今回頂いた質問

113回の国試で、ピアジェ,J.の認知発達理論に関する問題がありました。
学校では、ピアジェの理論はそれほど詳しく習っていません。だからなのか、国試の問題もピンときませんでした。
詳しく教えていただけないでしょうか。

ご質問ありがとうございます。
ピアジェの認知発達理論は、子どもの成長を理解するための重要な枠組みひとつであり、小児看護の実践において幅広く活用されています。
例えば、プレパレーション(患児や両親の不安や緊張、恐怖心を和らげるケア)では、子供の認知発達に応じた方法を選択し、病気や治療について子供が理解しやすいように説明することが、子どもや両親の対処能力(頑張ろうとする力)を引き出す手助けとなります。

それでは、ピアジェの提唱する4つの発達段階について、それぞれの特徴を押さえていきましょう。

感覚運動期(0~2歳)

感覚運動期の子どもは、まだ言葉を使うことができませんが、見たり、聞いたり、触ったり、なめたりするなど、感覚と運動を組み合わせることで、自分と他者(人や物)を区別しようとします。そのため、この時期の子どもにはプレパレーションは適していません。
代わりに、キラキラ光るものや音がするおもちゃなど、子どもの興味を引く刺激的なアイテムを使って、ディストラクション(子どもの注意を医療処置からそらすケア)を行うのが効果的です
 

前操作期(2~7歳)

前操作期の子どもは、自分のイメージを使って物事を区別できるようになります。少しずつ言葉も理解し始めますが、習得のタイミングには個人差があります。また、見立て遊びやごっこ遊びを通じて、想像力や創造力、思考力、コミュニケーション能力が大いに発達します。ただし、この時期の子どもは、自分の視界に映るものや感覚については認識できますが、見えないものについては考えることができません。

同時に、前操作期の子どもはぬいぐるみや人形などにも命が宿っていると信じる傾向があります。そのため、ぬいぐるみや人形を通じて説明すると、子どもはそれらが同じような経験をしていると捉え、「ぬいぐるみも頑張っているから、私も頑張ろう」という前向きな気持ちを持つことができるようになるでしょう。
 

具体的操作期(7~11歳)

具体的操作期の子どもは、自らの経験を活かしながら、物事を筋道立てて考える力が身につき、論理的な思考も発展します。数や量、長さ、重さ、体積、時間、空間など科学的な概念も理解できるようになります。また、他者の考えや感情を推察する能力も育ちます。
しかし、抽象的で非日常的な概念や仮定(もし~ならば)を考えるのはまだ難しく、言葉だけでは理解しにくいです。したがって、病気の説明などでは動画やイラストなどを使って具体的に説明すると伝わりやすいでしょう。
 

形式的操作期(11歳~)

形式的操作期の子どもは、抽象的な知識や概念についても考えられるようになります。自ら経験したことがないことでも、説明や映像などから具体的なイメージを描くことができます。また、これまでの知識や経験をもとに仮説を立てて、その結果を予測して行動や発言することもできるようになります。
成人と同じような説明でも理解が得られる場合もありますが、医療用語や病態のプロセスなどについては、易しい言葉に置き換えたり、イラストなどでわかりやすく伝えたりする工夫が求められます。

 

以上が質問の回答です。
では、「ピアジェの認知発達理論」に関する国家試験の過去の問題を解いてみましょう。

問題

第113回看護師国家試験 午後問題55

ピアジェ,J.の認知発達理論における段階と病気の説明に使用するツールの組合せで適切なのはどれか。

1. 感覚運動期 ------ 人体模型
2. 前操作期 ------- 印刷文書
3. 具体的操作期 ----- 動 画
4. 形式的操作期 ----- 指人形

1.× 感覚運動期の子どもは言葉の発達が未熟であり、そもそも子ども本人への病気の説明(プレパレーション)には適していない。
2.× 前操作期の子どもは、言葉を獲得し始めたばかりの時期である。印刷媒体を用いるのであれば、文字はできるだけ少なく、イラストを中心とするのが望ましい。
3.○ 正しい。
4.× 指人形はごっこ遊びの媒体として活用されることが多く、特に前操作期の子どもに対するプレパレーションツールとして効果的である。
正解…3

●「小児看護学」について理解を深めるには、科目別強化トレーニング

編集部より

ここ数年の出題傾向を見ると、「知識を統合して実践に活かす能力」が重視される傾向があります。国家試験に向けた学習に取り組む際には、単に知識を丸暗記するのではなく、「なぜこの症状がみられるのか」「どうしてこのケアが適しているのか?」など、根拠を踏まえてアセスメントする“思考のトレーニング”を積み重ねていくとよいでしょう。