日本経済新聞2018年3月30日(金)医療事故4095件過去最多
先日、日本経済新聞に『医療事故4095件 過去最多』という記事が掲載された。
記事によると…日本医療機能評価機構は3月29日、2017年に全国の医療機関から報告があった医療事故は前年に比べて、203件増えた4095件で、年単位で集計を行い始めた2015年以降で最多件数を更新したと発表した。日本医療機能評価機構は、増加の原因は医療事故を報告する意識が現場で高まっている事が件数増加の要因であるとみている。
事故内容別では患者の転倒など「療養上の世話」が最も多く、続いて手術ミスなどの「治療や処置」が多かった、としている。

ということで、今回は「医療事故」に注目して解説!

例えば『医療事故』について、過去に国試ではこのように出題されていた!!

第99回 午後・38
医療事故発生時の対応で適切でないのはどれか。
1.患者の安全の確保
2.事故に関わる物品の保全
3.発生状況の記録
4.発生部署内での解決
正解 4

この問題を新聞記事・ネットニュースから読み解く!!

医療事故の発生時において、非常に基本的で大事なことを問う内容になっています。この基本的なことを怠ってしまったがために、大きな問題として取り上げられている事故がいくつかあります。
選択肢1~3は事故発生時において適切な対応といえますが、この適切な対応が出来るか出来ないかで、事故発生のその後が大きく変わってしまいます。

ということで、今回はこの過去問の選択肢4の「発生部署内での解決」を医療事故に関連した新聞記事・ネットニュースとともに紹介・解説していきたいと思います。
この正解肢である選択肢4の「発生部署内での解決」ですが、これはこの問題の選択肢の中で、適切ではない対応ということになります。
つまり、適切な対応として、事故が発生した場合は、発生した部署内での解決ではなく、その部署外、はたまた病院外の第三者機関に報告をしなければならないということが重要になってきます。

事故発生はしっかり報告!これ、絶対!

今回、新聞やネットニュースを見ていたら、病院で手術を受けたが、手術の数時間後に患者が亡くなってしまったという事件がありました。そして、本来、患者が予期せず死亡した場合に医療機関は医療事故調査制度に基づいて第三者機関(日本医療安全調査機構)に報告する必要があるのですが、この病院は院内で設置した自分達の事故調査委員会だけで「手術に過誤はなかった」と判断して、医療事故調査制度の対象ではないと考え、第三者機関に報告をしなかったというものです。

もう少しだけこのニュースについて詳しく見てみましょう。
記事には、こう書かれていました―――。

昨年9月、日本大歯学部付属歯科病院で口腔がんの手術を受けた都内の70代の男性の容体が手術直後に急変し、死亡していたことが15日、関係者への取材で分かった。手術やその後の処置になんらかの問題があった可能性があり、警視庁神田署が男性が死亡した詳しい経緯を調べている。
男性は舌がんと診断され、昨年9月に同病院で首のリンパ節に転移したがんの切除手術を受けたが、数時間後に容体が急変。搬送先の別の病院で死亡が確認された。術後の出血により、出血性ショックや窒息などで死亡した可能性がある。医師法に基づく「異状死」として神田署に届け出があり、同署が男性の遺体を解剖するなどして詳しい死因を調べている。
(略)病院側は手術前、「出血も少なく、輸血を必要とする手術ではない」などと説明、死亡の可能性についても言及はなかった。病院は院内に外部の有識者を含む検証委員会を立ち上げたが、医療事故制度に基づく第三者機関への発生報告は行っていなかった。
---産経ネットニュース   2018年2月16日(金)

この事件の場合、医療事故の可能性があったと思えます。そして自分達の「事故調査委員会」を立ち上げて検討したところまでは問題ないといえます。
しかし、なぜかそこでその事故の情報が立ち止まってしまっているのです。
ここの部分が、冒頭に出した過去問題の選択肢4「発生部署内での解決」にリンクしているように思えるのです。

