今回頂いた質問

今年(第107回)の看護師国試の問題の中に『ハイリスクアプローチ』という言葉が出ていたのですが、具体的にどのような活動なのかよく分かりません。どんなことをするのでしょうか?

ご質問ありがとうございます。
たしかに「ハイリスクアプローチ」は、主に保健師が専門的に行っている分野ですので、看護師の勉強の中ではなかなか馴染みがなく、看護の教科書にも詳細は載っていない言葉だと思います。そこで今回は、ハイリスクアプローチと共に保健指導のキーワードである「ポピュレーションアプローチ」も同時に説明していきたいと思います。

「ハイリスクアプローチ」 「ポピュレーションアプローチ」とは……

<ハイリスクアプローチ>
ハイリスクアプローチは、リスクを持っている人をスクリーニングし、ハイリスクの人を対象に行動変容を促すよう指導する活動です。例えば血圧、血糖値などを検査する成人病検診などがハイリスクアプローチの一環になります。この方法は、事後の適切なアドバイスや長期的な治療の供給がなければ、スクリーニングをすること自体が無意味になります。また、禁煙やダイエットなど、仲間と異なる保健行動が必要になることが多く、1回のスクリーニングと指導のみでは行動変容を維持するのは困難です。

<ポピュレーションアプローチ>
ポピュレーションアプローチは、それぞれリスクの有無に関わらず、多くの人が少しずつリスクの要因を軽減させることで、集団全体に大きな好影響をもたらすことに注目し、以下の図のように危険因子を左にシフトするように集団全体に働きかけることです。方法としては、(1) 法令・条例による遵守、(2) 経済的なインセンテイブ、(3) 環境整備などがあります。
例えば(1)は条例などによる分煙の義務化、喫煙できる公共の場所の制限、(2)はたばこやお酒の税金を上げることにより購買意欲を低下させる、(3)は企業に減塩の食品開発などを依頼し、減塩しやすくする方法などです。

●ハイリスクアプローチとポピュレーションアプローチの関係

「ハイリスクアプローチ」と「ポピュレーションアプローチ」の具体的な事例

 
A市が取り組んだ糖尿病対策へのアプローチ

■概要
・糖尿病があってもなくても全ての市民が健康でいきいき生活できる活力ある社会を実現させるために、市民一人ひとりが実践する健康づくりを基盤に、家庭・地域・学校・職域が一体となった新たな健康づくり運動を推進することを目的とする。
・糖尿病対策を医師会と連携して実態を把握、患者登録管理システムの構築、重症化防止の基本健康診査用指導対策、人間ドック事後指導などのハイリスクアプローチを実施した。指導者は増加したが知識の伝達に終わりがちで、指導期間中の生活習慣の変容はあったが、指導後の継続が見られず、年齢に伴う重症化も進んでいる。そのため、市民と協働しポピュレーションアプローチを展開している。

■ハイリスクアプローチ
<A市が以前行ったハイリスクアプローチ>

■ポピュレーションアプローチ
<その後、A市が行ったポピュレーションアプローチ>
地域市民の協力団体(婦人会、老人会、協議会など)や学校と行政団体が協働し、市民が健康的な生活習慣を送れるよう誘導し、かつ市民同士の「仲間づくり」や地域に自らの役割を見出し「生きがい」づくりとなる活動として、次のような取り組みが行われている。

1)生活習慣の改善の目標達成のための多様な選択肢づくり
個別健康教育や健診後事後指導により生活習慣の改善の達成目標を立てた者には身近にある多様なメニューを活用し、目標達成にむけて、生活習慣の改善を図り、効果を上げている。
1.指導の期間や内容、時間帯が限られた従来の事業から、自分のライフスタイルにあった時間帯や運動メニューを選べる事業内容に変更し、事業が終了した後も継続して生活習慣の改善ができるよう、民間のスポーツ施設を活用
2.体育指導委員協議会は、年代層に合わせた各種スポーツの集いやウォーキング指導者の育成
3.地域活動栄養士協議会の出張栄養指導、連合婦人会による各地区での料理教室や歩こう会、自治会連合会の地域の祭りやスポーツ大会等、各団体による自主的な取り組み

2)早期発見を促す機会の拡大
若い年代層が様々な場所で自分の健康状態について知り、さらには糖尿病予備軍を発見できるために以下のような取り組みを行っている。
1.市が実施する生活習慣病予防教室に市民協力団体が加わり対象者を支援することで、市民協力団体が市内各地で実施する取り組みに、自分の健康状態をチェックできる内容(食習慣・運動習慣、BMI・腹囲測定など)を組み込んで実施。
2.各種健康イベントで簡易血糖検査等を実施。今後さらに商工会等の協力を得て拡大する方針。
3.薬剤師会のまちかど相談薬局。

3)地域住民の関心と健康課題の把握と共有
主に行政が中心となり合併した地区へも出向き、自治会のみならず各市民団体や学校、職域において「地域懇談会」を開催し、地域の健康状態(健診結果、介護認定や保険料、医療費)等の健康課題をフィードバックし、市民の意識を捉えてきている。また、より市民と協働するために、各市民団体や学校、職域におけるファシリテーター等の人材を発掘している。

これらの健康づくりの取り組みによる予防効果を、医師会や保健所、保健センターなどで構成した「A市糖尿病対策協議会」で評価している。

以上がA市のハイリスクアプローチとポピュレーションアプローチの事例です。
ポピュレーションアプローチは地域との連携活動だけではなく、対象が集団であるので、学校や企業での健康づくり教室の開催などもポピュレーションアプローチとなります
これら2つの方法の保健指導を保健師が主となり企画や実行し、それぞれの健康に対する意識を変え、病気の予防、生活の質の向上を促進できるようにしていきます。

以上が質問の回答です。
では、「ハイリスク アプローチ」に関する国試の過去問を実際に解いてみましょう。

問題

第107回看護師国家試験 午後問題32

ハイリスクアプローチについて正しいのはどれか。

1. 費用対効果が高い。
2. 成果が恒久的である。
3. 一次予防を目的とする。
4. 集団全体の健康状態の向上に貢献する。

1. ○ リスクの高い者へのアプローチなので費用対効果は高い。
2. × ハイリスクアプローチの成果は恒久的とは限らない。
3. × すでにリスクが発見されている者に対して二次予防を目的とするものもある。
4. × 集団を対象とするのはポピュレーションアプローチである。

正解…1

●「健康支援と社会保障制度」の理解を深めるには
科目別強化トレーニング「健康支援と社会保障制度」

●保健師を目指しているなら
「保健師国家試験対策模擬試験」

編集部より

昨年度(第107回)の看護師国家試験で初めて登場した「ハイリスクアプローチ」は、看護師と保健師のダブル受験勉強を目指している方には馴染みある言葉ですが、看護師のみの方は今年の国試を見てびっくりしたかもしれません。でも、最近では地域で活躍される看護師さんも増えてきているので、臨床現場以外の知識も必要となってきているのですね。なので、最新の過去問の中で見慣れない言葉を目にしたら、どんどん調べてみましょう!