先日、毎日新聞に『妊産婦死亡 自殺が最多』という記事が掲載されていた。
記事によると……2015年~2016年の2年間に妊娠中や産後に自殺した女性は全国で102人いたとの調査結果を、国立成育医療研究センターなどのチームが5日、公表した。病気などを含めた妊産婦死亡数の約3割を占め、最多だった。全国的な妊産婦の自殺数が判明するのは初めて。産後に発症する「産後うつ」などが要因とみられる。
調査では全ての出生、死亡情報を含む厚生労働省の人口動態のデータを分析した。2年間に死亡した妊娠中から産後1年未満の女性は357人で、うち自殺は29%だった。その他の死因は、がんや心疾患、脳神経疾患などだった。
出産後の自殺92人を分析したところ、年代別では35歳以上が45人でほぼ半数で、初産も60人で65%を占めた。世帯別では、就労している人がひとりもいない「無職世帯」の女性の自殺率が高かった。(略)
妊産婦の自殺については、東京23区で14年までの10年間に63人が死亡したとの調査がある。
厚労省は昨年度、産後うつや児童虐待を予防するため、産後2週間や1か月の健診を行う自治体への補助制度を新設している。

ということで、今回は「産後うつと産後ケア」に注目して解説!

例えば『産後うつ』について、過去の国試ではこのように出題されていた!!

第105回 午後・56
産後うつ病について正しいのはどれか。
1.一過性に涙もろくなる。
2.スクリーニング調査票がある。
3.日本における発症頻度は40%である。
4.産後10日ころまでに発症することが多い。

正解 2

 

この問題を新聞記事・ネットニュースから読み解く!!

我が子に会える喜び、新しい家族が増えるという期待感など、きっとそれぞれ出産に対する思いは、大きく強く、妊婦の方1人ひとりが抱いていることと思います。しかし、その出産に対する思いは必ずしもポジティブなものだけではなく、出産そのものや出産後の育児に対する不安から自殺をしてしまう女性がいるということを知っていましたか? とても悲しいことです。ではなぜそのようなことが起こってしまうのでしょうか。その理由のひとつに「産後うつ」があります。
10人に1人(約10%)が発症するとされる「産後うつ」は、産褥精神病の約半数を占め、産褥1か月以内に急激に発症します。産褥7~10日以内に生じる一過性の情動障害であるマタニティーブルーズとは異なり、妊娠以外の時期にみられるうつ病と同じく、強い抑うつ感があり、これを早期に診断するために、エジンバラ産後うつ病調査票というスクリーニング調査票が用いられます。対処法としては、褥婦に対する理解と共感、そして家族の協力が必須となります。軽症例では、助産師による育児相談で軽快する場合もありますが、重症例では精神科医による精神療法、薬物療法を必要とするなど、個人差があります。
そこで、今回はそんな産後うつ等にならないように、お母さんのためのケアについて書かれた記事がいくつかありましたので、紹介していきたいと思います。

 

産後ケア事業実施自治体の少なさがひとつの大きな問題点!?

出産後のお母さんは、心身ともに疲弊しており、不調になりやすい状態です。また、これから始まる育児生活等、不安に思うこともたくさんあります。だからこそ、家族や周りの人からのサポートというのが非常に重要になってきます。
そんな中、その産後のお母さんをケアする為の公的サービスである、「産後ケア事業」についての記事がありましたので、紹介していきたいと思います。


助産師などの専門家が産後の母親の心や体の不調に対し、うつや虐待予防の一環としても期待が集まる「産後ケア事業」を実施する市区町村は全国で26%にとどまることが4日、厚生労働省の委託調査で分かった。国は事業の全国展開に力を入れるが、「今後実施予定」の自治体も34%と低迷しており、予算と人手不足が壁となっているようだ。
産後ケアは、核家族化により身近な人の助けが得られないなどの事情がある母親の孤立を防ぐことが目的。お風呂の入れ方など発育に応じた指導をしたり、悩みを聞いて不安を和らげたりする。自宅や病院、専門施設で実施している。
(略)事業を実施している自治体は26.2%、「今後実施予定」は34.4%だった。一方「実施予定なし」は28.6%で、多くが「予算や人員の確保が難しい」を挙げた。
国は2015年度から事業費の半分を補助。17年に産後ケア事業の種類や方法、注意点をまとめた指針を公表し、取り組みを促している。
個別回答では、補助の継続や拡大など国の支援に対する要望が目立った他、実施自治体の多くが事業の周知や潜在的ニーズの掘り起こしを課題として挙げた。事業があっても年間利用がゼロの自治体もあった。(略)

—東京新聞  2018年8月5日(日)

