今回頂いた質問

認知症の診断テスト(HDS-R)の最中に、突然怒り出した患者さんがいました。HDS-Rは一種の心理テストだとは思いますが、怒るような内容なのでしょうか。

認知症の一般診断は、大脳皮質の萎縮、脳室の拡大を確認するCT検査MRI検査、また脳の局所血流量や脳代謝を画像で診断するPET検査SPECT検査などがあります。
さらに診察時に問診の続きとして手軽に使われる、簡易スクリーニング心理検査のMMSE(Mini-Mental-State Examination)改訂版長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)があります。どちらもよく使われますが、HDS-R はMMSEよりも質問項目が少ないのが特徴です。
HDS-Rでは、「年齢」「日時の見当識」「場所の見当識」「言葉の即時記銘」「計算」「数字の逆唱」「言葉の遅延再生」「物品記銘」「言語の流暢性」の9項目が問われます。
30点満点で、20点以下のとき、 認知症の可能性が高いと判断されます。認知症の重症度別の平均点は、非認知症: 24.3点/軽度認知症: 19.1点/中等度認知症:15.4点/やや高度認知症:10.7点/高度認知症: 4.0点 となっています。

「わたしたちは今どこにいますか?」などの質問もあり、普段、あえて質問されることはない項目もあるので、プライドを傷つけられる患者さんがいるのも確かです。軽度であればあるほど、質問は慎重に行われなければならないでしょう。

国家試験では設定文の中に、MMSE やHDS-Rの点数とともに、「認知症高齢者の日常生活自立度」や「障害高齢者の日常生活自立度判定基準」などの判定基準が示され、高齢者に対する看護対応、介護者への指導などを問う問題も出てきます。点数、判定基準などは日ごろから頭に入れておくことをお勧めします。

では、国家試験で出題された認知症患者への対応に関する問題を解いてみましょう。

問題

第102回 看護師国家試験 午前問題109

Aさん(87歳、女性)は、6年前にAlzheimer(dementia of Alzheimer type)<アルツハイマー>型認知症を発症した。在宅で療養していたが、夫が介護に疲れたために施設に入所した。現在、長谷川式簡易知的機能評価スケール<HDS-R>10点、障害高齢者の日常生活自立度判定基準B-1である。下肢筋力や立位バランスの低下がある。自宅では自分で車椅子に移乗してトイレに行き排泄していた。尿失禁はなかった。入所直後、Aさんは表情が険しく落ち着きがなく、看護師が声をかけても応じない。自発的にトイレに行きたいという発言はなく、着衣を尿で汚染することが多いためトイレ誘導を行うことにした。

看護師の対応で最も適切なのはどれか。

1.大きな声で尿意を尋ねる。
2.就寝中も起こしてトイレに誘導する。
3.施設で決められた時刻にトイレに誘導する。
4.声をかけても応じない場合は様子を見て再度トイレに誘導する。

1.×
2.×
3.×
4.○

AさんはHDS-R 10点ということで、やや高度の認知症と判断できる。ただし、排尿障害については、障害高齢者自立度判定基準B-1ということで「屋内での生活はなんらかの介助を要し、日中もベッド上での生活が主体であるが坐位を保つ。車椅子に移乗し、食事・排泄はベッドから離れて行う」という状態であり、自宅では尿失禁がなかったということから、入所後の環境変化によって一時的に排泄障害が起きているが、本来、排泄は自立していたと考えられる。選択肢1.2.3.では、混乱しているAさんをさらに混乱させ、プライドを傷つけるおそれがある。4.のように、Aさんの気持ちや行動にそったトイレ誘導が必要である。

答え…4

編集部より

高齢の方は手術後入院した際など、環境の変化に対応できず、一次的に見当識がなくなったり、排尿障害、記憶障害などを起こす人が多いと聞きます。いわゆる「せん妄」状態に陥るわけですが、「認知症」と「せん妄」は見極めが重要だと聞きます。一時的せん妄状態では、患者さん自身の混乱が落ち着けば、症状もおさまってくるので、よく観察して対応することが大切ですね。動揺する家族への声かけ、対応指導にも注意が必要です。