実際にこの事件では“部署”だけではなく、しっかりと“病院”での対応はしているとは思います。
しかし、この事件に関してはそこで完結させてはいけなかったのです。
実際に患者が亡くなってしまった、手術前の段階では死亡の可能性について言及していなかった、また「出血も少なく輸血も必要ない」と説明していたとあるように、今回患者が死亡してしまったというのは、原因は ともかくとして、病院側も全く「予期していなかった」ことだと読み取れます。

そして、この「予期せず死亡」してしまった場合、病院側は医療事故調査制度に基づいて第三者機関(日本医療安全調査機構)に報告をしなくてはならなかったのです。
しかし、その義務を怠ってしまっていたというのが病院の適切ではない対応だったのではないでしょうか。

じゃあ、どうすれば適切な対応だったの!?

それならば、この病院は適切な対応として、具体的に一体どうすればよかったのでしょうか。
まずは院内で事故調査委員会を立ち上げ、検討したというのはとても適切な対応だったと思います。
それでは、その次。
今回の患者が亡くなってしまったことをしっかりと検討し、「医療事故」として、第三者機関である「日本医療安全調査機構」に報告をして、しっかりと原因究明を行うべきだったと思います。そして、その結果をしっかりと遺族の方々に報告をすること、また、病院内の全体で事故の内容を把握して、今後の対応策を議論し、マニュアルを作成していくことが大切だったのではないでしょうか。

それにしても、色々とこの医療事故の報告に関することを調べていると、「医療事故」「医療過誤」「ヒヤリ・ハット」等に関する調査機関や相談窓口というのは実は複雑にいくつかあるということが分かりました。みなさん、ご存知でしたか?

例えば、冒頭の日本経済新聞に載っていた中立的・科学的な第三者機関として、医療機関の審査や評価を行っている「日本医療機能評価機構(HP)」。

医療事故の内容を詳しく調査を行う「日本医療安全調査機構(HP)」。

患者や家族の医療に関する苦情・心配や相談に対応したり、患者・家族・病院等に助言を行ったりする「医療安全支援センター(HP)」。

これらは事故内容等によってそれぞれ微妙に登場の仕方が違ってくるようです。
そこの部分をしっかりと学習しておくことも今後の国家試験対策、はたまた実際の現場で事故に遭遇してしまった時の対応力として必要不可欠なことかもしれませんね。

慌てないで、落ち着いて対応!そして正直にまっすぐ前進!

今回、医療事故をテーマに、色々な新聞の記事・ネットニュースを集めました。
集めていく中で、たくさんの事故や事件に関する記事を読みました。
そうしていく内に、事故が発生したとき

落ち着いて、色々な状況を把握して、しっかり対応していく。
包み隠さず、ありのままの周りの状況、そして自分の状況を把握する。
何か異常があった場合は、しかるべき所に報告・相談をする。

ということが、問題が起きてしまった際の一番の解決策になり、一番大切なことになるのでは? と感じました。

医療事故会見の様子
この国家試験の過去問題の選択肢1~3は適切な対応、選択肢4は不適切な対応ということですが、まさしくそれぞれの正反対の不適切な対応が存在し、記事として色々と取り上げられていることに驚きました。しかし、この選択肢4「発生部署内での解決」というのが不適切な対応であるということ、そしてしっかり第三者機関に報告することが正しい対応であり、その意識が高まってきていることが冒頭の医療事故過去最多という記事に繋がっていて、日本の医療現場の実態を知る上でとても重要なことであるということを覚えておいて欲しいと思います。そして、これまでは隠されていた医療事故の報告や情報が、今後はしっかりと報告されることで、日本の医療が少しずつでも正直に前に進んでいって欲しいと思います。

いかがだったでしょう。
こうして、新聞やネットニュースに触れることで、国家試験の問題の対策と、現場に立った時の対処方法を学ぶことが出来れば良いなと思います。

イラスト:Aokimac

おまけ!今回のテーマに関連するワードの過去問題も見てみよう!

医療過誤:
第95回 午後問題30

ヒヤリ・ハット:
第98回 午後問題42
第103回 追試午後問題76
第106回 午後問題112-114

インシデントレポート:
第99回 午前問題22
第100回 午後問題22
第102回 午後問題36
第103回 午前問題9