今回頂いた質問
109回の国試で、DPATに関する出題がありました。DMATについては授業で習いましたが、DPATについては、詳しい内容を習っていません。教えていただけますか。
ご質問ありがとうございます。
DPATとは?
DPATとは、災害派遣精神医療チーム(Disaster Psychiatric Assistance Team の頭文字/ディーパット)のことです。
日本では、自然災害、航空機・列車事故、犯罪事件など、多くの大規模災害・事件が発生しています。大規模災害が発生すると、多くの負傷者が発生し、医療の必要性が高まります。そうなると、被災地域を管轄する自治体の医療機関だけでは、十分な対応が困難となることが想定されます。
また、災害は大きな心理的負担を与えることから、こころの健康が回復せず、トラウマや悲嘆、避難所での生活ストレスなど、心身の不調を訴えるケースも少なくありません。また、被災者を支える救護者も、つらく悲惨な状況下での救護活動や、被災者や遺族との関わりによって生じる様々なストレスを抱えやすく、“隠れた被災者”としてこころのケアを要することもあります。
大規模災害の場合では、被災地域における精神科医療機関の被災状況をはじめ、それに伴う入院患者の搬送の必要性や、避難所での医療的介入の必要性など、専門的な知識に基づいて精神保健医療ニーズを速やかに把握する必要があります。そして、それらのニーズに応えるべく、専門性の高い精神科医療の提供と地域精神保健活動の支援を行うことが求められます。併せて、多様な医療チームとの連携を含め、災害時における精神保健医療のマネジメントに関する知見も不可欠です。
DPAT(災害派遣精神医療チーム)は、これらの活動を行うために、都道府県および政令指定都市によって組織される、専門的な研修・訓練を受けた班員で構成されたチームです。
DMATとDPATとの違い
DMAT(災害派遣医療チーム)は、被災者の生命を守るために、被災地域に駆けつけて救急治療を行う、専門的な医療チームです。それに対して、DPAT(災害派遣精神医療チーム)は、こころのケアを専門として、被災者や救護者に対して精神科医療や精神保健活動の支援を行う、専門的な精神医療チームを指します。
引用:兵庫県こころのケアチーム「ひょうごDPAT」活動マニュアル
(http://www.j-hits.org/dpat/pdf/dpatmanual.pdf)
DPATの活動原則は「3つのS」
DPAT 活動 3 原則:SSS(スリーエス)
支援活動の主体は被災地の支援者であることを念頭に置き、地域の支援者を支え、その支援活動が円滑に行えるための活動を行うこと。ただし、被災地域の支援者は多くの場合、被災者でもあることに留意すること。
Share:積極的な情報共有
被災・派遣自治体の災害対策本部や担当者、被災地域の支援者、および他の保健医 療チームとの情報共有、連携を積極的に行うこと。
Self-sufficiency:自己完結型の活動
移動、食事、通信、宿泊等は自ら確保し、自立した活動を行うこと。また自らの健康管理(精神面も含む)、安全管理は自らで行うこと。
引用:兵庫県こころのケアチーム「ひょうごDPAT」活動マニュアル
(http://www.j-hits.org/dpat/pdf/dpatmanual.pdf)
メンバー構成と活動の流れ
DPATは、以下の職種を含めた数名(車での移動に支障をきたさない程度の人数)で構成されます。
・看護師
・ロジスティックス(業務調整員):連絡調整や運転など、医療活動を行うための後方支援全般を行う者
DPATは、被災地域を管轄する都道府県および政令指定都市からの派遣要請を受けて活動します。活動の流れとしては、発災後48時間以内に、病院単位で構成される「先遣隊」とよばれる班が被災地域に駆けつけ、活動を開始します。その後、必要に応じて、都道府県等で構成される班が派遣され、数週間~数か月間活動します。1つの班あたりの活動期間は、班員の健康状態にもよりますが、おおむね1週間(活動日は5日間、前後に移動日が1日ずつ)が標準とされています。
また、DPATは原則として、被災地域内の災害拠点病院・災害拠点精神科病院・保健所・避難所等に設置された DPAT 活動拠点本部に集い、その調整下で活動を行います。
・本部活動
・情報収集・ニーズアセスメント・情報発信
・被災地での精神科医療の提供・精神保健活動への専門的支援
・被災した医療機関への専門的支援(患者避難への支援を含む)
・支援者(地域の医療従事者、救急隊員、自治体職員等)への専門的支援
・精神保健医療に関する普及啓発 など
以上が質問の回答です。
では、「災害派遣精神医療チーム」に関する国家試験の過去の問題を解いてみましょう。
問題
第109回看護師国家試験 午前問題64
災害派遣精神医療チーム<DPAT>で正しいのはどれか。
1. 厚生労働省が組織する。
2. 被災地域の精神医療機関と連携する。
3. 発災1か月後に最初のチームを派遣する。
4. 派遣チームの食事は被災自治体が用意する。
2.○ 正しい。
3.× 発災後48時間以内に最初のチーム(先遣隊)を派遣する。
4.× DPATの活動原則として、移動、食事、通信、宿泊等は自ら確保し、自立した活動を行うことが規定されている。
正解…2
●看護の統合と実践ついて理解を深めるには、科目別強化トレーニング「看護の統合と実践」
編集部より
DPATの活動実績としては、2014年8月に発生した広島県土砂災害を皮切りに、2016年の熊本地震、2018年の北海道胆振東部地震といった自然災害が主ですが、最近では、新型コロナウイルスの対応として、クルーズ船内や中国・武漢からの帰国者が滞在した施設にもDPATが派遣されました。目に見えないウイルスを前に、誰もが「被災者」となりうる状況下において、DPATのメンバーは、災害ストレスによる不眠や不安、自殺企図などを訴える対象者のケアに従事しました。
災害は日本全国で起こっており、決して他人事ではありません。もしあなたがDPATのメンバーなら、看護師としてどのような活動ができるでしょうか。今はまだ具体的にイメージできないかもしれませんが、ぜひこの機会に、災害ストレスやこころのケアについての理解を深めるなど、学生としてできることを始めてみてはいかがでしょうか。