今回頂いた質問
112回の国試で、多発性骨髄腫に関する出題がありました。学校の授業では詳しく習っていません。教えていただけないでしょうか。
ご質問ありがとうございます。
多発性骨髄腫と言えば、筆者が看護学生だったころ、血液内科で実習中に担当した患者さんがこの疾患でした。とてもめずらしい疾患です。
1.生体の防御機構
多発性骨髄腫は、一言で言うと、免疫力(異物攻撃力)が低下してしまう疾患です。
免疫力を担う主体は白血球ですが、白血球には様々な種類があり、連携して異物を攻撃しています。異物が体内に侵入すると、好中球やマクロファージなど、貪食を得意とする細胞がすぐに異物に駆け寄り(‘遊走’といいます)、貪食攻撃をしかけます。
このうちマクロファージは、白血球の組織のトップであるヘルパーT細胞に異物の一部を提示します(これを‘抗原提示’といいます)。ヘルパーT細胞は異物を分析し、異物に応じた攻撃を部下に指令します。そのヘルパーT細胞の「武器によって攻撃せよ!」という指令に従う部下が、B細胞です。B細胞は、「形質細胞」という武器工場に変身し、武器を製造します。この武器が、「抗体」や「γグロブリン」といわれています。
2.多発性骨髄腫の主症状
多発性骨髄腫では、この「形質細胞」が腫瘍化し、使い物にならない不良な抗体(γグロブリン)を大量に作り出してしまいます。この不良な抗体をMタンパク質といい、血漿中の濃度が増加すると、尿中にもベンス-ジョーンズタンパク質としてあふれ出てきます。
不良な抗体が増えた結果、患者の免疫力は低下し、日和見感染にかかりやすくなってしまいます。また、多発性骨髄腫では、腫瘍が分泌する因子が破骨細胞を刺激するので、肋骨や脊椎に小さな孔が空いてもろくなり、病的骨折を引き起こすことがあります。
筆者の担当した患者さんも骨がもろくなって腰痛が強かったため、搬送の際には、振動を与えないように気を付けたことを思い出します。
以上が質問の回答です。
では、「多発性骨髄腫」に関する国家試験の過去の問題を解いてみましょう。
問題
第112回看護師国家試験 午前問題29
多発性骨髄腫で腫瘍化しているのはどれか。
1. B細胞
2. T細胞
3. 形質細胞
4. 造血幹細胞
2.×
3.○
4.×
多発性骨髄腫は、抗体産生細胞である形質細胞が腫瘍化した疾患です。ちなみにB細胞は形質細胞になる以前の細胞です。
正解…3
●「疾病の成り立ちと回復の促進」について理解を深めるには、科目別強化トレーニング
編集部より
多発性骨髄腫をはじめとした血液疾患について学習する際は、各血球の働きについての基礎を学んでおきましょう。血球のうち、白血球は組織的な連携によって異物を攻撃しています。白血球は種類によって攻撃の仕方が変わるので、興味深く学べると思います。