少し前、連日ニュースや新聞を日本人医学者のノーベル賞受賞の記事が賑わしており、先日、毎日新聞にも『本庶佑氏 ノーベル賞』という記事が掲載されていた。
記事によると……スウェーデンのカロリンスカ研究所は1日、2018年のノーベル医学生理学賞を京都大高等研究院の本庶佑特別教授(76)と米テキサス大のジェームズ・アリソン教授の両氏に授与すると発表した。本庶氏は免疫の働きにブレーキをかけるたんぱく質「PD-1」を発見し、このブレーキを取り除くことでがん細胞を攻撃する新しいタイプの「がん免疫療法」を実現した。
日本の医学生理学賞受賞は、山中伸弥・京都大教授(12年)や大隈良典・東京工業大栄誉教授(16年)らに続き5人目。本庶氏は同日、京都大(京都市)で記者会見し、「大変幸運な人間だ。これまで以上に多くの患者を救えるよう、もう少し研究を続けたい」と語った。(略)
両氏への受賞理由は「免疫抑制の阻害によるがん治療の発見」。カロリンスカ研究所は「がんは何百万人もの命を奪っており、克服は人間社会にとって重要だ。本庶氏の発見に基づく治療法は、がんとの闘いに著しく効果的であると判明した」と評価した。(略)授賞式は12月10日にストックホルムであり、賞金900万スウェーデンクローナ(約1億1500万円)は両氏で等分する。(略)

ということで、今回は国試解説はお休みして、特別企画として、「ノーベル賞」に注目して、過去の新聞記事からいくつかピックアップして紹介していきたいと思います!

 

そもそもノーベル賞とは!?

ノーベル賞は、ダイナマイトを発明したスウェーデン人、アルフレッド・ノーベルの遺言に基づいて1901年に創設された賞です。
現在は、『医学生理学』『物理学』『化学』『文学』『平和』『経済学』の6つの賞があります。それぞれの分野ごとに毎年3人までが受賞し、これまでに900を超える個人と団体が受賞しています。ノーベルの遺言では「前年に人類に最大の貢献をもたらした人々」に賞が贈られることになっていますが、実際には前年の功績とは限らず、数十年前の成果で受賞することもあるようです。
選考は、毎年9月に世界中の研究者に数千通とされる推薦状を送り、翌年のノーベル賞にふさわしい人物を挙げてもらい、翌年1月に回収したうえで、そこから1組3人以内に受賞者を絞る作業を行います。物理学賞と化学賞の場合、「ノーベル委員会」という選考機関が候補者を絞り込み、最終的には、専門家350人が参加する「スウェーデン王立科学アカデミー」が協議して受賞者を決めます。そして、ノーベル賞は原則として存命している人物しか受賞できません。誰がどの人物を推薦したかなど選考の過程は秘密とされ、50年後にならないと公開されない仕組みとなっています。
日本はこれまでに経済学以外の5賞の受賞者を出しており、17年までの国別受賞者数順位(物理学、化学、医学生理学)は米国が261人、次点は英国の79人、ドイツが69人となります。ノーベル財団によると、文学や平和、経済学を含めると1901年から2017年までに923の個人と団体が受賞しています。
そして、授賞式はスウェーデンの首都ストックホルムで開かれ、同国国王が賞状とメダルを贈り、平和賞はノルウェーの首都オスロで開かれます。

そこで、今回は過去に日本人が受賞した時の記事と、その研究内容が現在、どのように反映されているかという部分に注目して紹介していきたいと思います。

 

今最も注目されている再生医療は、ここから始まった!

同コラムの第9回でも紹介し、今最も注目を浴びている研究のひとつでもある「iPS細胞」。その研究も2012年にノーベル賞を受賞しています。現在の研究の全てはここから始まっていたのですね。早速記事を見てみましょう。


スウェーデンのカロリンスカ医科大は8日、今年のノーベル医学生理学賞を、京都大の山中伸弥教授(50)らに贈ると発表した。皮膚などの体細胞から、様々な細胞になりうる能力をもったiPS細胞(人工多能性幹細胞)を作り出すことに成功した。難病の仕組み解明や新薬開発、再生医療の実現に向けて新しい道を開いた。(略)
皮膚など様々な細胞は1個の受精卵から分かれてできる。受精の直後は体のあらゆる細胞になる「万能性」をもつが、特定の役割を持つようになると、元の状態に戻る「初期化」はしないと考えられていた。
山中さんらはこの生物学の常識を覆した。(略)山中さんは、難しい核移植をしなくても、初期化できることを発見した。06年8月、マウスのしっぽから採った体細胞に4つの遺伝子を導入することで、様々な細胞になりうる能力をもつiPS細胞を作ったと発表した。07年11月にはヒトの皮膚の細胞でも成功したと発表。(略)
iPS細胞は、新薬開発への応用が期待されている。様々な病気の患者の細胞からiPS細胞を作り、神経や肝臓などの細胞に分化させ、薬の候補になる薬剤をふりかければ、効果があるのか、毒性がないのか、調べることができる。
また、iPS細胞から神経幹細胞を作って脊髄損傷の患者に移植したり、心筋細胞を心不全の患者に移植したりして、病気を治す再生医療の実現に向けて世界中で研究が進んでいる。

