今回頂いた質問

110回の国試で、経口薬と食品の関係についての出題がありました。「グレープフルーツジュースとカルシウム拮抗薬」とか「ワルファリンと納豆」とかメジャーなところは知っていますが、他にもいろいろあるんですね。今回の問題の詳細と、他に知っておいた方がよさそうな組み合わせがあれば、教えてください。

ご質問ありがとうございます。

薬と食品の作用は体内で起こるため、患者さん自身は気がつかないことも多く、症状が現れて気がつく、ということにならないように事前の十分な注意が必要ですね。
例を挙げながら説明していきます。

1.薬の代謝過程に影響を及ぼすもの

薬は主に肝臓で代謝(分解)されます。その代謝には分解酵素が関わります。分解酵素には、酵素の働きを抑えるものと、促進させるものがあります。酵素の働きを抑えるものを酵素阻害といい、結果として薬の作用が強くなります。また、酵素の働きを促進させるものを酵素誘導といい、結果として薬の作用が弱くなります。それぞれの例について、みてみましょう。

1)酵素阻害の例:グレープフルーツジュースとカルシウム拮抗薬

グレープフルーツジュースに含まれるフラノクマリン類がカルシウム拮抗薬(降圧薬)の分解を抑えることで、薬の作用が強くなります。具体的には、カルシウム拮抗薬は血管を拡げて血圧を下げる作用がありますので、酵素阻害によって、カルシウム拮抗薬(降圧薬)の作用が強くなるため、血圧の下がりすぎに注意が必要です。


※町谷安紀著 『イラストで理解するかみくだき薬理学(第2版)』 (南山堂、2020年) より引用

酵素阻害の例として、他に以下のものなどがあります。
・ミコナゾール(抗真菌薬)とワルファリン(抗凝固薬)
 ミコナゾールの与薬によりワルファリンの代謝酵素を阻害し、出血しやすくなります(併用禁忌)。
 

2)酵素誘導の例:キサンチン系気管支拡張薬と喫煙

喘息患者さんにはそもそも禁煙をするように指導しますが、酵素誘導として有名なものがあります。
喫煙が、キサンチン系気管支拡張薬(テオフィリンなど)を分解する酵素の働きを促進させ、薬の作用を減弱させます。その結果、気管支喘息の治療に悪影響が出るのです。

また、酵素誘導の例として、他に以下のものなどがあります。
・セントジョーンズワートを含むサプリメントとテオフィリン
 セントジョーンズワート(西洋オトギリソウ)を含むサプリメントを摂取することで、テオフィリンの代謝酵素の働きを促進させ、テオフィリンの効果が減弱します。
 

2.薬が消化管の吸収に影響をおよぼすもの

薬は消化管(十二指腸から小腸)から吸収されます。薬と食品の組み合せによっては、吸収しにくい状態になることがあり、それらは消化管からの吸収が低下し、最終的に便として排出されます。せっかく与薬しても充分に吸収されず、薬の効果を得ることができなくなります
その例のひとつが、テトラサイクリン系抗菌薬と牛乳の組み合せです。テトラサイクリン系抗菌薬と、牛乳に含まれるカルシウムが合体することにより、吸収しづらい状態になることがあります。

また、消化管の吸収に影響をおよぼす他の組み合わせとして、
・ニューキノロン系抗菌薬と牛乳
・ニューキノロン系抗菌薬と酸化マグネシウム(下剤)
などがあります。
 

3.薬により体内の働きを抑制しているにも関わらず、その作用を打ち消す食品の例

ワルファリンと納豆の例を説明します。
血液凝固因子はビタミンK依存性カルボキシラーゼという酵素の働きによって活性化されます。その酵素の働きを抑えるのがワルファリンです。すなわちビタミンKの働きを抑制しているにも関わらず、ビタミンKを含む食品(納豆など)を摂食することで、ワルファリンの血液凝固作用を抑えてしまいます

薬物の相互作用にはたくさんの例があるので、ここでは代表的なものを紹介しました。
 
 
以上が質問の回答です。
では、「経口薬と食品の関係」に関する国家試験の過去の問題を解いてみましょう。

問題

第110回看護師国家試験 午後問題39

経口薬と食品の関係について、正しいのはどれか。

1. テトラサイクリン系抗菌薬は牛乳の摂取によって吸収が高まる。
2. 非ステロイド性抗炎症薬は炭酸飲料の摂取によって吸収が早まる。
3. 抗ヒスタミン薬はアルコールの摂取によって副作用〈有害事象〉が出現しやすい。
4. キサンチン系気管支拡張薬は納豆の摂取によって副作用〈有害事象〉が出現しやすくなる。

1.× 前述の2.のとおり、「薬が消化管の吸収に影響を及ぼすもの」に該当します。テトラサイクリン系抗菌薬と牛乳に含まれるカルシウムが、消化管内でキレート(合体して吸収しにくい状態になる)をつくり、消化管からの吸収が悪くなります。
2.× 選択肢1同様、「薬が消化管の吸収に影響を及ぼすもの」に該当します。
炭酸飲料は酸性であり、非ステロイド性抗炎症薬が吸収されにくい状態になり、消化管からの吸収が抑制されます。
3.○ 抗ヒスタミン薬の副作用に眠気があります。アルコールの摂取によって中枢神経の働きを抑えることにより眠気を生じます。抗ヒスタミンの与薬、アルコールの摂取の眠気が重複するので、注意が必要です。
4.× 前述の1.-2)の「薬の代謝過程に影響を及ぼすもの(酵素誘導)」に該当します。キサンチン系気管支拡張薬(テオフィリンなど)は、喫煙により薬の分解を促進し、効果が減弱します。
正解…3

●疾病の成り立ちと回復の促進について理解を深めるには、科目別強化トレーニング

編集部より

今回は、いくつかの例を紹介しましたが、サプリメントに含まれる成分が影響する例などもあります。処方前の患者さまへの聞き取りや、処方後の患者さまへの指導が重要な理由が伝わったでしょうか。