看護師にとって薬理学の知識は必要不可欠!
奥が深いお薬の世界を現役の看護師&薬剤師が丁寧に解説します。
国試の過去問といっしょに学習していきましょう。

1 読んで字のごとく

血糖降下薬は、読んで字のごとく「血糖を下げる」のが目的。糖尿病の治療目的で使われます。 糖尿病で血糖が上がるのは、インスリンの分泌低下(インスリンが出ない、または出にくい)。そして、インスリンの抵抗性増大(インスリンが出ても効きにくい)という2つの理由から。
そのため、2型糖尿病で血糖降下薬が使われる場合、
1)インスリンを出そう=インスリンの分泌を促進する薬
2)インスリンの効きを良くする=インスリンの抵抗性を改善する薬
3)糖分の吸収をゆっくりにする=糖の吸収や排泄を調節する薬
の3つの種類に分けることができます。


2 作用機序をみていこう

作用機序イメージ

順番に説明していきましょう。

1)インスリンの分泌を促進する薬

スルホニル尿素薬

膵臓のβ細胞を刺激して数時間にわたってインスリン分泌を促します。
インスリンの分泌機能が保たれている患者さんのみに適用。低血糖を起こしやすいのが注意点です。

速攻型インスリン分泌促進薬

膵臓のβ細胞に短時間で作用してインスリンの分泌を促進します。
食後高血糖に対してよく用いられます。

DPP-4阻害薬(インクレチン関連薬)

小腸から分泌されているインクレチンホルモンは膵臓のインスリン分泌を促したり、グルカゴン分泌を抑制したりする働きがあります。DPP-4阻害薬は、インクレチンの分解酵素であるDPP-4を阻害することで、インスリンを分泌します。
血糖依存性のため、食事の影響を受けにくく、単独では低血糖を起こしにくいので高齢者に好まれやすいという特徴があります。

2)インスリンの抵抗性を改善する薬

ビグアナイド系薬

肝臓での糖新生(貯蔵されていたグリコーゲンをグルコースに変える働き)を抑制します。
手術や脱水では乳酸アシドーシスを起こすこともあり、注意が必要です。

チアゾリジン系薬

骨格筋や脂肪組織に働きかけて糖の取り込みを促進することで血糖が下がります。
高齢者では心不全を起こすこともあります。

3)糖の吸収や排泄を調節する薬

αグルコシダーゼ阻害薬

二糖類を単糖類(グルコース)に分解するαグルコシダーゼという酵素を阻害することで、血糖値の上昇をゆるやかにします。

SGLT-2阻害薬

腎臓の近位尿細管に作用します。尿糖の再吸収を阻害することで血中の血糖が低下します。


3 主な経口血糖降下薬の分類

経口血糖降下薬の種類一般名
インスリン分泌促進薬スルホニル尿素薬グリベンクラミド・
グリメピリドなど
速攻型インスリン分泌促進薬ナテグリニドなど
インクレチン関連薬DPP-4阻害薬
(シタグリプチンリン酸塩水和物)など
インスリン抵抗性改善薬ビグアナイド系薬メトホルミン塩酸塩など
チアゾリジン系薬ピオグリタゾン塩酸塩など
糖吸収阻害薬α-グルコシダーゼ阻害薬アカルボース・
ボグリボースなど
排泄調節系薬SGLT-2阻害薬イプラグリフロジンなど

副作用

一番注意してほしいのは低血糖。あくびや発汗、頻脈などの症状が起こり、ひどくなるとけいれんや昏睡状態に陥ります。低血糖を起こしやすい薬としては、スルホニル尿素薬や速効型インスリン分泌促進薬(グリニド系)が有名です。

