今回頂いた質問

112回の国試で、ムーア,F.D.が提唱した「外科的侵襲を受けた患者の生体反応(ムーアの分類)」に関する出題がありました。
お恥ずかしながら、『ムーアって、誰?』って感じなのですが……詳しく教えてください!

ご質問ありがとうございます。

1.ムーア,F,Dとは?

ムーア,F,Dとは、アメリカの医師です。
彼は第二次世界大戦中に負傷した兵士の治療にあたった経験から、術後の生体反応に着目しました。薬も衛生材料も足りなり戦地ですから、兵士の生体反応(自然治癒力)が頼みの綱だったのでしょう。「自然治癒力」に着目したあたりが同じく戦地で活躍したナイチンゲールに似ていますね。

2.ムーアの分類

ムーア,F,Dは、術後の生体反応を第Ⅰ相~第Ⅳ相に分けて説明しています。これが「ムーアの分類」です
各期の特徴を説明します。

第Ⅰ相;傷害期

手術直後の危機的な状況で、交感神経系が刺激され、副腎皮質ホルモンもたくさん分泌されています。これらは回復に必要なエネルギーを作り出すために、脂肪や筋肉をエネルギー源として分解し、呼吸や循環機能をフル稼働させます。また、体液が外に流れ出ないように、副腎皮質からはアルドステロンが、脳下垂体後葉からは抗利尿ホルモンが分泌されます。これらは腎臓に働き、水分やナトリウムイオンを血管に再吸収させ、尿量を減少させます。しかし傷害期では、血管壁の小孔が広がった状態にあるため(血管透過性亢進といいます)、せっかく再吸収した水分やナトリウムイオンは、血管内にとどまれず、血管外の「間質」へ移動してしまいます。
以上のことから傷害期では、体温上昇、頻脈、尿量減少、浮腫がみられます。

第Ⅱ相;転換期

危機的な状況から脱し、「峠は越えた」と言える状況です。この時期は、傷害期において活発に刺激されていた交感神経や、ホルモンの働きが正常化します。そのため体温や脈拍は正常化します間質に溜まっていた水分やナトリウムイオンは、血管の中に戻るため、循環血液量が増加します。その結果、腎血流量も増えるため、尿量が増加します。痛みが和らぎ、腸の動きや食欲も回復してきます

第Ⅲ相;筋力回復期

傷害期に失われた筋肉がまず元に戻ります。動いても痛みを感じなくなり、体力の回復を実感します。

第Ⅳ相;脂肪蓄積期

傷害期に失われた脂肪が元に戻ります。体重も手術前に戻ります。元のような日常生活が送れるようになります。
 

以上が質問の回答です。
では、「ムーアの分類」に関する国家試験の過去の問題を解いてみましょう。

問題

第112回看護師国家試験 午前問題44

ムーア,F.Dが提唱した外科的侵襲を受けた患者の生体反応で正しいのはどれか。

1. 傷害期では尿量が増加する。
2. 転換期では循環血液量が増加する。
3. 筋力回復期では蛋白の分解が進む。
4. 脂肪蓄積期では活動性が低下する。

1.× 傷害期では循環血液量を維持するために、体液が失われるのを防ぎます。そのためにアルドステロンや抗利尿ホルモンが分泌され、尿量は減少します。
2.○ 転換期は、傷害期の危機的状況を乗り越えた時期で、間質に移動していた水分やナトリウムイオンが血管に戻ります。循環血液量が増えて尿量も増加します。
3.× 筋力回復期では、蛋白質の合成が進み、傷害期で失われた筋肉が元に戻ります。
4.× 脂肪蓄積期は、失われた脂肪の合成が進み、元のような日常生活が送れるようになります。
正解…2

●「疾病の成り立ちと回復の促進」について理解を深めるには、科目別強化トレーニング

編集部より

大きな手術になるほど、第Ⅰ相~第Ⅳ相の各期間が長くなります。生体反応のうち、危機的状況を乗り越えるための第Ⅰ相(傷害期)については国家試験で頻出なので、交感神経系や副腎皮質ホルモンの働きをしっかり学習しておきましょう。