今回頂いた質問
日本のがん対策について教えてください。
日本では、がん対策が成果を収めてきたものの、いまだに死亡原因の第1位を占めているのが現状です。そのため、より一層のがん対策を推進していくために制定されたのが、がん対策基本法です。平成19(2007)年4月に施行されました。
この法律ではがん対策に関し基本理念を定め、国・国民の責務を明らかにするとともに、都道府県においてはがん対策推進基本計画を作成することが義務づけられています。またこの計画を策定するにあたっては、医療従事者・学識経験者だけでなく、がん患者およびその家族または遺族を代表する者から意見を聴取することも定められています。
がん対策基本法では、がん対策の基本的施策として、「がんの予防及び早期発見の推進」「がん医療の均てん化の促進等」「研究の推進等」の3つが掲げられています。それぞれの具体的な施策をみていきましょう。
がんの予防及び早期発見の推進
(1)がんの予防の推進
(2)がん検診の質の向上 等
がん検診受診率を上げるための、子宮頸癌、乳癌、大腸癌の検診クーポン事業などが行われています。
がん医療の均てん化の促進等
(1)専門的な知識及び技能を有する医師その他の医療従事者の育成
(2)医療機関の整備等
(3)がん患者の療養生活の質の維持向上
(4)がん医療に関する情報の収集提供体制の整備 等
均てん化とは、全国どこでもがんの標準的な専門医療を受けられるよう、医療技術等の格差の是正を図ることをいいます。そのための対応策として、がん診療連携拠点病院の整備の推進、がん患者の状況に応じて痛みやつらさ等に対する緩和ケアが適切に行われるようにすること、がん登録に関する取り組みを支援するために国と地方公共団体が施策を講ずることも明記されています。
研究の推進等
(1)がんに関する研究の促進
(2)研究成果の活用
(3)医薬品及び医療機器の早期承認に資する治験の促進
(4)臨床研究に係る環境整備
平成26(2014)年3月には、文部科学大臣、厚生労働大臣、経済産業大臣の3大臣確認のもと、がん研究10か年戦略が策定され、がん研究をより推進しています。
以上が、がん対策基本法です。まとめると下記のようになります。
また、平成24(2012)年には、平成19年に示された「がん対策推進基本計画」の5年期間に続き、平成24~28(2016)年度までの新たな「がん対策推進基本計画」が示されました。
全体目標(平成19年度からの10年目標)
(1)がんによる死亡者の減少(75歳未満の年齢調整死亡率の20%減少)
(2)すべてのがん患者とその家族の苦痛の軽減と療養生活の質の維持向上
(3)がんになっても安心して暮らせる社会の構築
重点的に取り組むべき課題
(1)放射線療法、化学療法、手術療法の更なる充実とこれらを専門的に行う医療従事者の育成
(2)がんと診断された時からの緩和ケアの推進
(3)がん登録の推進
(4)働く世代や小児へのがん対策の充実
働く世代や小児がん対策の充実は、平成24年度から重点課題として加えられた課題です。個別目標として、小児がん拠点病院の整備、子どもへのがん教育の普及啓発、がん患者の就労を含めた社会問題への対応を挙げ、対策に取り組んでいます。
回答は以上になります。
では、国家試験の問題を実際に解いてみましょう。
問題
第101回看護師国家試験午後問題38
がん対策基本法において「疼痛に関する早期からの緩和ケア」が含まれている基本的施策はどれか。
1. 予防の推進
2. 早期発見の推進
3. 研究の推進等
4. がん医療の均てん化の促進等頼
2.×
3.×
4.○
「疼痛に関する早期からの緩和ケア」は、がん患者の療養生活の質の維持向上にあたる。がん医療の均てん化の促進等に含まれる施策であり、正解は4である。
正解…4
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編集部より
「がん対策推進基本計画」では、平成19年度からの10年で、がんの年齢調整死亡率を20%減にすることを目標としていましたが、17%減にとどまる見込みです。そのため、平成27(2015)年12月に、厚生労働省から「がんの予防」「がんの治療・研究」「がんとの共生」をテーマにした「がん対策加速化プラン」が公表されました。これからの日本のがん対策が明示されていますので、こちらも目を通しておくとよいでしょう。