看護学生にとって「最大の学びの場」である臨地実習……
でも、そこは、「最大の悩みの場」でもあるかと思います。
実習指導のプロにお悩みを相談し、少しでも解決の糸口を見つけてほしいと思います。
今回はどんなお悩みでしょうか?
桜田亜己先生に相談してみましょう!
お悩み11:患者さんから拒否されてつらい
(Kさんのお悩み)
実習で 受け持っている患者さんから『学生さんにはもう来てほしくない』と言われてしまいました。患者さんに嫌われてしまったのではないかと思うと、悲しい気持ちでいっぱいです。
それは本当につらい経験ですね。でも、患者さんから拒否されることは必ずしも『嫌われた』ことを意味するわけではありません。大切なのは、その経験をどう振り返り、学びに変えていくかです!
実習中に患者さんから拒否される経験は、看護学生にとって大きな壁の一つです。驚きやショックで頭が真っ白になり、「患者さんに嫌われたのではないか」と感じ、落ち込んだり自信を失ったりすることも少なくありません。
しかし、拒否された体験を「自分が悪い」と責めるだけで終わらせるのは、とてももったいないことです。出来事を適切に振り返り、次の実践にどう活かすかを考えることで、看護者としてさらに成長するきっかけをつかむことができます。
そこで本記事では、実習中に患者さんから拒否された際の出来事を効果的に振り返る方法として、「Gibbsのリフレクションサイクル」を活用した具体的なプロセスをご紹介します。このプロセスを通じて、経験を学びに変え、看護師としての成長につなげるヒントを一緒に見つけていきましょう。
初心者にも優しい『gibbsのリフレクションサイクル』とは
リフレクションとは、自分が経験した出来事を振り返り、「何が良かったのか」「どこを改善できるのか」を考えるプロセスです。Gibbsのリフレクションサイクルは、イギリスの教育学者グラハム・ギブスが提案したフレームワークで、この振り返りを効果的に進めるための6つのステップが用意されています。

「出来事を整理する」「感情を振り返る」といった具体的な設問に順を追って答えていく形式のため、振り返りに不慣れな初心者でもスムーズに取り組めるのが特徴です。
また、出来事や感情を整理するだけでなく、背景を掘り下げて深く理解し、学びを次の実践に結びつけるための行動計画を立てるステップも含まれています。このため、単なる反省や後悔で終わらせるのではなく、経験を次の実践に活かし、看護者として成長するための強力なツールといえるでしょう。

体験してみよう!『gibbsのリフレクションサイクル』を活用した振り返りの進め方
ここでは、実習中の看護学生が「がん告知直後の患者から関わりを拒否された」場面を例に、Gibbsのリフレクションサイクルを活用した振り返りの進め方を解説します。このプロセスを一緒にたどりながら、経験をどのように学びに変え、次の行動に結びつけるかを見ていきましょう。
STEP 1:事実の記述 ―何が起きたか?―
まずは、何が起きたのかを事実に基づいて記述しましょう。この際、自分の感情や解釈を加えず、「いつ」「誰が」「どこで」「何を」「どのように行ったか」「患者さんがどのように反応したか」などを丁寧に整理することを心がけてください。
担当患者は40代女性で、胃がんの精査目的で入院しており、検査の結果、胃がんステージⅢと診断されていた。患者本人への告知は実習2日目に行われたばかりで、告知後の患者はベッドで静かに過ごす時間が多かった。電子カルテには、告知に対する患者の受け止めとして「まさかとは思っていたが、やっぱりショックです」と発言していたことが記録されていた。実習3日目の午前、私はアセスメントに向けた情報収集を行うため、患者の病室を訪れた。
入室時、私は「おはようございます。体調はいかがですか?」と声をかけると、患者は「うん…まぁ、変わりないよ」と答えた。私は続けて「それならよかったです。いま、少しお話を伺ってもよろしいですか?」と確認すると、患者は「うん、少しならいいよ」と答えたため、私は 質問を始めた。
私は、「お休みの日はどのように過ごされていますか?」「どんなお食事がお好きですか?」など、入院前の生活や趣味に関する質問を次々と投げかけた。そのやりとりの中で、患者が「夫や子どものためにも、これからの治療を頑張らないと」と発言した。
