つぼみのもっと知りたい!災害看護

前回に引き続き「災害時要配慮者」について紹介するよ。
今回は、対象者に応じた支援方法をそれぞれ見ていこう!

前回「要配慮者」はどんな方たちなのかは学習できたけど、
では、実際に災害が起こったとき、要配慮者への支援や看護はどうしたら良いのかな?

前回の記事にも書きましたが、2011(平成23)年3月の東日本大震災における被災地全体の死者のうち65歳以上の高齢者の死者数は約6割であり、障害者の死亡率は被災住民全体の死亡率の約2倍に上りました。例えば、東京都に大地震が起きた場合(首都直下型地震)、これによる死者は約16万人と想定されています。そして、東日本大震災と同様にこの内の6割の高齢者が被災し死亡した場合、首都圏内では約9万6000人の高齢者が亡くなることが想定されます。しかし、支援の方法によっては、被災による要配慮者の死亡数・災害関連死を減らすことができるのではないでしょうか。

では、高齢者をはじめとする要配慮者への対象別の支援方法を見ていきましょう。

高齢者

現在、周知の通り高齢化は年々進んでいるため、被災者の中でも高齢者は多くの割合を占め、要配慮者の筆頭として位置付けられています。高齢者は避難の際だけではなく、被災後のさまざまなストレスや生活・環境の変化によって健康障害・生活障害を起こしやすくなっており、そのため、それぞれに応じたニーズを理解し、支援が長期に及ぶ場合も想定しつつ、支援を行っていきます。

<高齢者が災害時に困ること>
・高齢者の中で耳が聞こえづらくなっている人は多くいる。しかし、避難所では食事の時間や入浴時間の連絡がハンドマイクで行われることがあり、情報が聞こえずに食事や入浴できない場合がある。

・認知症の人が避難所での生活を過ごせるのは、初日で2割、3日で7割が限界と言われています(一般社団法人日本認知症ケア学会「避難所での支援ガイド」より)。認知症の人は、元々人より音や光に敏感であり、また、慣れない環境や多くの見知らぬ人々との生活によって不穏状態になったり、排泄のトラブルが起きたりする。

<留意点>

■活動の低下による廃用症候群(生活不活発病)※の予防
被災後、本人の意思とは無関係に、動きたいのに動けない理由はたくさんあります。周囲の道が危なくて歩けない、避難所での通路が確保されていないため歩きにくい、また、つかまるものがないので立ち上がりにくい、椅子が少ないので日中つい横になってしまう、などがあります。ですので、周囲の声掛けや生活行動の工夫によってなるべく活動してもらうようにし、できる限り、身の回りのことは自分でしてもらうようにしたり、役割や楽しみを持ってもらうようにしましょう。これによって自立と、本人の自尊心の欠如を防ぎ、威厳を保つこともできます。

※廃用症候群(生活不活発病)
「動かない」(生活が不活発な)状態が続くことにより、心身の機能が低下して、「動けなくなる」ことをいいます。

■認知症の悪化の防止
災害による心身の疲労や体調の変化、避難所生活という急激な生活の変化は、認知症高齢者の症状増悪したり、症状が顕著に出たりします。認知症症状の悪化を防止するためには、以下の点に気を付けながら支援しましょう。
(1) できるだけ、個室や仕切りスペースなど本人が落ち着ける環境をつくる
(2) 介護者・避難所内の支援者に介護のポイントを伝え、本人を混乱・困惑させないよう穏やかな態度で接する。また、言動の否定をせず、避難所生活の困難な点を聞き取り介助する。
(3) 家族が避難所に不在の場合は、ともに散歩したり、顔なじみの人と世間話などをする機会を設けて、人との関係性をつくり、落ち着いて過ごしてもらうようにかかわる。
(4) 不穏、興奮、徘徊などの症状の増悪があれば、医師や保健師などのサポートが受けられるようにする。

また、『つぼみのもっと知りたい災害看護 第4回』でも紹介した口腔ケアによる誤嚥性肺炎の防止も重要な支援となります。

障害がある人

障害がある人も、肢体不自由、視覚障害、聴覚障害、知的障害、発達障害、精神障害などそれぞれ生活上の困難や、ニーズが違っているので、必要に応じた支援や、情報の伝達の配慮が必要となります。また、外見から分かる障害ばかりではないので、困難があっても遠慮したり、あきらめていて自ら声に出しにくい人も多くいます。そのような人々は災害の時は「自分は大丈夫」と遠慮をしてしまうため、更にそうなりやすいことが多いと思いながら接していく必要があります。

<障害がある人が災害時に困ること>
・重度の知的障害がある人が、避難中パニック状態が続いてしまい、避難所で夜中に走り回ったり、排泄を失敗してしまったり、他の避難住民からの不満が出てしまうことがある。

