LGBTについて正しく理解し対応することは、これからの看護師に求められる重要な課題のひとつといえるでしょう。