—朝日新聞  2012年10月9日(火)

今や皆が聞いたことのある「iPS細胞」。僕は当時このニュースを見て、正直「一体なんのこっちゃ?」と思いました。そして、「本当にそんなことがあり得るのか、実現しても遠い未来のことで、極一部の人間しか関わりのない領域であり、世間に浸透しないのではないのか」と思っていました。しかし、10年も経たない内に「iPS細胞」という言葉は世に浸透し、それが一体どういったものなのかということまで、世間に広く知られるまでになりました。そして、我々が思っている以上に、その研究スピードは速く、もしかすると更に10年後には、一般的な治療の一部となり、誰でもiPS細胞の恩恵を受けて怪我や病気を治すことのできる時代になっているのかもしれませんね。

 

今や当たり前! 誰もが使っているアレも、ノーベル賞を受賞していた!

今、あなたはこのコラムを何を使って読んでいますか? もしかして、スマートフォンで読んでいる人も多いのはないでしょうか。あなたが今使っている、スマートフォンやタブレットを操作する際に触れているタッチパネルなどの基も、実は日本人の研究から生まれたということを知っていましたか? そして、勿論、その研究もノーベル賞を受賞しているのです。少し古い記事ですが、その時のノーベル賞受賞について掲載された記事がありましたので、見てみましょう。

スウェーデンの王立アカデミーは10日、2000年のノーベル化学賞を筑波大の白川名誉教授(64)(略)に贈ると発表した。業績は「伝導性ポリマーの発見と開発」。伝導性ポリマーは電気を通すプラスチック。世界で初めてこの伝導性ポリマーをつくることに成功した。日本人のノーベル賞受賞は1994年の文学賞の大江健三郎氏に次ぎ9人目。化学賞は81年の故福井謙一博士に次いで2人目。(略)
プラスチックは金属とは違い、ふつうは電気を通さない。白川名誉教授らは、プラスチックに手を加えると、電気を通す性質(伝導性)をもつようになることを見つけた。
プラスチックは、規則的な構造をもった、長い鎖状の「ポリマー」とよばれる高分子。これが電気を通すには、ポリマーの中で炭素原子が規則的に並んでいるなど、一定の条件がそろっていなければならない。(略)
伝導性プラスチックの研究は、この業績を契機に、物理、化学の両分野で重要な研究領域に発展した。
伝導性プラスチックは金属よりはるかに軽い利点があり、実用性が高い。現在では、プラスチック電池、写真フィルムの帯電防止剤、夏の強い太陽光を遮る窓ガラスなどに利用され、携帯電話や超小型テレビの画面の開発などへの応用も進んでいる。(略)
「将来、われわれは個々の分子からできたトランジスタや電子部品をつくれるようになるだろう。そうすれば、コンピューターの計算速度は飛躍的に速くなり、大きさも腕時計の中に収まる日がこないとも限らない」と業績を評価している。

—朝日新聞  2000年10月11日(水)

2000年に表彰されたこの「伝導性ポリマー」の研究の成果は、今や私たちの生活になくてはならないものとなり、まさに生活の一部となっています。普段スマートフォンや銀行ATMなどで触れて操作しているタッチパネルは、この伝導性ポリマーの研究から発展・応用させたものです。この研究内容も当時の僕は、よく分からなかったですが、今こうして改めて研究内容を読み、普段使っているものに還元されていると考えると、ノーベル賞を受賞する意味がよく分かります。まさしく、時代の発展と向上に大きく貢献した研究であると言えますね。
また、この伝導性ポリマーが生まれるに至った、面白い逸話がいくつかありました。もし、興味があれば、そういった研究の“背景”などを覗いてみるのも良いかもしれませんね。

 

今はなかなか現実味がなくても…


今回、特別企画として、「ノーベル賞」に注目して、看護師国家試験とはあまり関係のない記事を色々と紹介しましたが、いかがだったでしょうか。個人的には調べていてとても楽しく、ワクワクしてしまいました。当時、まだ少年・青年時代ではあり、その内容が分かっていた訳ではなかったし、勿論、その偉大さも到底理解できていませんでした。
しかし、改めてその内容に着目して、今の自分たちの生活を振り返った時に、その研究は現代の色んな所で大きく貢献し、浸透し、欠かせないものとなっていることが多かったです。
今年、本庶さんが受賞した研究も今後さらに大きく飛躍・発展し、「がん免疫療法」はこの先、がん治療の中では当たり前となり、もしかしたら10年後には誰もが受けられる治療となり、がんによる死亡数が激減しているかもしれません。
ノーベル賞、偉大で素敵な唯一無二の賞であると同時に、遠くない未来の予想図を表しているのかもしれませんね。

 

イラスト:Aokimac

 

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