今回頂いた質問

医療事故、医療過誤、アクシデント、インシデントなど、意味の違いがはっきりと分からず、インシデントレポートについてもピンときません。

似ている漢字やカタカナ用語が並んでいると、混乱してしまいますよね。しかも、その意味が少しずつ異なる場合は、さらに理解しにくくなってしまうものです。でも、医療安全に関わるこれらの用語は、より安全な医療を提供するために理解しておくべき、とても重要な用語です。
実際の看護場面をイメージしながら、それぞれの用語を確認してみましょう。

医療事故

「医療事故」は、医療にかかわる場所で、医療の全過程において発生する人身事故すべてをさし、「アクシデント」ともいわれます。
“人身事故すべて”ということは、患者だけではなく、医療従事者が被害者である場合も含まれます。例えば、看護師が暴れた患者に殴られてケガをした場合や、看護師自身による針刺し事故なども「医療事故」です。また、患者が病院内の階段を踏み外して転倒し、ケガをした場合など、医療行為とは直接関係しないものも含まれます。
つまり、「医療事故」のすべてに医療提供者の”過失”があるわけではないため、「過失のある医療事故(医療過誤)」「過失のない医療事故」を分けて考える必要があります。

過失のある医療事故

事故の原因として、医療従事者の不注意・怠慢など(過失)があるもので、「医療過誤」と呼ばれるものです。
医療の過程において、医療従事者が当然払うべき業務上の注意義務を怠り、これによって患者に傷害を及ぼした場合のことであり、医療従事者の怠慢さえなければ、回避することができます。例えば、看護師が点滴に消毒薬を入れてしまい、患者が死亡したという医療過誤の事例がありますが、看護師が薬剤の確認を怠らなければ、事故は起こらずにすんだのです。

過失のない医療事故

「過失のない医療事故」は、医療従事者が最善を尽くしても、不可抗力(人間が手をつくしても、どうにもすることができないこと)によって発生する事故のことです。すべての患者は、生体自体の不確実性や、疾病や加齢などによる様々な危険性を有しており、たとえ医療従事者に過失がなくとも、有害な結果が生じることがあるのです。

※過失の有無については、事例によっては、必ずしも明確でないこともあります。また、事実認定が医療事故の発生時点における医療水準に照らして判断されるため、過失の範囲は時代とともに変化するといわれています。

インシデント

「インシデント」は、医療事故が起こる前の段階で、事故につながる可能性があった出来事をさします。状況によっては医療事故となる可能性があったけれど、幸運にも事故にならずに済んだ場合のことです。インシデントが起こった際、“ヒヤリ”としたり、“ハッ”としたりすることから「ヒヤリ・ハット」という表現も使われています。

事故報告書とインシデントレポート

そして、医療事故やインシデントが発生してしまった場合には、必ず、事故報告書やインシデントレポートを作成しなければなりません。
この事故報告書やインシデントレポートは、新たに事故が起こることを防止し、よりよいサービスを提供するためのものです。事実確認や原因究明のみならず、当事者および組織全体への注意喚起や安全管理システムの再構築などに活用されます。
決して、個人に対する責任を追及したり、当事者などの処罰のために用いられるものではありませんので、医療事故やインシデントがあった場合には、事実を正確に記録し、速やかに報告するようにしましょう。

では、国家試験で出題された医療事故への対応に関する問題を解いてみましょう。

問題

第102回 看護師国家試験 午後問題36

インシデントレポートについて正しいのはどれか。

1.警察への届出義務がある。
2.法令で書式が統一されている。
3.事故が発生するまで報告しない。
4.異なる職種間で内容を共有する。

1.×  インシデントレポートは、警察へ届け出る必要はない。
2.×  病院や自治体などによっては書式が統一されている場合があるが、法令では統一されていない。
3.×  インシデントレポートは、医療事故が起こる可能性のある出来事(インシデント)があった場合に作成される。
4.○  医療事故の発生を防ぐため、異なる職種間でインシデントレポートの内容を共有することは大切である。

答え…4

編集部より

インシデントレポートをあつかった問題で、よく選択肢に登場するのが「個人の責任を問う」といったものです。これはこのテーマでの×選択肢の王様で、よく見かけるものですね。インシデントレポートの目的は事故の再発を防ぐことですから、看護業界は口をすっぱくして「個人攻撃ではないよ」と主張します。本来、自分のミスを隠したいと思うのが人情ですから、この点を強調しておかないと事故の原因を明らかにすることができず、再発防止が難しくなるからです。くり返しでてくる×選択肢にも意味があるので、それを読み解くのも面白いのではないでしょうか。