今回頂いた質問

認知行動療法について教えてください。

感情は思考と深く関連しています。感情が安定しなければ、合理的な思考や判断ができません。これを逆に利用したのが、認知行動療法(CBT)です。固定的な思考パターンの修正をはかることによって、気分や感情の安定をはかります。

認知行動療法の基本的な考え方は、できごとそれ自体ではなく、認知(そのできごとに対する受け取り方やものの見方)がその人の気分や感情を左右し、行動を決定するというものです。人は抑うつ状態やパニック障害にあるときには、その認知のあり方がゆがんでいると考え、再学習を行います。

認知行動療法では、心の表層である自動思考と深層に存在するスキーマの2つのレベルに分けて考えます。自動思考は、ある状況で自然に自動的にわきおこってくる思考およびイメージであり、スキーマとはその人の基本的な人生観で個人的な確信です。自動思考やスキーマは、普段は瞬間的な判断を助ける働きをしますが、大切な人との別れや仕事の失敗などその人にとって否定的なできごとが起こると非適応的なスキーマが作用して極端な認知のゆがみが生じます。さらにそれが自動思考として患者に意識されてしまうことで、行動や感情の障害も出現するのです。

認知のゆがみにはいくつかパターンがあります。下の表はその例です。

根拠のない決めつけ

証拠が少ないまま思いつきを信じ込む

全か無か思考

あいまいな状態に耐えられず、ものごとをすべて白か黒かという極端な考え方で割り切ろうとする

極端な一般化

少数の事実を取り上げ、全ての事が同様の結果になるだろうと結論づけてしまう

べき思考

「こうすべきだ」「あのようにすべきではなかった」と過去のことをあれこれ思い出して悔み、自分の行動を自分で制御して自分を責めること

過大評価・過小評価

自分が関心があることは拡大して捉え、反対に自分の考えや予想に合わない部分はことさら小さくみる

認知行動療法では、自動思考とスキーマに働きかけ、意識レベルを高めて合理的思考を強めようとします。たとえば、患者さんが自分のことを「どうせ私なんか……」と否定的に言うときには、どうしてそう思うかをたずね、そうした見方を修正できるように働きかけていきます。また、「ダメ」「どうしてそんなことするの」といった禁止や否定的なコメントを減らし、その患者さんのポジティブな面を見つけるようにします。治療者と患者の間に、一緒に問題に取り組むパートナーシップが形成されると、そのポジティブな体験が患者の否定的なスキーマに変化を生み出していくのです。

精神看護学では、患者の回復を支えるために、認知行動療法以外にもさまざまな方法があります。一緒に覚えておきましょう。
精神看護学での患者の回復を支える方法
回答は以上になります。
では、国家試験の問題を実際に解いてみましょう。

問題

第103回看護師国家試験 午前問題69

認知行動療法で最も期待される効果はどれか。

1. 過去の心的外傷に気付く。
2. 薬物療法についての理解が深まる。
3. 物事の捉え方のゆがみが修正される。
4. 自分で緊張を和らげることができるようになる。

1.× 精神分析療法で期待される効果である。
2.× 心理教育で期待される効果である。
3.○ 正しい。認知行動療法では、物事の捉え方のゆがみを修正して再学習する。
4.× おもに自律訓練法やリラクセーション法で期待される効果である。

正解…3

編集部より

「エモーショナルリテラシー」という言葉を聞いたことはありますか?自分の感情をコントロールして使いこなす能力のことをさします。よりよい人間関係を築くためには、単に感情を抑制するだけでなく、自分の感情を認識することが第一。そして他者の感情にも共感することが不可欠です。思考と感情のバランスを上手くとって、振り回されないようにしたいですね。