今回頂いた質問
看護師の特定行為に関する出題が、昨年の国試(109回)でありました。これはよく出題される問題ですか?
覚えておくべきポイントを教えてください。
ご質問ありがとうございます。
看護師の特定行為に関しては、過去(106回)の国試でも出題されています。また、「特定行為に係る看護師の研修制度の活用推進」は、日本看護協会の重点政策・事業のひとつとして挙げられており、今後も出題される可能性があります。
この機会に、基本的なポイントを整理しておきましょう。
1.「特定行為に係る看護師の研修制度」が誕生した背景
我が国は高齢化が進んでおり、2015年には団塊の世代(1947〜1949年の第一次ベビーブーム期に生まれた世代)が全員75歳以上となります。高齢者の割合としては、国民の3人に1人が65歳以上、5人に1人が75歳以上になると予測されています。高齢化が進むと、慢性疾患や複数の疾病を抱える患者さんや、自宅で暮らしながら医療を受ける患者さんなどが増えることから、医療ニーズは飛躍的に高まることが想定されます。
ひとりひとりの患者さんが、住み慣れた地域で、人生の最期まで自分らしい暮らしを続けることができるようにするためには、患者さんの状態に応じた適切な医療を、安全かつスムーズに提供する体制づくりが不可欠です。そのためには、今後の在宅医療を支える看護師を計画的に養成する必要があります。そこで、医師や歯科医師の指示を待たずに、手順書に示された病状の範囲内で、看護師が高度な診療の補助を行うことを目的として、本研修制度が創設されました。
2.特定行為に係る看護師の研修制度とは
「特定行為に係る看護師の研修制度」は、保健師助産師看護師法に位置付けられており、2015年10月から開始されています。手順書により特定行為を行う場合は、本研修の受講が必要となります。
(1)特定行為とは
特定行為は「診療の補助」であり、医師または歯科医師の直接的指示のもと、手順書に基づいて実施される医療行為です。しかし、特定行為は技術的難易度が高く、判断も難しいことから、特定行為の実施にあたっては、本研修の修了が必要であるとされています。
手順書に基づいて実施される特定行為は、「実践的な理解力、思考力及び判断力並びに高度かつ専門的な知識及び技能が特に必要とされる行為」として、下記に挙げる38行為21区分が定められています。
(参考)鹿児島大学病院看護師特定行為研修センターHP
(2)手順書とは
手順書とは、医師または歯科医師が看護師に「診療の補助」を行わせるために、その指示として作成する文書(または電磁的記録)のことです。
1.看護師に診療の補助を行わせる患者の病状の範囲
2.診療の補助の内容
3.当該手順書に係る特定行為の対象となる患者
4.特定行為を行うときに確認すべき事項
5.医療の安全を確保するために医師または歯科医師との連絡が必要となった場合の連絡体制
6.特定行為を行った後の医師または歯科医師に対する報告の方法
(3)実施の流れ
特定行為研修を修了した看護師は、手順書に示された「病状の範囲内」であれば、手順書に基づいてタイムリーに「診療の補助」を行うことができます。
(参考)看護師の特定行為研修制度ポータルサイト
以上が質問の回答です。
では、「看護師の特定行為」に関する国家試験の過去の問題を解いてみましょう。
問題
第109回看護師国家試験 午後問題78
看護師の特定行為で正しいのはどれか。
1. 診療の補助である。
2. 医療法に基づいている。
3. 手順書は看護師が作成する。
4. 特定行為を指示するものに歯科医師は含まれない。
2.× 保健師助産師看護師法に基づいている。
3.× 医師または歯科医師が作成する。
4.× 医師または歯科医師が特定行為を指示する。
正解…1
●看護の統合と実践ついて理解を深めるには、科目別強化トレーニング「看護の統合と実践」
編集部より
「特定行為に係る看護師の研修制度」が開始されてから早くも5年が経ちました。厚生労働省は、2025年までに10万人以上の修了生を輩出することを目標としていますが、実際の修了者数は2020年3月現在でわずか2%(約2,400人)にとどまっています。研修制度については、今後の状況に応じて改正される可能性があるかと思われますが、高まり続ける医療ニーズに対応すべく、看護師ひとりひとりに、より専門的かつ高度な知識と技能が求められることには変わりないでしょう。国家試験に向けての学びを通して、専門職としての基礎的な土台をしっかりと積み重ねていきましょうね。