つぼみのもっと知りたい!災害看護

今回は「災害時要配慮者」ついてお話します。
災害時に、より手助けを必要とする人について皆さんは知っていますか?
そういった人たちについて今回と次回、2回に分けて紹介します!

どんな人たちが「災害時要配慮者」なの?

地震や豪雨などの災害が発生した際、被災した人たちは混乱しながら自身の身を守ろうとすると思います。しかし、日常的にも支援を必要とする人たちが災害に直面した際、健常者よりも避難や自身の身を守る行動が更に難しくなり、支援を必要とします。そういった人たちを「災害時要配慮者」とよびます。

どのような困難があるかというと……

○自分の身に危険が差し迫った場合、それを察知する能力がない、又は困難である。
○自分の身に危険が差し迫った場合、それを察知しても救助者に伝えることができない、又は困難である。
○危険を知らせる情報を受けることができない、又は困難である。
○危険を知らせる情報が送られても、それに対して行動することができない、又は困難である。

さらにより具体的には、どの様な人たちが対象になるのかというと……

○心身障害者(肢体不自由者、知的障害者、内部障害者、視覚・聴覚障害者)
○認知症や体力的に衰えのある高齢者
○日常的には健常者であっても理解力や判断力のまだ難しい乳幼児
○一時的な行動支障を負っている妊産婦や傷病者
○日本語の理解が十分でない外国人
○地理に疎い地域外からの旅行者

上記のような人たちは以前は「災害弱者」とよばれていましたが、明確な定義などはありませんでした。平成7(1995)年に発生した阪神淡路大震災以前から災害弱者に対して、支援のための問題提議はされていましたが、具体的な地域での動きはあまりありませんでした。しかし、平成23(2011)年3月に発生した東日本大震災では、被災地全体の死者のうち65歳以上の高齢者の死者数は約6割であり、障害者の死亡率は被災住民全体の死亡率の約2倍に上りました。こうした東日本大震災の教訓を踏まえ、平成25(2013)年の災害対策基本法の改正の際、災害時配慮者の対象者が明確に明記され、また、災害時要配慮者の中から、各市町村の中で「避難行動要支援者」とよばれる対象の人たちの名簿の作成、名簿情報の避難支援等関係者への提供などの規定が設けられました。

*対象者の定義は各市町村によって異なります。

【避難行動要支援者】
災害が発生し、又は災害が発生するおそれがある場合に自ら避難することが困難な者であって、その円滑かつ迅速な避難の確保を図るため特に支援を要する者。

【避難行動要支援者名簿】
地域防災計画の定めるところにより、避難行動要支援者について避難の支援、安否の確認その他の避難行動要支援者の生命又は身体を災害から保護するために必要な措置を実施するための基礎とする名簿。

【避難支援等関係者】
災害の発生に備え、避難支援等の実施に必要な限度で、地域防災計画の定めるところにより、消防機関、都道府県警察、民生委員、市町村社会福祉協議会、自主防災組織その他の避難支援等の実施に携わる関係者。

災害対策基本法(昭和36年法律第223号)より抜粋 平成25(2013)年
(避難行動要支援者名簿の作成)
第四十九条の十 市町村長は、当該市町村に居住する要配慮者のうち、災害が発生し、又は災害が発生するおそれがある場合に自ら避難することが困難な者であって、その円滑かつ迅速な避難の確保を図るため特に支援を要するもの(以下「避難行動要支援者」という。)の把握に努めるとともに、地域防災計画の定めるところにより、避難行動要支援者について避難の支援、安否の確認その他の避難行動要支援者の生命又は身体を災害から保護するために必要な措置(以下「避難支援等」という。)を実施するための基礎とする名簿(以下この条及び次条第一項において「避難行動要支援者名簿」という。)を作成しておかなければならない。

(名簿情報の利用及び提供)
第四十九条の十一 市町村長は、避難支援等の実施に必要な限度で、前条第一項の規定により作成した避難行動要支援者名簿に記載し、又は記録された情報(以下「名簿情報」という。)を、その保有に当たって特定された利用の目的以外の目的のために内部で利用することができる。
2 市町村長は、災害の発生に備え、避難支援等の実施に必要な限度で、地域防災計画の定めるところにより、消防機関、都道府県警察、民生委員法 (昭和二十三年法律第百九十八号)に定める民生委員、社会福祉法 (昭和二十六年法律第四十五号)第百九条第一項 に規定する市町村社会福祉協議会、自主防災組織その他の避難支援等の実施に携わる関係者(次項において「避難支援等関係者」という。)に対し、名簿情報を提供するものとする。ただし、当該市町村の条例に特別の定めがある場合を除き、名簿情報を提供することについて本人(当該名簿情報によって識別される特定の個人をいう。次項において同じ。)の同意が得られない場合は、この限りでない。
3 市町村長は、災害が発生し、又は発生するおそれがある場合において、避難行動要支援者の生命又は身体を災害から保護するために特に必要があると認めるときは、避難支援等の実施に必要な限度で、避難支援等関係者その他の者に対し、名簿情報を提供することができる。この場合においては、名簿情報を提供することについて本人の同意を得ることを要しない。

