先日、東京新聞に『風疹 昨年の2倍に』という記事が掲載された。
記事によると……国立感染症研究所は28日、今年に入って報告された風疹の患者数が計184人となり、すでに昨年1年間の2倍近くに達したと発表した。流行は続いており、千葉県や東京都など首都圏を中心にさらに拡大するとみられる。感染研は「ワクチン接種を受けたことのない人や、近くに妊婦がいる人は接種してほしい」と呼び掛けている。
流行は24都道府県及び、13~19日の1週間に新たに報告された患者数は43人に達した。(略)
今年の患者数は7月下旬から急増し、8月上旬に17年の93人を超えた。男性に多く、目立つのは30~40代。ワクチン接種を受けていない世代に広がっていると感染研はみている。
風疹はくしゃみなどで広がり感染力が強い。妊娠中に感染すると生まれた赤ちゃんが難聴や白内障などになるリスクがある。

ということで、今回は今年になってこれまでに話題となった「感染症」に注目して解説!

例えば今年になってこれまでに話題となった『感染症』について、過去の国試ではこのように出題されていた!!

第106回 午前・63
妊娠の感染症と児への影響の組合せで正しいのはどれか。
1.風疹 ——————————— 白内障
2.性器ヘルペス ——————— 聴力障害
3.トキソプラズマ症 ————— 先天性心疾患
4.性器クラミジア感染症 ——— 小頭症

正解 1

 

この問題を新聞記事・ネットニュースから読み解く!!

異常な暑さによって様々な問題が生じた今年の夏ですが、その暑さもようやく落ち着き始めた今日この頃、現在我々がまた新たな脅威に襲われているのをご存知でしょうか。8月14日の時点で厚生労働省は風疹流行の徴候がみられるということで、予防接種の徹底などを全国の自治体に向けて呼び掛けましたが、その約2週間後には東京・千葉県が中心だった流行は全国へと広がってしまったようです。夏休みで都市部と地方での人の行き来が増え、感染が広がったとみられています。また、別の記事ではこの風疹の流行により、感染した妊婦から生まれた先天性風疹症候群の赤ちゃん45人のうち、11人が亡くなっていたという記事もありました。(2018年8月29日 YOMIURI ONLINE)
冒頭の記事にあった通り、予防接種を受けたことのない人はすぐに接種して欲しいと思います。
そして、この風疹の記事を目にする度に、今年はやけに感染症についての報道が多いなと思わされます。覚えているでしょうか。春頃にも、ある感染症が大きな話題となっていたことを……。

始まりはたった1人の外国人から

その話題となった感染症とは麻疹です。最初は1人の外国人観光客から始まり、たちまち全国へ広がり、一時はワクチンが足りなくなる程にまで世間を騒がせました。忘れかけている方の為にその時の記事を見ながら解説していきたいと思います。


沖縄や愛知を中心に増加している「はしか」の今年に入ってからの患者数が少なくとも154人に上ることが15日、国立感染症研究所などの集計で分かった。厚生労働省は2回のワクチン接種を受けるなど予防接種の徹底を呼び掛けている。
同研究所が15日発表したデータによると、今年に入ってから5月6日までに感染者が確認されたのは沖縄や愛知、東京、大阪など12都道府県。流行は沖縄で3月、台湾から観光に来た30代男性がはしかを発症したのが発端。県内では14日までに全国で最も多い98人が感染した。
はしかは非常に感染力が強く、発熱や発疹のほか、せきや目の充血などの症状が出る。厚労省は11日、特に重症化しやすい妊婦や0歳児の感染を防ぐため、接触の多い病院や保育園の職員に2回の予防接種を徹底する方針を決めた。

—毎日新聞  2018年5月16日(水)

