先日、毎日新聞に『熱中症 晩夏より初夏』という記事が掲載された。
記事によると……熱中症で病院に救急搬送される人の割合は、夏の前半が後半より高くなることを、首都大学東京の藤部文昭・特任教授らの研究グループがデータ解析で明らかにした。夏の初めと終わりでは約2倍も差があった。暑さに体が慣れていないことが理由とみられる。
研究グループは総務省消防庁などのデータを使い、2010~2017年の熱中症による救急搬送者数と人口、気温の関係を旬(10日間)ごとに調べた。その結果、例えば夏の終わりの9月下旬は、全国の平均気温20.9度で搬送率が10万人当たり0.33人だったのに対し、夏の初めの6月上旬は気温20.0度と低いのに搬送率は2倍以上の同0.69人だった。
搬送率は同7.45人となるピークの7月下旬に向かって上がっていた。同じ気温だと、7月までの方が8月以降より高い傾向がみられた。
研究グループが以前調べた死亡率の地域差は、1日の最高気温が同じでも関東以西より北日本の方が高かった。藤部特任教授は「今回の分析同様、暑さ慣れしていないと熱中症のリスクが高まることを示している」と話す。
総務省消防庁によると、今年4月30日~5月13日、全国で545人が熱中症により救急搬送された。

ということで、今回は「熱中症」に注目して解説!

例えば『熱中症』について、過去に国試ではこのように出題されていた!!

第101回 午後・42
排尿回数が減少するのはどれか。
1.フロセミドの内服
2.寒冷な環境
3.熱中症
4.膀胱炎
正解 3

この問題を新聞記事・ネットニュースから読み解く!!

熱中症というワードはこれまでの国家試験にも色々な形で出てきています。そして国家試験以上に、毎年暑くなってくると必ず耳にします。やはりそれだけ熱中症というのはこれからの季節の生活の中で、身近な疾患であるということが分かります。
上記の問題では排尿回数が減少するのが熱中症ということになっていますが、具体的に熱中症とはどんな症状等が現れるのか、少しだけ簡単に説明しておきます。
暑い環境の中で、熱の放散がうまくいかないと、熱が体内にこもってうつ熱という状態になります。このうつ熱は、脱水をおこしやすい高齢者や、体温調節機能の未発達な小児に起こりやすいですが、健常者でも高温の中、激しい運動を長時間続けたりすると起こります。このうつ熱状態で生じる障害を熱中症とよびます。
日本神経救急学会では、この熱中症を重症度でⅠ度からⅢ度に分類しています。
Ⅰ度ではめまい・失神・筋肉痛・筋肉の硬直・手足のしびれ・気分の不快などの症状ですが、Ⅱ度になると、頭痛・吐きけ・嘔吐・倦怠感・脱水による虚脱感などといった症状があらわれます。さらに進行するとⅢ度となり、中枢神経症状・肝機能障害・腎機能障害・血液凝固異常などが起こり、熱射病とよばれるようになっていきます。
つまり、上記の問題でいうと、体が脱水状態となり、排尿回数が減少しているため答えは熱中症であり、重症度は恐らくⅡ度を設定した問題となっていることになりますね。

さて、今回は5月16日の記事から見つけた、熱中症による搬送者が夏真っ只中の8月よりも初夏の方が多いという、データに基づいた内容の話題ですが、色々な記事やネットニュースを見ていると、まるでこのデータを裏付けるような他のニュースが見つかりました。
まずはそのニュースを見ながら、今年の夏の熱中症予防なども絡めて解説していきたいと思います。

やっぱり本当だった! 熱中症患者、梅雨入り前なのに急増中!

春が終わってゴールデンウィークが過ぎて、新生活に慣れ始めた5月の下旬であり、関東ではまだ梅雨入り前ですが、実は既に熱中症患者が急増し始めているのをご存知だったでしょうか。確かに暑い日があったり、寒い日もあったりで温度差が激しかったりしますが、それもまた関係があるのでしょうか。
そんな疑問と冒頭の記事のデータを裏付けてくれるようなニュースが、日経電子版にありました―――。

総務省消防庁は22日、熱中症で14~20日の1週間に搬送されたのは、全国で957人だったとの速報値を発表した。このうち福岡県の1人が死亡した。前週の187人の5倍以上に増えた。
担当者は「暑さに体が慣れていない時期なので、急に気温が高くなった日はこまめに水分補給をしてほしい」と呼び掛けた。
集計によると、3週間以上の入院が必要な重症者は24人、短期の入院が必要な中等症は295人だった。年齢別では、65歳以上が53%を占めた。
都道府県別に見ると、埼玉の82人が最も多く、大阪57人、愛知55人、東京54人と続いた。
—日経電子版  2018年5月22日(火)

