先日、毎日新聞に『精神科医に拳銃を持たせてくれ』という記事が掲載された。
記事によると……全国の精神科病院でつくる「日本精神科病院協会」の山崎学会長が、協会の機関誌に「(患者の対応のため)精神科医に拳銃を持たせてくれ」という部下の発言を引用して載せていたことが分かった。21日、患者団体などでつくる「精神科医療の身体拘束を考える会」が問題視する集会を国会内で開催。「日本の精神科医療のトップが患者を危険な存在と差別し、許されない」と批判が出ている。この発言をした医師は、米国の病院では武装した警備員が精神疾患の患者を拘束したり、拳銃を発砲しており「欧米の患者はテロ実行犯と同等に扱われるようになってきている」と指摘。その上で「僕の意見は『精神科医にも拳銃を持たせてくれ』ということです」と主張している。
患者団体は集会で、(略)「対策を検討してほしいという願いを言いたかった。医療提供者もかけがえのない人たちだ」としている。

ということで、今回は「精神医療」に注目して解説!

例えば『精神医療』について、過去に国試ではこのように出題されていた!!

第104回 午後・88
精神科病棟における身体拘束時の看護で正しいのはどれか。2つ選べ。
1.1時間ごとに訪室する。
2.拘束の理由を説明する。
3.水分摂取は最小限にする。
4.患者の手紙の受取りを制限する。
5.早期の解除をめざすための看護計画を立てる。

正解 2・5

この問題を新聞記事・ネットニュースから読み解く!!

精神医療についての問題は国試にももちろん出てきますが、実は普段の新聞にも精神医療についての記事というのは時折出てきます。大きな問題として取り上げられることというのは多くないのですが、それでも確実に何かしらの問題点が浮かび上がって、またその問題を対処しての繰り返しを行うことで、着実に精神医療も少しずつ進歩してきました。
それにしても、この冒頭の記事に出てきた「拳銃を持たせてくれ」というのはとても無視できない発言であると思います。しかし、精神医療にはこういったショッキングな問題が度々起こっています。
そこで、今回は実はあまり知られていなかった精神医療で起きている問題と、今後の展望へとつながるような記事をいくつか紹介していきたいと思います。

 

やりすぎ! それはもはや、医療じゃない! 拷問だって!

冒頭の記事の中にも少し出てきていましたが、「精神科医療の身体拘束」というのが少しずつ問題として浮き上がってきています。この件について取り上げている記事がありましたので、みていきましょう。

精神科病院での身体拘束中や拘束後に死亡した患者が、2013~18年に少なくとも9人いたと、医師などでつくる「精神科医療の身体拘束を考える会」が発表した。同会代表の長谷川利夫・杏林大教授は「身体拘束でかけがえのない命が失われている。看過できない状況だ」と指摘した。(略)
死亡が判明したのは、ニュージーランド人男性を含めた男女9人。死亡と身体拘束との因果関係はわからないが、拘束した病院を提訴している例もあった。
このほか、患者本人や家族から130件以上の相談があり、100日以上身体拘束を受けているという患者もいた。「拘束は苦しみや屈辱以外の何ものでもなかった」「本当に必要な身体拘束だったのか不信感でいっぱい」などの声がよせられたという。
精神科での身体拘束は、身体保健指定医の資格を持つ精神科医がやむを得ないと判断した場合に限り、行えるとされている。
——yomiDr.(読売新聞)  2018年5月22日(火)

