今回頂いた質問
111回の国試で、鼓室形成術についての関する出題がありました。耳鼻科関連については学校ではあまり習いません。詳しく教えてください。
ご質問ありがとうございます。
1.鼓室の位置
鼓室形成術の説明をするために、まずは鼓室の位置を確認する必要があります。図1は耳の構造です。耳の機能のひとつに聴覚があり、音波は外耳→中耳→内耳(蝸牛と蝸牛神経)を経て、大脳の聴覚野に至り、「音」として感知されます。
このうち中耳は鼓膜、鼓室(耳小骨を含む)、耳管から構成されています。中耳では音波を空気の振動として鼓膜→耳小骨の順で伝えています。耳管は鼓室と咽頭をつなぐ管で、通常は閉じていますが、嚥下時には開いて外界と通じ、鼓室の内圧が外界と同等になるように調節しています。
2.鼓室形成術
鼓室形成術とは、慢性中耳炎や耳小骨離断など、中耳を構成する構造が壊れてしまっている場合に、人工耳小骨や患者自身の骨を用いて耳小骨を再構築し、聴力を回復させる手術です(図2)。外来手術も可能です。
術後は内耳と外耳の圧力差が少なくなるように注意します。その理由は、内耳と外耳の圧力差が大きくなってしまうと、鼓膜が内側あるいは外側に偏位し、鼓膜に付着している耳小骨も動いてしまい、患部の安静が保てなくなるからです。
以上が質問の回答です。
では、「鼓室形成術」に関する国家試験の過去の問題を解いてみましょう。
問題
第111回看護師国家試験 午後問題47
鼓室形成術を受けた患者への退院指導の内容で正しいのはどれか。
1. 水泳は可能である。
2. 耳垢はこまめに除去する。
3. 鼻を強くかむことを禁じる。
4. エレベーターの使用を勧める。
2.× 耳垢をこまめに除去する必要はない。
3.○ 鼻を強くかむと、強い陰圧が鼻腔や咽頭・耳管にかかり、鼓室の内圧が低下して鼓膜が鼓室側に偏位してしまう。その結果、患部の安静が保てなくなるため禁止する。
4.× エレベーターを使用すると、外耳側の圧力が変動し(上昇すれば中耳内圧に比べ低くなり、下降すれば中耳内圧に比べ高くなる)、鼓膜の偏位をまねき、患部の安静が保てなくなる。
正解…3
●成人看護学について理解を深めるには、科目別強化トレーニング
編集部より
耳鼻科関連の問題は、耳・鼻の構造や機能がきちんと理解できていれば正解できる問題がほとんどです。今回の問題も、鼓室には耳小骨があることがわかり、鼓室形成術が耳小骨の手術であることがわかり、鼓室が外界とつながっているという構造が理解できていれば、たとえ初めて見た問題であっても対応できたと思います。