避難行動要支援者名簿について

平成28(2016)に総務省が行った「避難行動要支援者名簿の作成等に係る取り組み状況の調査」によると、調査対象市町村(1,735市町村)のうち約84%が名簿作成済みです。

●A市の場合、避難行動支援者名簿作成までの流れ

(1)名簿作成
避難行動要支援者の情報を集約し、名簿を作成する。
(2)同意の確認
避難行動要支援者に対して、避難支援等関係者への平常時からの名簿提供に同意できるかの確認を、随時郵送等で行う。
(3)同意確認への返信
避難行動要支援者には、平常時からの情報提供への同意の有無について、「避難行動要支援者同意確認書」により、報告してもらう。
(4)同意者の名簿提供
避難行動要支援者のうち、平常時からの情報提供に同意した者の名簿情報(要支援者から提供された情報の全て)を、平常時から避難支援等関係者に提供する。
(5)平常時の見守りなど
避難支援等関係者は、避難行動要支援者名簿を活用し、避難行動要支援者への声掛けや見守り活動等の実施により、地域の中での顔の見える関係づくりに努める。
(6)災害発生時等の避難支援・安否確認等
避難支援等関係者は、災害が発生し、または災害が発生するおそれがある場合は、災害の種類に応じ、平常時からの取り組みをもとに、可能な範囲で避難支援や安否確認等の実施に努める。
(7)支援情報(救援ニーズ)の伝達及び公的支援
避難支援等関係者は、支援情報(救援ニーズ)を市へ伝達し、市が、情報をもとに、関係機関と連携して公的支援を実施する。

災害時要配慮者が抱える支障

災害が起こった際、災害時要配慮者の方々は様々な支障に直面します。主な支障はまず
■情報が伝達・理解されにくい「情報支障」。例えば、聴覚障害がある場合、サイレンや警報が聞こえない、知的障害のある場合、災害情報が理解できないなどの支障があります。

■被災をまぬがれるための「危険回避行動支障」は、例えば、肢体に障害がある場合、すぐそこに危険が迫っていても咄嗟の行動が遅れたり、自身の身体を支えきれず転倒しそのまま起き上がれずに危険に巻き込まれてしまうなどの支障があります。

■日常の移動空間が被災したことによる「移動行動支障」(「避難行動支障」も含む)は、例えば車いすなどの補助具を日常的に使用している人が災害によって道の亀裂などで移動できない、停電によるエレベーターの停止によって移動できない、などの支障があります。

■被災により日常生活行動が狭められる「生活行動支障」(避難所等も含む)は、例えば人工透析を定期的に受けている人が通院先の病院も被災してしまい受けるべき透析が受けられない、たん吸引を必要とする人が停電により吸引器の充電ができず満足に吸引ができない、などの支障があります。

■急激な生活環境の変化へ心理的・精神的に対応できない「適応支障」は、例えば自閉症がある場合、日常で本人がこなしたいルーティーンが行えずパニックを起こしてしまう、日本語が達者ではない外国人が避難所でコミュニケーションが取れず孤立してしまう、などの支障があります。

■さらに生活環境面からは住宅・建物構造等の「構造支障」は、建物の耐震や家具の防災策が行き届いておらず大きな被害に至ってしまったり、最悪死亡してしまったりする、などの支障があります。

■生活再建に向けた「経済支障」は、災害によってそれまでの住居や職、財産を失ったが、それを再び構築することができない、などの支障があります。

以上、各支障に関する事項が以下の表にまとめられていますので、目を通してみて下さい。

●災害時要配慮者が直面しうる主な支障

 

災害発生時、健常者であっても不便や困難なことは数多くあります。
そして、災害時要配慮者は、さらに多くの手助けを必要とします。
災害の混乱の中で、取り残されないよう、また、災害関連死につながらないよう
地域の中で助け合えるようなネットワークづくりができていたら良いですね。
次回は、災害発生時にもし現地で看護を行うことになったら、
災害時要配慮者に対してどのような看護を必要とするかを、
高齢者や障害のある人など対象者別に紹介します!