この記事に掲載されている数字を見ると、14~20日の間に全国で約1000人近い人が熱中症として救急搬送されていることがわかります。しかし、救急搬送はされていなくても、熱中症になっていた人は恐らくまだまだいたのではないかと思います。
そこで、なぜこの1週間でこれだけ多くなったのか、この1週間とその前の週の東京の最高気温を気象庁のサイトで見てみると、7~13日と14~20日では最高気温が全然違っていて、比較的寒かった週から、急に暑い週に変わっていたということが分かりました。
(7~13日の東京の1週間の平均最高気温は19°、14~20日の東京の1週間の平均最高気温は27°でした。中でも驚きなのは、9日[水]の最高気温は14°に対して、16日[水]の最高気温は29°で、同じ水曜日だけで見ると15°の温度差がありました。)
記事にあった通り、「暑さに体が慣れていない」ということでしょうか……。

 

キテます、新しい「熱中症予防」の時代。

毎年、色々な企業や団体がこの熱中症の対策や、予防活動を行っています。
そんな中、他にも調べていると、とても興味深い記事を見つけました。
まずはその記事からみてみましょう。

環境省は20日、熱中症の起きやすさを示す「暑さ指数」の公表をインターネットで始めた。
暑さ指数は気温や温度、日差しの強さから算出する国際指標。全国約840地点について、「ほぼ安全」から「危険」の5段階で色分けして表示している。(略)
熱中症予防情報サイトで公開している。9月28日まで。
—読売新聞yomiDr.(ヨミドクター)  2018年4月23日(月)

今年、環境省が熱中症を予防するためのサイトをつくったようです。サイトを見ると分かるのですが、天気予報を見るような感覚で、その地方や場所の熱中症の起きやすさを当日と数日後までの予測もあり、とても見やすく表示してくれます。
ちょっとした時間にこのサイトを見ておくとかなりの予防に繋がり、救急搬送者数は減少するのではないかと思われます。また、このサイト上では、熱中症の予防と、対処法などについても分かりやすく掲載されていて、一読の価値ありのサイトとなっています。

この環境省の動きを見て、各自治体でもそれぞれ独自の取組みが行われているようです。
日本経済新聞ではこのような記事が掲載されていました。


東京都は、熱中症の危険度を指数にして情報を一般に広く提供するサービスを2020年までに始める。気象データを収集、分析して指数を算出。
SNSで発信し、幅広い人に使ってもらう。盛夏に開かれる東京五輪・パラリンピックで、競技者や観客が安心・安全に東京で過ごせるようにしたい考え。
気温や湿度などの気象情報や過去の熱中症患者のデータをもとに、熱中症にかかりやすくなる気象条件を数値化し、予測も可能にする。地図上に落とし込んで見やすくするほか、都民らに効果的に伝えるようSNSを活用する。
(略)20年に開く東京五輪・パラリンピックは盛夏に開くこともあり、選手や観客の熱中症対策は欠かせない。東京消防庁では6~9月に毎年4000人前後が熱中症の疑いで救急搬送されている。
—日本経済新聞  2018年5月25日(金)

先にも述べましたが、これまでも色々な熱中症予防というのがありましたが、今回この東京都が始めようとしているサービスは、これまでとは一味違った予防策となり、SNSを活用することで、自然と熱中症に対する予防意識が高まるのではないかと期待できます。「あ、今日は比較的安心できるな」や「今日はなんだか危なそう。水分を細目にとるようにしよう」というのがこれまでよりもさらに多く意識する場面が増え、自分自身だけでなく、身近な人、周りの人への「今日は熱中症になりやすいよ、気をつけてね」等の注意喚起の意識も高まっていくのではと思います。

 

熱中症予防の新時代。果たしてどこまで効果があるのか……

今回、これからどんどん増えてくる熱中症について、新聞やネットのニュースを見ながら進めてきました。
同じ気温であっても9月よりも7月の方が、患者数が多いというのはこれからの季節、しっかり気を引き締めなくてはいけないなと教えてくれた内容でした。
また、そんな中でも、地方レベルで、国レベルでしっかりと対策を考えてくれていて、少しでも患者数が減る“努力“がしっかりとあるのだということにも気づけた内容でした。
我々も、気をつけること、また、そういったツールをしっかり使いこなしていかないと、すぐにでも熱中症で倒れてしまうのだということを意識していなければならないと気付きました。

ただ、少し気になっているのは、一番熱中症になりやすい、高齢者や小児の人達が果たしてどこまでインターネットやSNSを利用して情報を手に入れられるのかといったところにも少しだけ疑問を感じました。(だって、14日~20日の熱中症の入院者は高齢者が半分以上って記事にあったし……)

どうしても気をつけていてもダラけてしまったり、気が抜けてしまったりしてしまうものですよね、夏って。ただ、少しでもダラけそうだなと感じた時に、上記の熱中症予防情報サイトなどを見て危険だと感じたら少しだけ頑張って水を細目に飲んだり、無理をしないでゆっくり体を休めるなどして、平和で楽しい夏を過ごして欲しいと思います。

イラスト:Aokimac
 

おまけ!今回のテーマに関連するワードの過去問題も見てみよう!

第96回 午前問題94
第100回 午後問題58
第101回 午前問題100・101・102