この産後ケア事業を実施している自治体が少ないというのは、冒頭の産後うつによる自殺者が多いという記事に少なからず関係しているのではないかと思います。実施するのは難しく、すぐに対応できることではないのかもしれませんが、こういった産後ケアがもっと浸透し、広がっていき、妊婦や出産間もないお母さん1人ひとりにもっと親身になれる距離にいれば、産後うつになることも、ましてや自殺することもなく、充実した心身で育児に取り組んでいけるのではないでしょうか。

※産後ケア事業について詳しくは「産前・産後サポート事業ガイドライン 産後ケア事業ガイドライン」

 

もっと近くで! もっと親身に! 「産後ドゥーラ」

しかし、産後のお母さんへのサポートが何も充実していなかったり、進歩していないということではありません。皆さんは『産後ドゥーラ』という専門家を知っていますか。ドゥーラとはギリシャ語で「助ける人」のことで、産後ドゥーラとは、『産後間もない母親に寄り添い、子育てが軌道に乗るまでの期間、日常生活(くらし)を支える専門家』です。
そんな産後ドゥーラとして活躍する1人の女性を紹介した記事がありましたのでみていきましょう。

産前産後の女性に寄り添い、生活全般をサポートする専門職「産後ドゥーラ」。認定を受けた女性の活動が各地に広がりつつある。福井県越前町の水島ゆかりさん(50)が7月、福井市を拠点に開業。「周囲に頼れる人がいない」と、ストレスや孤独感を抱える母親を支えている。(略)
8月下旬、福井市のTさん(35)宅。水島さんが生後1か月の長女の沐浴を済ませ、おむつをはかせながら相談に乗っていた。Tさんは「成長具合とか、ちょっと不安に思ったことをすぐに聞ける距離感なので、心に余裕ができた」と笑顔で話す。
ドゥーラはギリシャ語に由来し「他の女性を支援する経験豊かな女性」を意味する。2012年に、養成のための一般社団法人「ドゥーラ協会」<東京>が発足。乳幼児の発達や救命救急などを学ぶ講座を経て認定された女性は今年8月時点で約350人に上る。
協会によると、開業する人は首都圏に多く、自治体の利用費助成制度も広がりつつある。一方、地方でも核家族化や祖父母世代の高齢化が進み、サポートの需要は高まっているが、浸透していないのが現状だという。
会社勤めをしながら4人の息子を育てた水島さん。長男と20歳離れた四男を08年に出産した際、一人で育児に悩むママ友が以前より目立つことが気に掛かった。育児放棄や虐待の報道に接することも増え、「自分の経験が助けになれば」と15年、講座に申し込んだ。
16年に認定後は保育所で働いたり「だしソムリエ」の資格を取得したりして開業に備えた。ホルモンバランスの変化や夜泣き、授乳などで心身が不安定になりがちな母親のケアに心を砕き、体に優しい食事作りやアロマサービスも提供する。
「一人で抱え込まなくていいんだよって教えてあげたい」と力強く語る。求められれば県内外のどこにでも出向くつもりだ。

—日本経済新聞・電子版  2018年9月14日(金)

この産後ドゥーラという職業の方は、とても親身に、近い距離で産後のケアをしてくれるようです。そのため、お母さんの気持ちや不安に寄り添うことができ、冒頭の産後うつや自殺といった問題が解決をしていく、ひとつの手掛かりになるのではないでしょうか。
家族の事情や何にかしらの理由で、近くに頼る人がいない、1人で不安な日々を過ごしているお母さんが、私たちの周りにも必ずいるはずです。どうにかして、もっともっとこの産後ドゥーラという職業が多くの人の目にとまり、広がることで、そういったお母さんが少しでも減ってくれればと思います。

※産後ドゥーラについて詳しくは産後ドゥーラってなに? 

 

公的サービスも大事だけど、もっと大事なのは周りの人との関わりや繋がりなのでは……


産後うつになってしまう人や、妊産婦の自殺者数が徐々に増加してしまっている背景には、今の世の中の人間関係の在り方が関係しているのではないでしょうか。しかし、まだまだ希望はあるはずです。産後ケア事業実施自治体の増加や、産後ドゥーラの普及だけではなく、もっと人と人との距離感の近い世の中であれば、そして、頼る人や助け合える人が近くにいれば、きっと産後うつや自殺といったことはなくなっていくのではないかと思います。少し個人的な話ではありますが、今回のコラムを書いている途中で、親友から子どもが生まれたという連絡を貰いました。自分に何が出来るかは分かりませんが、もし何かあった時は飛んで行きたいと思いますし、そういったサービスもあるんだよと教えてあげたいと思います。それもまた立派な助け合いのひとつになるのではないでしょうか。
少しずつでも良い、みんなで母親を助ける、みんなで子ども達を育てていく、そんな世の中になっていって欲しいと願います。

 

イラスト:Aokimac

 

おまけ! 今回のテーマに関連するワードの過去問題も見てみよう!

第96回 午前問題138
第99回 午前問題69