今回頂いた質問

113回の国試で、「親性」に関する出題がありました。
いわゆる「母性」に似たような意味の言葉なのはわかるのですが……。
どうして、「母性」とは言わないのでしょうか?

ご質問ありがとうございます。
「母性看護学」のような科目があるように、学生さんにとっては「母性」という言葉にはなじみがある一方で、「親性(おやせい)」という言葉は聞き慣れないかもしれませんね。
しかし、近年の家族ケアを考える上で、「親性」とは何かを学ぶことは非常に重要です。
ではさっそく、「親性」の定義や考え方を一緒に学んでいきましょう。

1.親性とは

親性とは、「性別(生物学的な性差)や年齢、血縁関係(生物学的な結びつき)、その子の親であるかどうか、自分の子どもがいるかどうかを問わず、すべての人間が持つ、子どもを慈しみ愛情をもって接しようとする特性」のことです。
 

2.母性・父性から親性へ

ヒトという生物は、母親だけではなく、集団で子どもを育てる「共同養育」を通して進化してきました。戦前の日本でも、父母や兄弟姉妹、祖父母、叔父叔母などが同居する大家族(多世代同居)が一般的でした。また地域の人々とのつながりも強く、子どもが産まれると、家族だけでなく周囲の大人たちが子育てを支えるのはごく自然なことでした。

戦後の日本では、高度経済成長を背景に、「父親(男性)はサラリーマンとして外で働き、給与を得て家族を扶養する」「母親(女性)は専業主婦として子どもを産み育て、家事や育児を担う」といった性的役割分業が定着しました。この「女性は育児に専念すべき」という社会規範が、「母親には出産や授乳ができる機能を備えている=生物学的に育児に適している性である」という考え方へと発展し、「母性」という用語で表現されるようになったとされています。

1970年代になると、子どもの非行や犯罪などの不適応行動が増加し、その背景にある問題として、かつてのような父親の強さや権威が失われていることに社会が注目するようになりました。このような背景から、父親の存在や役割に関する議論が活発化し、父親が果たす子育ての役割や機能を指す言葉として「父性」が用いられるようになりました。

しかし、1980年以降、女性の社会進出が盛んになるにつれて、母親に対する過度な役割期待が指摘されたり、性的役割分業への批判が高まったり、「子どもを育てる能力に性差は関わらない」といった声が広がりました。これらのことから、「母性」「父性」という従来の概念が見直されるとともに、「親性」という新たな概念が広まっていきました。

3.親性は「経験」を通して育まれる

いまだに、生物学上の女性には生まれつき母性本能が備わっている(「母性神話」といいます)と信じる方が多いですが、これまでの様々な研究において、その「母性神話」は科学的に証明されていません。

確かに、ヒトの脳には、性別(生物学的な性差)に関わらず、すべての人に子どもを守り育てようとする脳のネットワーク(親性脳)が存在しています。ただし、親性脳は生まれつき備わっているものでも、子どもを持つ時点で備わるではなく、育児の「経験」を通して形成されていくものと考えられています。

 

以上が質問の回答です。
では、「親性」に関する国家試験の過去の問題を解いてみましょう。

問題

第113回看護師国家試験 午後問題58

親性について適切なのはどれか。

1. 子を育もうとする性質である。
2. 誰でも子を持つ時点で備えている。
3. 性別に基づく役割分業で育児を行うことをいう。
4. 生物学的に結びつきがあることが親性を持つ条件となる。

1.○ 正しい。
2.× 育児の「経験」を通して形成される。
3.× 性別の違いに関わらず共同で育児を行うことをいう。
4.× 生物学的な結びつきに関係なく、すべての人がもつ特性である。
正解…1

●「母性看護学」について理解を深めるには、科目別強化トレーニング

編集部より

最近では、男性・女性という生物学的な性差に基づく差別や役割分業をなくし、個々の多様性を尊重しようとする考え方(ジェンダーレス)が広まっています。これに伴い、過去の国試でも、母性看護学の領域から「人間の性のあり方(セクシュアリティ)」「ジェンダーの定義」「LGBT」等のテーマが出題されています。授業で十分に学べない場合もあるので、テキストや過去問題集などを活用しながら主体的に学習を進めましょう。