・日常生活の中で、人工呼吸器や吸引器を必須とする重症心身障害がある人が、家族だけでは機器と本人の移動ができず、避難所まで行けず、必要な支援や物資が受けられないことがある。

<留意点>

■サポートの配慮
災害時、障害のある人へは、まずその人の障害の内容、それに応じた必要なサポートを把握しましょう。そして、トイレや出入口にアクセスしやすい場所、サポートを受けやすい場所を確保しましょう。また、周囲と必要なサポートについて共有し、本人の障害に応じた方法で随時必要な情報を伝えられるようにしましょう。例えば視覚障害の方を誘導する場合は、杖を持たない方の手で介助者の腕や手につかまってもらって下さい。聴覚障害のある方には、筆談や携帯電話の画面メモ等で知らせ、緊急時は手を引いて一緒に避難しましょう。

■健康状態や心身の疲れの確認
障害のある人は、体調不良やケガがあるにもかかわらず、本人自身も気づいていない場合や、気づいていても苦痛を表出できていない場合があります。周囲が気づかずにそのまま放置すると、状態が悪化してしまう場合がありますので、小まめな観察と聞き取りが必要です。また、健常者にとっては何の困難がないことでも、障害のある人には日常生活に困難をきたすぐらい苦痛に感じることがあります。そのためストレスの蓄積がより起きやすく、支援を優先的に考えなければならない場合があります。

妊娠中・乳幼児を抱えた女性

周産期にある女性(妊婦・産婦・褥婦)や、乳幼児は、清潔、保温、栄養をはじめとする健康面への配慮や心身の状態の変化に対応できるよう専門家の確保・相談が必要です。

<出産前後の人が災害時に困ること>
・入浴や、着替えが難しかったり、トイレも共同の仮設トイレを利用せざるを得なかったりし、妊娠中に不可欠である清潔を保つことができない。

・強い心理的ストレスから、今まで出ていなかった身体的症状が出現することがあるが、「妊娠は病気ではない」という思いから、なかなか自ら言い出せないことがある。

<留意点>

■妊娠期に応じた支援
【妊娠初期】
身体的に、つわりや眠気、においに敏感になったり、限られた種類の食べ物しか受け付けなくなったりなど、マイナートラブルが多く、それらに対応することで精一杯のため、新しい環境に適応することが困難であることが多くあります。また、妊娠初期は流産のリスクが伴うため、寒冷刺激や、重労働を避けるなど環境を整えることが必要です。
【妊娠中期】
中期になると、前述したようなマイナートラブルは比較的解消され、身体的にも安定してきています。そして、胎動の自覚に伴って愛情感覚も高まっていっているので、胎児と自分のために健康的に過ごそうと思う時期です。この時期に災害に遭遇することは健康的な心身のセルフケアが困難になり、それが心理的ストレスにつながります。正常から逸脱した症状がないか気を付けつつ、相談できるような医師や助産師、保健師や窓口や情報を提供できるよう努めるようにします。また、マタニティウェアを着用するようになると妊婦として認識されるようになり、他者からの配慮や援助も得られやすくなるので、入手できるようであれば可能な限り勧めます。
【妊娠末期】
お腹が大きくなることにより、腰痛やむくみなど、マイナートラブルが生じやすく、活動性も低下しやすくなっています。心理的なストレスから腹部の緊張(子宮収縮)も起こりやすく、また、分娩や子どもに対する期待と不安から不安定な状態になりやすくなっています。この時期に災害に遭遇すると、マイナートラブルが悪化しやすく、また、分娩や子どもに対する心配や不安に加え、分娩可能な施設の確保について不安が生じているので、細やかな声掛け、全身状態の観察をし、心理状態やマイナートラブルの悪化を防ぐようにします。
【分娩期】
災害時は、停電により分娩時に使用する予定の医療機器の使用が不可能になる場合があります。そして災害に遭遇した産婦は、通常通りの医療やケアが受けられるのか、無事に分娩終了できるのかという不安が増強しています。
【産褥期】
産褥早期では通常でも痛みによる行動制限や、排泄が調整できなかったり眠れなかったりと生理的ニーズが充足されにくい時期であり、この時期に災害に遭遇することは、その後の褥婦と新生児の順調な経過を脅かす可能性があります。また、心理的ストレスから母乳が一時的に出なくなることもあります。不足分を粉ミルクで補いつつ、乳を吸わせ続けることで再び出てくることが期待されるので、そのように指導しましょう。粉ミルクを使用する際の水は衛生的なものを用意し、哺乳瓶の煮沸や消毒ができない時は、使い捨ての紙コップを使って少しずつ時間をかけて飲ませるようにしましょう。