一時期は本当に多くのメディアを騒がせていた麻疹ですが、今はすっかりその名前を聞かなくなりました。しかし、調べてみると、実は麻疹はさらに海を渡り、地球の反対側のブラジルで現在大流行しているようです(2018年8月23日 JORNALニッケイ新聞)。
感染症の恐ろしいところはまさしくこれだと思います。海を渡って広がることが出来るということです。日本での流行の発端は記事にあった通り、海外から来た、たった1人の男性から始まりました。1人の感染者が海を渡って着いた先で発症し、その土地で感染が広まってしまうのです。もしかしたら、まだその恐ろしさに気付いていない人の方が多いかと思います。この麻疹の件は1人の感染者がひとつの感染症を広めたに過ぎないのですから。しかし、2020年の東京オリンピックはどうでしょう。恐らくたくさんの外国人観光客が来日します。そのたくさんの観光客の中には、麻疹に感染している人、風疹に感染している人、もしくは今まで日本では流行したことのない病気に感染している人などがいるかもしれず、一度に多くの感染症が日本に入ってきてしまうことになるのです。その時、この春頃に流行した麻疹や、現在流行している風疹のように、強力な感染力でたくさんの感染症が一気に日本中に広がってしまうかもしれません。想像しただけでとても恐ろしいです。

 

そこにもいるの!? しかも薬が効かない!?

感染症の恐ろしいところは他にもあります。今回調べていると、本来は感染した菌を退治するはずの抗生物質が効かない「多剤耐性菌」が病院内に現れたという記事がありました。しかも、その病院内の重症治療室内での院内感染から引き起こされたというのです。この病院内で発多剤耐性菌が発生した理由と感染経路に関する記事があります。見てみましょう。


静岡市立静岡病院(同市葵区)は10日、入院患者4人から多剤耐性アシネトバクターが検出され、うち18歳の男性と81歳の女性の計2人が死亡したと発表した。女性は感染が原因の肺炎で死亡、男性の死因は敗血症で、死亡と感染の因果関係は不明としている。
病院によると、感染した4人は5~7月に入院し始め、いずれも同じ重症治療室で治療を受けていた。5月31日に台湾の病院から転院してきた78歳の男性が発端となり、院内感染したとみている。
6月5日と15日に男性と女性のたんから菌が検出されたため病室を検査、2人のたんを吸引する器具のスイッチから菌が検出されたという。
病院は4人の感染原因について「職員による医療処置やケアのプロセスで、感染予防策が完璧でなかった可能性がある」とした。
(略)残る2人は入院中で、30代の男性が肺炎を発症したが、菌は検出されなくなり、80代の女性は発症しなかった。
多剤耐性アシネトバクターは、ほとんどの抗生物質が効かない多剤耐性菌のひとつ。免疫力が弱っている場合などに感染症を引き起こす可能性がある。

—東京新聞  2018年8月11日(土)

今回の記事で出てきた「多剤耐性アシネトバクター」はあまり聞きなれない名前の菌ですが、実は2008年にも福岡で集団発生しており、2009年には千葉県で、2010年には愛知県で同様の事例が起こり、話題になっていました。しかも、この菌もやはり海外から流入してきたようです。本来は健康な状態であればほとんど無害の菌ですが、免疫力の低下した患者が集まる集中治療室などで1人でも感染すると一気に広まってしまうという恐ろしい菌です。ただ、感染経路が風疹や麻疹と違い、空気感染ではありません。人の手や、治療器具などから感染が広がります(詳しくは国立感染症研究所感染症情報センターHPで)。
免疫力の低下した患者の集まる治療室なだけに、こういった菌の感染は防がなくてはならないはずであり、職員も十分に気を付けていたと思いますが、まさか原因がスイッチだったとは……。それでもやはりこのような事件が起きてしまったというのもまた、感染症の恐ろしいところなのではないでしょうか。

 

感染しない、感染させないことが大事なのでは……


ようやく暑かった夏が終わり、これから秋がきて、寒い冬が訪れます。それに伴い、また今年もインフルエンザやノロウイルスなどが流行することになるのではないでしょうか。今現在流行している風疹もこれから現れるインフルエンザも、勿論感染しないこと、また感染が広がらないことが一番です。しかし、いつどんな所で何があるか分かりません。まずは1人ひとりの感染しない為の予防の努力と、感染してしまった人がまた誰かにうつさないための努力というのが、大事なのではないでしょうか。また、開催まで残り僅かとなってきた東京オリンピックに向けて、感染症などの見えない脅威への対策についても国や政府にはしっかり目を向けて対応していって欲しいと思います。

 

イラスト:Aokimac

 

おまけ! 今回のテーマに関連するワードの過去問題も見てみよう!

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第96回 午前問題119
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第100回 午前問題89
第106回 午前問題63
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第107回 午後問題73