今回頂いた質問

熊本で大きな災害が起こりました。被災された方へのこころのケアについて知りたいです。

突然の災害に遭遇した被災者には、日常の範囲を大きく超える大きなストレッサーが次々にふりかかってきます。看護でのこころのケアの目的は、このようなストレスに適切に対処することで、急性ストレス障害(ASD)や心的外傷後ストレス障害(PTSD)などの深刻な状態に陥ることを防ぐことにあります。

被災者は、普段通りの生活ができないことで、怒りや悲しみの感情がわいてきたり、茫然自失の状態になったり、コミュニケーションがうまくとれなくなったりと、身体、思考、感情、行動にさまざまな反応があわわれます。このような反応は、災害という異常なできことに対する正常な反応である、ということをまずは理解することが大切です。

被災者に起こる反応は時間とともに変化します。看護職者として被災地で活動する場合は、被災者を取り巻く状況や環境をアセスメントして、役に立てることをお手伝いするという気持ちで接することが重要になります。

援助者としての基本的な態度

1)支持的であること:被災者の現状や反応を受け入れ、価値観や考え方を共有する
2)共感的であること:被災者の立場にたち、あたたかい態度で接する
3)誠実であること:言葉とこころで思うことを一致させる
4)肯定的で判断のない態度:被災者の罪悪感をなくし肯定的な態度で接する
5)被災者自身の力の回復:被災者自身が前向きに問題に対処できるよう援助する
6)実際的であること:できることとできないことをはっきりさせ失望させないようにする
7)守秘および倫理的配慮:被災者の情報を口外しないことは倫理的な責務である

こころのケアは、特別なものではなく、一般の生活支援や医療救護と並行して行うものです。また、被災者が安心して生活を再建できるように、地域と連携して長期的な支援も求められます。被災者に会い、関係性を構築していくためには、被災者のおかれた状況を理解することが大切になります。

接し方のポイント

1)そばにいる:声をかけ、そばにいるだけでも、一人ではないという安心感をもってもらうことができる
2)親身になって話を聴く:被災者の話に真剣に耳を傾ける
3)被災者の感情を受けとめる:悲しみや怒りの感情を表出する手助けをする
4)こころの問題以外にも相談にのる:衣食住をはじめ、経済的・社会的な問題を一緒に考えることもこころの問題の解決につながる

また、子どもや高齢者などは心理的、身体的に困難を抱えることが多く、一般の人たちと比べて特別な注意が必要となります。

子どもは、災害に遭遇すると、夜尿や指しゃぶりなどの退行現象や、不眠、音や光に対しての過敏な反応などが出てきます。この場合には、まわりにいる大人(親)も一緒に支援する、身体的接触を増やすなどできるだけ子どもの求めに応じる、安心して感情を表出できるようにすることが大切です。遊びなどの自然な交流を通して、子どもが話をするきっかけをつくり、話し始めたらどのようなことでも耳を傾けるようにしましょう。

一方、高齢者はこれまで築いてきた家や家族、財産などを失ったことでショックを受けたり、普段から一人で生活している人も多く孤立してしまったりといった状況になりがちです。そのため、高齢者を一人にせず他の人や地域と交流を持つようにする、食料や救援物資の配給といった正確な情報を繰り返し丁寧に伝える、身体を動かす機会をつくり生活リズムを整える、これまで培った能力を発揮できる機会をつくるというようなケアが求められます。

子どもや高齢者以外にも、身体や精神に障害がある人、慢性疾患や持病のある人、妊娠している人、小さな子どもをかかえている人、家族を亡くした人、社会・経済的に不利な立場にある人は特にケアが必要になります。どのような被災者に対しても配慮しなければならない基本事項は同じですが、地域の医療機関やかかりつけ医、保健師、児童相談所職員・精神保健福祉士・ケースワーカーなどの社会的支援の専門家と十分に連携をとっていきましょう。

回答は以上になります。
では、国家試験の問題を実際に解いてみましょう。

問題

第105回看護師国家試験 午後問題66

山村部で地震による家屋倒壊と死者が出た災害が発生し、3週が経過した。避難所では、自宅の半壊や全壊の被害にあった高齢者を中心に10世帯が過ごしている。
 高齢者の心のケアとして最も適切なのはどれか。

1. 認知行動療法を行う。
2. 自分が助かったことを喜ぶよう説明する。
3. 地震発生時の状況について詳しく聞き取る。
4. 長年親しんだものの喪失について話せる場をつくる。

1. × 誤った信念や認知の歪みを修正して再学習する精神療法のひとつであり、この場合はふさわしくない。
2. × 被災した人に対して配慮のない行動であり適切でない。
3. × 詳しく聞き取ることで悲しみや恐怖がよみがえる可能性があり適切でない。
4. ○ 高齢者が被災したときの反応として、悲観的になり喪失感を深める傾向がある。被災者が悲しみにくれたり怒りを向けたりしたときには、耳を傾け感情を表出する手助けをする。

正解…4

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科目別強化トレーニング「看護の統合と実践」

編集部より

「こころのケア」という言葉は1995年の阪神・淡路大震災から使われるようになったといわれています。心理社会的支援である「こころのケア」を学ぶことは、被災者だけでなく救援者や看護職である自分のこころにかかる負担を軽減することにも役立ちます。