頻脈イメージ

薬剤師から一言

薬剤師

鶴原伸尚さん
つるさん薬局(東京都)の薬剤師。患者さん一人ひとりの想いを大切に日々奮闘中。
低血糖を起こしにくい新しい薬が出ています。

ここ10年の新しい糖尿病内服薬と言えば、DPP-4阻害薬とSGLT-2阻害薬です。両者とも低血糖を起こしにくいのが特長となっています。
DPP-4阻害薬は他の糖尿病薬と併用しやすく、血糖コントロールをより行いやすくなった薬と言えます。
SGLT-2阻害薬は、糖の再吸収を抑制して尿に排泄するので、肥満傾向のある患者さんに適しています。ただし、尿の回数増加に伴う脱水症状、糖が尿に排泄されることによる尿路感染症に注意する必要があります。
内服ではありませんが、GLP-1受容体作動薬も、週に一度の投与で済む新しいタイプの皮下注射薬です。インクレチンの一種でインスリン分泌促進薬として用いられます。

4 生活面のアセスメントが重要だ

経口血糖降下薬を内服する場合、生活のアセスメントがとても重要になります。なぜなら、糖尿病の治療と患者さんの生活面は切り離すことができないから。
食事・活動量・服薬コンプライアンス、どれをとっても血糖コントロールと関連しあっています。

生活のアセスメントイメージ

でも、入院中に血糖コントロールが良好であったとしても、退院したら、
・日中独居で1日2食の生活
・食事時間がバラバラ
・認知機能の低下があり、規則正しい薬の内服が難しい
といったことがあるかもしれません。

生活習慣イメージ

その場合は処方内容を変えたり、服薬回数のコントロールをしたり、時に他者介入(家族や訪問看護など)が必要になります。退院後のよりよい血糖コントロールのためには、アセスメントがなにより大切になるのです。
実習中には、さまざまな疾患の既往歴として糖尿病に関わることがあると思います。術前の血糖コントロールの重要性、術後の血糖はどうして上昇しやすいのか、シックデイなど、たくさんアセスメントをして、看護援助の必要性を心にとめておいてくださいね。

薬剤師から一言

薬剤師

服薬のための協力は惜しみません!

お薬手帳イメージ

糖尿病薬でコンプライアンス不良になる場合は、概ね2つのパターンあるように思います。
ひとつは、自覚症状がないために飲み忘れが多くなります。

特に、生活習慣の乱れがある患者さんの場合は、服薬行動自体がずぼらになりがちです。
そのためにその患者さんの性格までみて、薬を貯め込んでいないかを確認する必要があります。
もうひとつは、低血糖を起こした経験があり、怖くなって服薬を控えるようになる場合です。この場合は、薬によっては、より穏やかな薬があることをお知らせして、自立を促すために、ご本人が直接医師と相談するようにお話しています。


5 最後に国試の過去問を解いてみよう

第105回看護師国家試験 午前問題44
Aさん(59歳、男性)は、糖尿病で内服治療中、血糖コントロールの悪化を契機に膵癌と診断され手術予定である。HbA1c7.0%のため、手術の7日前に入院し、食事療法、内服薬およびインスリンの皮下注射で血糖をコントロールしている。Aさんは、空腹感とインスリンを使うことの不安とで、怒りやすくなっている。
Aさんに対する説明で適切なのはどれか。

1.「手術によって糖尿病は軽快します」
2.「術後はインスリンを使用しません」
3.「少量であれば間食をしても大丈夫です」
4.「血糖のコントロールは術後の合併症を予防するために必要です」

正解・・・4

糖尿病のような高血糖状態で手術を受ける場合、インスリン療法などによる厳重な血糖管理が必要です。また、手術で膵臓を切除することにより、膵臓の機能低下で血糖値の調節はさらに困難となります。合併症予防のためにも、血糖管理の重要性を十分に理解してもらう必要があります。

経口血糖降下薬は、ここ10年で種類も増えており新たな作用機序の薬も出てきています。勉強するときにはできるだけ新しい参考書を見るようにしましょう。
また、国家試験では、看護師としての生活アセスメントの視点が問われることも多いので、作用・副作用とともにどのように援助していくべきかを考えるとよりよい看護につながります。

関連リンク…高血糖値の症状や糖尿病の合併症についても学べます。

あねごの検査データまるわかり。|第7回 糖尿病の確定診断項目HbA1c


(テキスト:sakura nurse・鶴原伸尚 イラスト:中村まーぶる)