直接的な原因というのはこの記事からは読み取ることはできませんが、現実に死亡してしまった方が9人もいたというのは正直驚きを隠せません。ましてや拘束中に死亡したというのは、果たして本当に拘束といえるのでしょうか。なんだかもはや拷問といわれても仕方ないぐらい由々しき事態に思えます。そして、命が失われていないとしても100日以上拘束されていただなんてとても考えられません。「本当に必要な身体拘束だったのか不信感でいっぱい」という言葉は本音でしょう。当然です。これは早急に解決しなくてはならない問題であると思います。
また、別の事件であり、医療現場で起きた内容ではないですが、都内に住む統合失調症の男性がコーラ1本を万引きして警察に身柄を拘束されて、本人や弁護士が退院を請求しても認められず、約半年も強制的に特定の精神医療施設に入院させられるという記事もありました。この事件に関しては国連作業部会が立ち上がり、日本政府に対して「明らかな世界人権宣言に反しており、差別的だ」と意見書を提出したそうです。冒頭の拳銃の発言もそうですが、どうしてもこういった問題の根底には差別的な部分が見え隠れしてしまっているような気がするのは僕だけでしょうか。
 

本当は人手不足!? 精神医療の現場!

こうした精神疾患をもった方々に対する差別的な問題というのが、明るみになってきています。拘束されていたら外にSOSも出せません。強制的に入院させられていて、助けてくれる人なんてなかなか出会えません。このような由々しき事態というのは今後、もっともっと明るみになるべき事だと思います。
しかし、暗い話題ばかりでもありません。調べていたら、こんな記事も見つけました。一緒にみていきましょう。

医師が通常より3倍多く配置された精神科の病棟では、患者が約3か月を超えて入院するリスクが2割下がるとの分析結果を、医療研究機構などが発表した。
医師が多いほど治療効果が高まり、入院期間の短縮につながるとみて、医師を手厚く配置しやすくする体制作りの必要性を訴えている。成果は国際医学誌電子版に掲載された。
精神科の医師配置に関する国の基準は、入院患者48人に対し、1人。一般の病棟の入院患者16人に対し1人より手薄になっている。(略)
精神症状が悪化した患者に集中的な治療をする病棟で、患者16人に1人と一般の病棟並みに医師を手厚く配置すると、診療報酬が高くなる仕組みに着目。レセプト(診療報酬明細書)の情報を集め、2014年10月から1年間に入院した患者の状態を手厚い病棟と基準通りの病棟で比べた。(略)その結果、手厚い病棟では入院日数が90日超えとなる割合が約17%で、基準通りの病棟より約4ポイント低く、リスクは21%下がっていた。また、手厚い病棟のほうが、退院から90日以内に再入院する割合も低く、退院後に経過をみるため外来を受診する割合は高かった。
——yomiDr. (読売新聞)  2018年4月16日(月)

精神科の医師の配置人数というのは非常に重要な部分ですね。明らかに一般病棟に比べて少なすぎるように思えます。これだけの少ない人数で多くの患者さんを相手していたら、当然忙しくなり、イライラもすることでしょう。それに、1人ひとりに向き合う時間も体力も断然変わってくることでしょう。
この記事がもっともっと多くの人の目にとまり、今後の精神科病棟の大きな変革に繋がってくれたらなと思い今回、ご紹介しました。

 

どうして生まれちゃう差別的発言……


今回紹介した記事から、分かってきたことがあります。それは精神科医療もまた、深刻な人手不足なのではないのかということです。人手が足りず、1人ひとりが担当する患者が増えれば、当然、寄りそう時間も余裕も何もかもが削られてしまいます。そうした時に、どうしても思うように伝えたいことが通じないということが多くなると相手に対して思いやりも持てなくなってしまいます。その結果、治療の時間は延び、患者は次から次へと来てしまい、さらに余裕がなくなっていくという悪循環が生じてしまっているように思えます。そして、その悪循環から冒頭の「拳銃」発言や、拷問のような身体拘束が生まれてしまうのではないのでしょうか。
しかし、最後に紹介した記事のように、しっかり人手が充足していれば悪循環は消え、良い結果に繋がっていくということも分かりました。
今後、行政には、この差別的事件をきっかけに悪循環から大きな変革を迎えてくれることを期待したいと思います。

 

イラスト:Aokimac
 

おまけ!今回のテーマに関連するワードの過去問題も見てみよう!

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第103回 午前問題37
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