今回頂いた質問
大規模災害のニュースを目にする機会が増え、また災害看護の授業を受けるようになって、災害医療・看護について興味が湧いてきました。トリアージの判断基準であるSTART法について教えてください。
【START法(simple triage and rapid treatment)】
特に救助者に対し傷病者の数が多いという場合に対応できるよう、判定基準を出来るだけ客観的かつ簡素にしたトリアージ法になっています。1人の傷病者を30秒程度で判定します。START法ではまず歩行→呼吸→循環→意識の確認を行います。
確認の手順
(1)歩行の確認(気道評価):口腔内異物、誤嚥、気道閉鎖などの有無および頸椎保護の確認
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(2)呼吸の確認(呼吸評価):動脈血酸素飽和度(SpO2)、呼吸音、胸郭の動きなどを確認
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(3)循環の確認(循環評価):末梢チアノーゼ、心拍数、血圧、毛細血管再充填時間などを確認
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(4)意識の確認(中枢神経障害の評価):意識レベル、瞳孔所見などを確認
以上の手順で状態別に患者のグループ分けを行った後、グループごとにトリアージタッグでのふるいわけを行うので、多くの傷病者を迅速にトリアージしていくことができるのです。
また、START法は、救急救命室で用いられる外傷初期診療ガイドライン日本版(JATEC)「プライマリー・サーベイ」で用いられる「ABCDEアプローチ(A:気道、B:呼吸、C:循環、E:保温)」に基づいていることを関連づけて覚えておけば、実際の現場で役立つでしょう。
トリアージタッグ
【第1順位】最優先群(赤):生命の危険が迫っており、すぐに処置が必要な状態
【第2順位】中等症群(黄):多少治療の時間を遅らせても救命可能な状態
【第3順位】軽症群(緑):軽外傷(ほとんど専門医の治療を必要としないもの)
【第4順位】非治療群(黒):呼吸停止、心停止で明らかに救命の可能性がないもの
ABCDEアプローチ
■ A(Airway:気道評価・確保と頸椎保護)
気道確保をする際の困難要素となる上顎・下顎骨折、顔面損傷、気道内異物の有無などを確認。
■ B(breathing:呼吸評価と致命的な胸部外傷の処置)
呼吸の阻害要素であるフレイルチェストや開放性気胸、血胸などの有無、動脈血酸素飽和度を確認。
■ C(circulation:循環評価および蘇生と止血)
血液及び体液の正常循環を阻害する要素である循環性ショック、心タンポナーデなどの有無、毛細血管再充填時間を確認。合わせて、腹腔・胸腔内での出血及び体液貯留などの確認のためFAST検査(迅速簡易超音波検査法)を行う。
■ D(dysfunction of CNS:生命を脅かす中枢神経障害の評価)
中枢神経系の機能評価として意識レベル及び瞳孔径の確認、麻痺の有無などを確認する。
なお、搬送後グラスゴー・コーマ・スケールの低下やクッシング現象などの徴候がある状態を『切迫するD』と呼び、ABCの安定を待ち頭部CT検査や専門医による対処を必要とする。
■ E(exposure&environmental control:脱衣と体温管理)
脱衣状態での活動性外出血及び開放創の有無を確認するとともに、確認後の体温管理を行う。
では、国家試験で出題されたトリアージに関する問題を解いてみましょう。
問題
第103回 看護師国家試験 午後問題76
大規模災害時のトリアージで緊急度が最も高いと判断されるのはどれか。
1.下腿に創傷があるが補助があれば歩行できる。
2.自発呼吸はあるが橈骨動脈は触知できない。
3.気道確保しても自発呼吸がない。
4.開眼・閉眼の指示に応じる。
2.○ 自発呼吸はあるが、橈骨動脈触知不可の場合、トリアージタッグは【赤】(最優先群)と判断する。
3.× 気道確保しても自発呼吸がない場合、トリアージタッグは【黒】(非治療群)となる。
4.× トリアージオフィサー(トリアージを担当する人)の指示に応じることができる場合、トリアージタッグは【黄】(中等症群)と判断する。
答え…2
編集部より
昨今は台風、大規模地震、火山の噴火、洪水など自然災害が頻繁に起こっており、日本だけでなく世界で災害医療・看護に注目が集まっています。国試でも、トリアージでの最優先治療群を選択し、タグの色を問うという単純な問題だけでなく、START法での「確認」状況を読み解いて、トリアージの判断をさせる問題など、踏み込んだ内容になってきています。状況設定問題でも出題されているので、トリアージカテゴリーと各判断基準は確実に覚えておきましょう。