今回頂いた質問

児童虐待を疑ったら即通報! と授業で習いました。虐待か虐待じゃないかの境目を判断するのはけっこう難しいと思います。どのような点に気をつければよいのでしょうか。

ご質問ありがとうございます。

まずは、法律についてまとめてみましょう。

児童虐待については「児童虐待の防止等に関する法律」に定められています。

■医療機関および医療従事者は、さまざまな子育て家庭と出会う機会が多いため、虐待の早期発見に努めなければなりません(第5条)。
■発見した場合は速やかに、都道府県の児童相談所か、区市町村の子ども家庭支援センターに通告しなければなりません(第6条)。「受診の経過」「虐待を疑った理由」「保護者が医師等に行った説明」「子どもの現在の医学的な危険度」「医学的な予後」について明確に伝えましょう。
■法律でも、守秘義務より虐待の通告義務のほうに重きをおいています(第6条-3)。

さて、虐待かどうかを見極めるポイントには「代表的な所見」として以下のような点が挙げられます。

◆打撲・あざ(多発・新旧創傷の混在、通常では考えられない部位など)
◆骨折(多種の外傷を伴う骨折、治癒段階の異なる複数骨折、乳幼児の肋骨骨折など)
◆頭部損傷(頭蓋内出血、頭部皮下出血、眼底出血など)
◆やけど(遅い来院、繰り返し行われたための重症化など)
◆栄養・発育障害など(年齢に相応しくない発育状況、発達の遅れがある場合など)

また、親子の態度や言動なども重要な観察ポイントとなります。

親が医師に見せたがらない(症状があってから来院までの時間が長い)
原因の説明があいまいでつじつまが合わない(話がコロコロ変わる・原因と症状が合わない)
親の様子がおかしい(自分中心的、態度が反抗的で被害妄想がある)
子どもが親になつかない(無口でびくびくしている)

それでも迷うことはあります。
もちろん、職場の先輩や医師などに相談するもよし、院内での判断が難しい場合は、親子が在住する区市町村の子ども家庭支援センター、保健所、保健センターに相談し、相互に情報を交換して、多角的に考察し、虐待の有無を判断する場合があります。

匿名の徹底性についても法律に定められていますが、医療従事者としての使命を負っているのですから、なんとしても子どもたちの人権を守っていきたいですね!

質問への回答は以上です。
では、国家試験の過去問を実際に解いてみましょう。

問題

第100回 看護師国家試験 午後問題68

前額部の血腫で救急外来を受診した6か月児の母親の言動で、虐待が最も疑われるのはどれか。

1. 「治りますか」
2. 「後遺症は残りますか」
3. 「子どもが自分でぶつけたんです」
4. 「他の部分もよく調べてください」

1.×
2.×
3.○
4.×

1.2.4では、子どもを心配した言動であるが、3.では、外傷は子どもに責任があるという自己弁護の言動である。たとえ、6か月児の自然な行動が原因であっても、本来、母親であれば、事故を防げなかった自分自身を責めるのが一般的であるため、3.が疑われる。

答え…3

編集部より

友人家族が引っ越しをした時の話です。お散歩が好きな息子さん(3歳)は玄関先で泣いていました。その日はご機嫌が悪く、いつまでも玄関にとどまり、「お外に行きたい」と大声で泣き続けました。友人は泣かせておきました。30分後には家族そろって楽しく夕飯。そして翌週、児童相談所からやんわりと虐待の有無をさぐるような電話が入ったとか。マンション内に看護師さんが住んでいるようで、ああ、義務を果たしたのだなぁ(笑)と思った次第です。電話はその1度きりだったようですが、やはりデリケートな問題ですね。