先日、毎日新聞に『遠隔診療 普及に課題』という記事が掲載された。
記事によると……病院に行かずにタブレット端末やスマートフォンなどの情報通信技術(ICT)を使って病気を診てもらう「遠隔診療」への注目が高まっている。4月から普及を狙って診療報酬が改定され、(略)高齢化や人口減少が進む社会のニーズに応える次世代の医療として期待されるが、広がるには利便性と安全性の両立が課題になる。 医師法は、(略)「患者との直接対面が基本」とし、遠隔診療は医師が常駐していない離島やへき地などでの例外とみなされてきた。(略)先端技術導入が医療の効率化や現場の負担軽減につながるという考えから2015年8月、遠隔診療について「へき地や離島は例示であり、限定ではない」と事実上全面解禁する通知を都道府県に出した。(略)患者にとっては、(略)自己負担がかからず、希望しやすい。厚労省は通院が困難な人や多忙な人が、糖尿病や高血圧症などの生活習慣病の定期的な受診をオンラインに切り替えることを想定している。ただ、「患者の息遣いや表情を見るのも医療。スマホだけで確認するのはいかがなものか」といった懸念も出た。

ということで、今回は「電子機器の高度化」に注目して解説!

例えば『電子機器の高度化』について、過去の国試ではこのように出題されていた!!

第107回 午後・68
紙カルテと比較したときの電子カルテの特徴として正しいのはどれか。
1.データ集計が困難である。
2.診療録の保存期間が短い。
3.多職種間の情報共有が容易になる。
4.個人情報漏えいの危険性がなくなる。

正解 3

 

この問題を新聞記事・ネットニュースから読み解く!!

京都大学でiPS細胞から作った神経細胞でパーキンソン病を治療する研究の臨床試験が今月1日から始まりました。どんな世界でもそうではありますが、医療の現場というのは想像もつかない程の目まぐるしいスピードで進化しているのだと思います。冒頭の記事もそのひとつではないでしょうか。まさか医師と直接対面しなくても、画面越しに診察を受けることが出来る日が来るとは思いもしませんでした。
今回はそんな新しい技術など、どんどん突き進んでいく医療現場のハイテク化について掲載されていた記事をいくつか紹介していきたいと思います。

データによる情報共有で、あらゆる予防を!

今や、医療現場では患者の情報等をデータで管理する施設が増えており、個人的には紙カルテというのはあと少しでなくなってしまうのではないのか、と思ってしまいます。電子カルテには情報漏えい等のデメリットも存在しているとは思いますが、やはりあらゆる面でのメリットというのも大きく存在していると思います。そういった、データでの管理だからこそ出来る新しい取組みについて紹介した記事がありましたので、早速見てみましょう。


厚生労働省は16日、医療と介護に関する情報のデータベースを結びつける方針を決めた。同日の専門家会議に示した。病気の予防や効果的な介護サービスの提供につなげる狙い。2020年度の運用開始に向け、7月をめどに詳細を詰める。 診療日や投薬の記録、健康診断結果など医療に関する情報と、介護サービスの利用状況や要介護認定など介護に関する情報は、厚労省が別に収集している。いずれも自治体や研究者らが利用できるが、個人が特定できないよう匿名加工しているため横断的に分析できない。 双方のデータを突き合わせることで、要介護度ごとの病気の罹患率を統計的に分析できるようになる。医療機関や介護事業者に提供すれば、病気の予防や介護度悪化の予防などに役立つ。医療・介護費の抑制効果も期待できる。 一方、個人が特定されるリスクが高まるため、データ提供の範囲、対象などを7月までに検討する。

—毎日新聞  2018年5月17日(木)

電子カルテなどの、患者情報をデータで管理するという技術があるからこそ、この記事に出てくる「医療・介護データ連結」というのは実現が可能なのでしょう。厚生労働省が情報を収集・管理して、患者のデータを“病院”と“介護”の両側面に繋げるというのはなかなか理に適っているのではないでしょうか。その患者の健康診断結果や投薬記録などの医療に関するデータと、介護サービスの利用状況や介護認定などの介護に関するデータの双方を管理することで、情報の一元化が可能となります。このシステムは高齢社会であり、医師不足が囁かれている現代、そしてこれからの社会には恐らく最適なシステムといえるのではないでしょうか。こうした情報の共有や一元化というのは効率を重視していかなくてはならない医療の現場において必要不可欠であり、重要なことだと思います。ただしかし、そこには記事にもあった通り、個人が特定されてしまうなどのリスクも隣り合わせなのだという事も頭の片隅に入れておかなくてはならないかもしれませんね。

 

いよいよ始まるのか!? AIの時代!

