今回頂いた質問

108回の国試に関しての質問です。
自殺対策基本法に関する問題で、「都道府県に義務付けられているのはどれか」という設問がありました。自殺対策基本法は国全体の法律ではないのですか?

ご質問ありがとうございます。
自殺対策基本法は、日本の年間自殺者数が1998(平成10)年以降、8年連続で3万人を上回っていることや、自殺者(または自殺未遂者)の大切な人が深刻な心理的影響を受けていること、自殺の背景に様々な社会的要因があることなどから、自殺対策を社会全体の取り組みとして総合的に推進することを目的として制定されました。

自殺対策基本法においては、「国や地方公共団体、医療機関など、社会全体が密接な結びつきのもとに連携し合わなければならない」という基本理念のもとに、国だけではなく、地方公共団体、医療機関、事業者、個人などが果たすべき責務について、それぞれ法的に定められています

 

自殺対策基本法(平成28年4月27日改正)のおもなポイント

■目的
誰も自殺に追い込まれることのない社会の実現」を目指すために、自殺対策を総合的に推進し、自殺の防止を図り、あわせて自殺者の親族等に対する支援を充実させます。
これらによって、国民のひとりひとりが、健康で生きがいを持って暮らすことのできる社会の実現に貢献することを目的としています。

■自殺対策の基本理念
(1) 「生きることの包括的な支援」として、自殺のさまざまな要因を解消し、生きがいや希望をもって暮らすことができるような環境整備を充実させなければならない
(2) 自殺を個人的な問題としてのみとらえるべきものではなく、背景に様々な社会的な要因があることを踏まえ、社会的な取組みとして実施されなければならない
(3) 自殺対策は、自殺の実態に合わせて実施されなければならない
(4) 自殺の事前予防、自殺発生の危機への対応、事後対応(自殺発生後や自殺未遂後)などの各段階に応じた効果的な施策として実施されなければならない
(5) 自殺対策は、保健、医療、福祉、教育、労働その他の関連施策が密接に結びつきながら、総合的に実施されなければならない

国・都道府県・地方公共団体・事業主・国民のそれぞれの責務が定められています。

■自殺総合対策大網
政府は、政府が推進すべき自殺対策の指針として、基本的かつ総合的な自殺対策の大綱(自殺総合対策大綱)を定めなければなりません。

■都道府県・市町村における自殺対策計画策定
都道府県・市町村の責務として、それぞれ都道府県自殺対策計画・市町村自殺対策計画を策定することが定められており、全国的に自殺対策における様々な取り組みが行われています。
たとえば、東京都では、若年層の自殺防止対策の一環として、LINE相談アカウントを開設しています。また、自殺の背景にある様々な社会的要因(多重債務、いじめ、過労、引きこもり、家庭問題など)に応じた相談機関や窓口などが「こころといのちの相談・支援東京ネットワーク」として連携しながら、自殺防止に努めています。

以上が質問の回答です。
では、「自殺対策基本法」に関する国家試験の過去の問題を解いてみましょう。

問題

第108回看護師国家試験 午後問題31

自殺対策基本法で都道府県に義務付けられているのはどれか。

1. 自殺総合対策推進センターの設置
2. 自殺総合対策大綱の策定
3. ゲートキーパーの養成
4. 自殺対策計画の策定

1.× 自殺対策基本法の改正にともなう施策のひとつである。都道府県の義務としては法的に定められていない。
2.× 自殺総合対策大網の策定は、政府の責務である。
3.× 自殺の危険を示すサインに気づき、「命の門番」として適切な対応を図る人のこと。自殺総合対策大網における重点施策のひとつとして掲げられている。
4.○ 正しい。

正解…4

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編集部より

みなさんは「TALKの原則」をご存じでしょうか?「TALKの法則」とは、自殺ハイリスク者への対応について示したもので、「誠実な態度で話しかける(Tell)」「自殺についてはっきりと尋ねる(Ask)」「相手の訴えに傾聴する(Listen)」「安全を確保する(Keep)」という意味が含まれています。看護師は、自殺企図や自殺未遂などの患者と関わる機会が多く、医療従事者としてゲートキーパーの役割を担う責務があります。看護師としての基本姿勢のひとつとして、この機会にぜひ覚えておきましょう。