子ども

どのような災害であっても、子どもが受ける心身への衝撃と、その後の成長発達へ及ぼす影響は大きいです。災害の種類や発生からの時間経過と生活の場によって、影響はさまざまに異なりますが、子どもは特に成長発達段階(年齢)によって違いが大きく、援助に際して細やかに気遣うことが必要となります。また、子ども同士の安全な遊び場や時間を確保するなど、子どもらしい日常生活が送れるようにしてあげることが大切です。

<子どもが災害時に困ること>
・子どもは特に災害時の心理ストレスからPTSDにつながることが多く、被災後、しばらくは強風や余震にひどく怯えたり、子ども返りや夜泣き・夜尿症、チックが続くなどがある。

・避難所での集団生活の中で、子どもは風邪や感染症に罹患しやすい。また、避難中は低栄養な食事が続いてしまうので、風邪などの病気に感染した際の悪化にも注意が必要である。

<留意点>

■子どもが受ける災害ストレスのケア
災害発生直後に五感で受けた刺激と恐怖体験は急性ストレス障害(acute stress disorder : ASD)として現れます。その後に現れるPTSDにも子どもの発達段階(月齢・歳)や状況確認や判断の未熟さ、個別的な性格・敏感さ、子ども固有の受け止め方や反応の現れ方があることを理解しておきます。
具体的なケアでは、子どもに話しかけたり、抱きしめてあげたり、スキンシップをとって安心感を持たせてあげるように働きかけるようにしたり、睡眠がとれるように環境を整えてあげるようにします。また、子どもは遊びを通して感情を外に出せるようにすることが大切なので、絵を描いたり、ぬいぐるみで遊んだりできるように、遊びの場を確保してあげるようにしましょう。

■脱水症状の防止
子どもは細胞外液や、発汗が多く、更に腎臓機能の発達も十分ではないので、脱水症状を起こしやすくなっています。唇の渇きや尿の回数の減少が無いかを注意し、小まめな水分摂取を促すようにしましょう。

慢性疾患のある人

災害が発生すると、救命や骨折、外傷の手当てに集中し、慢性疾患はつい後回しにされてしまいがちです。また、自身も災害後の後片付けに集中するあまり、病気の心配まで気が回らない状態になることがあります。東日本大震災では、発生直後・急性期の医療ニーズは少なかったのですが、在宅酸素療法(HOT)を受けている患者や、血液透析患者など慢性疾患をもつ方々の医療ニーズが高く、長期に渡っての支援が必要となりました。

<慢性疾患のある人が災害時に困ること>
・内部疾患を抱えているが、外見からは分からず、自らも言い出せず、避難中困難を来すことが多くある。例えば、オストメイト(人工肛門を装着している人)が、洗浄の場所がなく、また、周囲の人にも理解されず避難所に居づらくなったり、心臓疾患のある人が避難所での暖房器具の不足から寒さに耐えられないなどがある。

・疾患によっては、少しの感染症も重症化する可能性があり、その不安から避難所へ移動することができず、自宅や車で過ごし、必要な物資や支援が受けられず、また、医師や看護師への相談をする機会ができないことがある。

<留意点>

■必要な治療・服薬等の継続
慢性疾患の中には、治療の継続が特に欠かせない病気があります。人工透析やインスリンを必要としている人には、治療を継続していけるようなネットワークが確立されているのか、その地域の情報を地元の保健師や保健医療調整本部に確認し、その後も継続できるよう体制を整えていく必要があります。
また、「こんな状況だからしょうがない」と治療を受けず我慢してしまう人も多くいるので、巡回などでよく話を聞くようにし、もし酸素など医療機器を必要とするならば、どのような方法をとれば継続的に資材が手元に届き、治療を継続していけるのかを知っておけるようにしましょう。


ここまでご紹介させていただいた要配慮者への看護は、主に避難所での支援を想定しています。しかし、避難所での生活に適応できなかったり、周囲との共同生活に困難があったり、やむを得ず自宅や車中で避難をしている方もいますので、被災地域のネットワークを利用・情報収集して、その上で支援することも大切です。
 

今回、要配慮者の人々の対象別支援の方法を紹介させてもらいましたが、これらはごく一部です。
高齢者でも身体の状態の違い、障害でも障害部位の違い、妊娠期の時期の違い、
子どもの成長時期の違い、持病の違い、それぞれの違いによって
災害時に必要な支援や看護は変わっていきます。
ですが災害後、被災者は皆、不安や悲しみの中で日々を過ごしているのは共通しているので
コミュニケーションや細やかな観察から、少しでも過ごしやすいように
それぞれに応じた支援ができるようにしていけたら良いですね。