今回頂いた質問
「IgG抗体が関与する遅延型食物アレルギー」という言葉をネット上で見かけます。食物アレルギーにも即時型と遅延型があるのですか。
食物アレルギーは、クームスとゲルによるアレルギー分類(下表参照)ではI型に分類され、アナフィラキシー型とも呼ばれます。一般には皮膚反応が出るまで15分~20分の即時型で、遅延型ではありません。IgE抗体、肥満細胞、FcR陽性細胞が関与するとされています。
一方、IgG抗体は、II型やIII型のアレルギーに関与する抗体で、皮膚反応はII型なら数分から数時間、III型なら3時間~8時間程度で出るのが一般的です。
皮膚反応が出るまでに24時間~72時間かかるため遅延型とも呼ばれるのはIV型。抗体(免疫グロブリン)を介さず、T細胞が関与する細胞性免疫によるアレルギーです。また「ツベルクリン型」とも呼ばれるように、ツベルクリン反応や接触性皮膚炎、金属アレルギー、薬物アレルギーなどの疾患に見られます。
つまり「IgG抗体が関与する遅延型食物アレルギー」は、従来のアレルギー分類にはまったく当てはまらないということになるんですね。
では、ここで、アレルギーの分類と特徴について、基本を確認しておきましょう。
アレルギーの分類
型 | 名称 | 抗体・細胞 | 疾患例 | |
---|---|---|---|---|
I | アナフィラキシー型 | IgE、 肥満細胞、 FcR陽性細胞 | アナフィラキシー、 気管支喘息、 蕁麻疹、 薬物アレルギー、 食物アレルギーなど | 液性免疫 |
II | 細胞融解型 細胞傷害型 | IgG、 IgM、 FcR陽性細胞、 マクロファージ、 好中球など | 血液型不適応輸血、 自己免疫性血液疾患、 グッドパスチャー症候群など | |
III | アルザス型 免疫複合体型 | IgG、 IgM、 FcR陽性細胞、 ランゲルハンス細胞、 肥満細胞、 マクロファージ、 好中球など | 血清病、 糸球体腎炎、 全身性エリテマトーデス※、 関節リウマチ、 薬物アレルギーなど | |
IV | 遅延型 ツベルクリン型 | T細胞 | ツベルクリン反応、 接触皮膚炎、 同種移植片拒絶反応、 薬物アレルギー、 金属アレルギーなど | 細胞性免疫 |
※全身性エリテマトーデスはII、III型アレルギーの関与があるといわれている。
抗体の種類
種類 | おもな特徴 | 胎盤通過 |
---|---|---|
IgG | 血液・体液中に最も多く存在する 毒素の中和も含め、液性免疫における感染防御の主役となる | + |
IgM | 細菌を凝集させ、溶菌させる効率が高い B細胞の表面に存在する | – |
IgA | 分泌液中に多くあり、管腔での免疫の主役となる | – |
IgE | いわゆるアレルギー反応を引きおこす 寄生虫の感染で増加する | – |
IgD | B細胞の表面にも存在する | – |
アレルギー関連学会は「遅延型食物アレルギー」に科学的根拠なしと声明
最近は、「IgG抗体が関与する遅延型食物アレルギー」の検査ができることをうたった病院や診療所のホームページ、検査キットの販売サイトを目にすることがあります。しかしながら、欧米のアレルギー関連学会は科学的な根拠がないという声明を出しています。
日本でも、昨年(2014年)11月に日本小児アレルギー学会が「血中食物抗原特異的IgG抗体検査に関する注意喚起」という声明を出し、「食物抗原特異的IgG抗体検査を食物アレルギーの原因食品の診断法としては推奨しない」としています。今年(2015年)2月には、日本アレルギー学会も同様の声明を発表しました。
その理由は「食物抗原特異的IgG抗体は食物アレルギーのない健常な人にも存在する抗体であり、このIgG抗体検査結果を根拠として原因食品を診断し、陽性の場合に食物除去を指導すると、原因ではない食品まで除去となり、多品目に及ぶ場合は健康被害を招くおそれもあるから」としています。
つまり、アレルゲンであると断定できない食品まで、不確かな可能性だけですべて排除してしまうと、食べるものが限定されてしまい、充分な栄養を摂れなくなってしまうので、そちらのほうが危険ということですね。
回答は以上になります。
では、国家試験の問題を実際に解いてみましょう。
参考サイト
日本小児アレルギー学会
http://www.jspaci.jp/modules/membership/index.php?page=article&storyid=91
日本アレルギー学会
http://www.jsaweb.jp/modules/important/index.php?page=article&storyid=51
問題
第103回 看護師国家試験 午後問題83
IV型(遅延型)アレルギー反応について正しいのはどれか。2つ選べ。
1. IgE抗体が関与する。
2. 肥満細胞が関与する。
3. Tリンパ球が関与する。
4. ヒスタミンが放出される。
5. ツベルクリン反応でみられる。
2.× IV型アレルギーに関与するのはT細胞である。肥満細胞はI型アレルギーまたはIII型アレルギーに関与する。
3. ○ 正しい。IV型アレルギーは、抗原(アレルゲン)により感作したT細胞が活性化し、リンホカイン(サイトカインの一種)産生により組織を障害する。
4. × IV型アレルギーで放出されるのはリンホカインである。化学伝達物質ヒスタミンが肥満細胞から放出されるのはI型アレルギーである。
5. ○ 正しい。結核菌感染の既往判定に用いられる抗原がツベルクリンである。
答え…3・5
編集部より
食物アレルギーのアナフィラキシー・ショックは、最悪の場合、死亡することもありえます。危険要因はできるだけ排除しておきたいですが、アレルゲンの特定は、血液検査で簡単に分かるものではありません。上記「日本小児アレルギー学会」でも、食物負荷試験(少量を摂取して症状の有無を調べる)が「食物アレルギーの最も確実な診断法」としています。検査時にショック症状が起きる可能性もあるため、食物負荷試験は専門医が行います。