これに対し、私が「そうですよね!これから治療に向けていろいろ頑張っていきましょうね!」と励ますと、患者は一瞬黙り込んだ後、「そうだね、頑張るしかないよね」と答えた。訪室から約30分が経過した頃、患者は「ごめんなさい、今日はもうこの辺でいいかしら?」と発言した。私は「長くお話ししてしまってすみません。では、また伺いますね。ゆっくり休んでください」と謝罪し、一礼して病室を退出した。
その日の午後、指導者が患者の病室を訪れた際、患者は「学生さんと話していると疲れてしまうの。悪いけど、少しひとりにさせてもらえないかしら」と話した。指導者は患者の思いを受け止め、その内容を私と担当教員に 共有した。私は、指導者からの報告を通じて、患者が自分との関わりに対して拒否的な姿勢を示していることを知った。
STEP2:感情 ―どう感じたか?―
出来事を振り返り、自分がどのような気持ちで何を考えていたのかを具体的に挙げましょう。感じたことや考えたことには否定も肯定も加えず、ありのまま記録することを心がけてください。
・患者さんに少しでも元気になってほしいと思っていた
・アセスメントに必要な情報を少しでも早く集めなくてはと焦っていた
・患者に拒否されてしまい、嫌われてしまったのではないかと悲しくなった
・患者さんに不快な思いをさせてしまったことを本当に申し訳なく思った など
STEP3:評価 ―良かった点と改善すべき点は?―
良かった点
・患者の状態を丁寧に確認できた
・会話の許可を得てから質問を始めた など
改善すべき点
・自分のペースで質問を次々と投げかけた
・がん告知直後でショックを受けている患者に対して、励ましの言葉をかけた など
STEP4:分析 ―なぜそうなったか?―
このような状況がなぜ起きたのか、その背景にある要因を多角的な視点から客観的に分析しましょう。
・私は、看護過程を展開するために、アセスメントに必要な情報をできるだけ早く収集しなければならないという焦りを抱えていた。その結果、患者のペースを考慮せず、一方的に質問を投げかけてしまい、患者に精神的な負担を与えてしまった。
・フィンクの危機理論によれば、患者は告知直後であり、「ショック」という発言があったことからも、衝撃の段階(強烈な不安を抱えている時期)にあると考えられる。しかし、私とのやり取りの中で、患者が「これからの治療を頑張らないと」と発言した際、私は患者に少しでも元気になってほしいという思いから、結果的に患者にプレッシャーを与える言葉をかけてしまった。患者の心理状況を十分にアセスメントできていなかったことが、この状況を引き起こした要因の一つである。
など
STEP6:行動計画 ―次はどう行動するか?―
ここまでの振り返りをふまえて、この出来事から得た学びを整理しましょう。
・情報収集においては、患者のタイミングやペースに合わせ、負担をかけないよう配慮することが重要である。
・患者の置かれている背景や心理状況を十分にアセスメントし、それらを踏まえた適切な接し方を意識する必要がある。
など
STEP6:行動計画 ―次はどう行動するか?―
次に同じような状況が起きた際の具体的な行動計画を立てましょう。これにより、学びを実践に活かしやすくなり、看護現場で柔軟かつ適切に対応する力を養うことができます。
・会話中は患者の表情やしぐさ、声のトーンを注意深く観察し、疲れた様子や負担を感じている兆候が見られた場合には、早めに会話を切り上げる。
・患者がつらい状況にあるときは、安易に励ましの言葉をかけるのではなく、患者の抱える思いにじっくりと耳を傾け、共感的に受け止める姿勢を示す。
など
いかがでしたか?
リフレクションサイクルの目的は、「起こった出来事」に対する内省(自己の振り返り)を通じて、今後同じような状況が発生した際に、看護者として適切に対応する方法を考えることにあります。
患者さんから拒否される経験をした際には、目の前の問題をどう解決するかに意識が集中しがちですが、こうした出来事を客観的に振り返ることで、看護者としての学びを深め、成長につなげることができます。
また、実際の現場で患者さんから拒否された場合、学生ひとりでその状況を解決するのは非常に難しいものです。そのような場合には、患者さんの意向を尊重しつつ、指導者や担当教員からの助言やサポートを積極的に活用し、患者さんにとって最善の対応策を慎重に検討することをおすすめします。
読者の皆さんが楽しく充実した実習を過ごせることを願っています。看護学生としてのさらなる成長を目指して、一緒に頑張りましょうね!