6月に千葉大医学部付属病院でCTの検査画像からがんの所見を見落とすなどのミスがあり、治療開始が遅れ患者が死亡したというニュースがありました。医師も人です。ミスはどうしても起きてしまうと思います。ただ、それがどんな職業よりも人の命に直結してしまう分、風当たりも強く、許されずに多くの追及を受けてしまいます。
しかし、今回、その画像検査の分野において素晴らしい記事が東京新聞に掲載されていました。まさしくこれからの時代を突き進んで行く先端技術の第一歩目といえるのではないでしょうか。早速見てみましょう。


理化学研究所と国立がん研究センターは21日、人工知能(AI)を使って、内視鏡画像から早期胃がんを熟練医並みの精度で見つけることに成功したと発表した。
検診に使えば見逃しを減らし、早期治療につながると期待される。研究チームは、医師の判断を支援する装置として実用化を目指すとしている。
胃がんは自覚症状に乏しいため、進行してから発覚するケースが多い。また早期の場合、炎症との区別がつきにくく、専門医でも発見するのが難しいのが実情だ。
チームは、内視鏡で撮影した百枚の早期胃がん画像と百枚の正常な胃の画像を学習用データとして用意。「ディープラーニング(深層学習)」と呼ばれる技術を使ってAIに学習させた結果、がんの80%を正しくみつけることができた。正常な組織を正常と判断できた割合は95%だった。

—東京新聞  2018年7月22日(日)

この「AIで早期胃がん発見」についての報道は色々な新聞各紙が掲載していました。それだけ、やはり注目度も高く、凄いことなのだろうと思います。これまで、人の目でしか判断することが出来ず、見落としてしまって発見が遅れ……ということがあっただけに、この新しい技術というのは今後、大きな役割を担っていくのではないでしょうか。理化学研究所のサイトを見てみると、実際のテスト画像を見る事が出来るのですが、その新しい技術の正確性の高さに驚いてしまいます。記事にもあった通り、非常に見付けにくいがん領域でもその周辺を含めてしっかりと捉えており、「見逃しを減らす」という言葉は本当にその通りになるのではないでしょうか。しかし、記事にもありましたが、あくまで「医師の判断を支援する装置」であり、この技術に判断の全てを委ねてしまうという訳ではありません。もしかしたら遠い未来、そういった完璧な技術が生まれ、医師がいらない日が来るのかもしれないですが。

 

畑は違う。でも、思いは同じ……


今回紹介したような医療の業界における、あらゆる分野での進歩というのは本当に凄い勢いで発達し、進化しているように思います。新聞の記事には掲載されていない、もっともっと驚きの発見や発明などもきっとたくさんあるのでしょう。でも、そこに至るまでには恐らく並大抵ではない研究や実験、失敗と成功の繰り返しが行われていて、色々と形になっているのだと思います。僕自身は医療従事者という訳ではないので、その恩恵を受ける一方であり、その“ハイテク化”や“進歩”・“進化”を自ら扱うという訳ではありません。それでも本当に凄いのだなぁと記事を読んでいて思います。そして、それはやはり誰かが誰かを救いたい、より良くすることで多くの人に助かって欲しいという思いが大前提としてあり、その思いというのは実際医療の現場に立って病気やケガと直接対峙している医師や看護師の方々と同じ思いなのではないでしょうか。しかし、時として良くないことも起こってしまいます。それでも失敗を失敗のままにせず、反省を成功に繋げる強い意志が、きっとこれからもより良い“進歩”や“進化”を生み続けていくのだろうと、僕は思います。

 

イラスト:Aokimac

 

おまけ!あなたは知ってる!? 豆知識!
~iPS細胞とES細胞の違い~

いつもなら、ここでは各回のテーマに関連する国試の過去問題を紹介していましたが、今回は特別企画「「あなたは知ってる!? 豆知識! 」と題して、普段何気なく聞いているけど、実はちゃんと理解していなかったことを少しだけ解説していきたいと思います。
今回は『iPS細胞とES細胞の違い』についてです。みなさんご存知でしたか?

京都大学や理化学研究所など、最近iPS細胞についての発表や報道が相次いでいますが、ES細胞についての報道はあまり多くありません。どうしてでしょうか。
iPS細胞もES細胞も、あらやる細胞に変化する能力を持つ多能性幹細胞であり、その能力を駆使して臓器や組織の細胞を作ることを目指した研究が行われていました。しかし、このふたつには大きな違いがあり、その違いが日本国内での研究に差を生んでいます。

ES細胞はヒトの受精卵が分裂し、分化を繰り返して胎児と呼ばれる状態になるまでの間の胚(胚盤胞)の内側にある細胞を取り出して、特別な条件下で培養した細胞のことをいいます。他人の受精卵から取り出したES細胞を用いて作製した組織や臓器を患者に移植することになるため、拒絶反応や、人として成長していく可能性を持つ受精卵を壊して作製することから、生命倫理の問題が高い障壁となり、ES細胞研究は政治・宗教を巻きこんだ社会問題へと発展していきました。

iPS細胞は初期化に必要な4つの遺伝子を、既に分化した皮膚などの体細胞に入れて人工的に作り出すことができるため、ES細胞のように受精卵を利用することがありません。また、初期化する細胞は患者自身の細胞に由来するため、iPS細胞をもとに作った臓器を患者に移植しても、免疫系はその臓器を自己と認識し移植が拒絶されることは少ないと考えられます。

実は海外ではiPS細胞よりもES細胞の研究の方が進んでいるそうです。しかし、日本では逆ですね。iPS細胞の研究の方がどちらかというと強く進められているように感じます。と、いうのも、海外ではES細胞を作成する過程に対する倫理的問題について日本に比べて寛容なようです。しかし、日本ではやはり、受精卵を使用して数多くの研究を進めるということに対して、「問題ない」とはどうしてもなりません。僕もそう思います。それなら、遠回りしてでも、時間がかかってでも、受精卵を使わないiPS細胞の研究を進める国であって欲しいと思います。
しかし、今年、その日本国内のiPS細胞の研究は大きな大きな前進を遂げようとしています。
恐らくここからたくさんの研究結果等が発表されると思います。
みなさん、少しだけ息抜きに、注目してみてはいかがでしょうか。