看護師にとって薬理学の知識は必要不可欠!
奥が深いお薬の世界を現役の看護師&薬剤師が丁寧に解説します。
国試の過去問といっしょに学習していきましょう。

1 痛みと発熱はなぜ起こるのか。

痛みや発熱というのはつまり、体内のどこかで炎症が起こっているというサインです。体の防御機構のひとつで、危険を知らせてくれているんですね。そもそも炎症とは、生体が外傷や感染によって傷害を受けると、傷害された部位で血管透過性の亢進および血流の増加が起こり、(1)発赤 (2)腫脹 (3)局所の熱感 (4)疼痛が引き起こされ、時に炎症性のサイトカイン(細胞から分泌される蛋白質)が脳の体温中枢に作用して全身の発熱が起きる病態のことで、特に(1)~(4)のことを炎症の四徴候といいます。

熱・痛みイメージ

傷害され、破壊された細胞膜からは脂肪酸のアラキドン酸が切り出され、そこにシクロオキシゲナーゼ(COX)という酵素が作用して炎症に関連する物質であるプロスタグランジン(PG)やトロンボキサンA2などが産生されます。プロスタグランジンにはいくつか種類があり、それぞれ作用が異なりますが、PGI2は血管拡張作用と血小板凝集抑制作用を有し、炎症時の浮腫に関与します。PGE2は血管拡張作用を有し、炎症時の発熱に関与します。PGE2には胃酸分泌抑制があるため、非ステロイド性抗炎症薬などによってPGE2産生が低下すると胃炎や胃潰瘍が起こりやすくなります。

非ステロイド性鎮痛薬使用イメージ


2 一口に解熱鎮痛剤といっても種類はいろいろ。

前述の通り、痛みや発熱の正体は炎症ということで、解熱鎮痛剤のことを医療分野では抗炎症薬というのが一般的です。抗炎症薬の代表的な薬物には、副腎皮質ステロイド薬(糖質コルチコイド)と非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs:non-steroidal anti-inflammatory drugs)があります。前者はアラキドン酸が切り出される前に作用して炎症過程全体を抑えます。後者はシクロオキシゲナーゼの作用を阻害しての産生を低下させ疼痛・熱感を和らげます。

組織の細胞

副腎ステロイド薬は強力な抗炎症効果が期待できますが、長時間用いると様々な有害作用が出現するため、通常は非ステロイド性抗炎症薬が用いられます。非ステロイド性抗炎症薬は(1)酸性抗炎症薬と(2)塩基性抗炎症薬に大別され、この2種類のほか、(3)市販の感冒薬や鎮痛薬に分類することができます。

主な非ステロイド性抗炎症薬

(1)酸性抗炎症薬

非ステロイド性抗炎症薬の大半を占め、作用・副作用によって使い分ける(アスピリン、インドメタシンナトリウム・インドメタシン、スリンダク、ジクロフェナクナトリウム、イブプロフェン、ロキソプロフェンナトリウム水和物、セレコキシブ)

(2)塩基性抗炎症薬

シクロオキシゲナーゼ阻害作用が非常に弱く抗炎症作用も強くないが、アスピリン喘息などのため酸性抗炎症薬が使用できない場合に有用(チアラミド塩酸塩)

(3)解熱・鎮痛作用のみの薬剤

抗炎症作用がなく、解熱・鎮痛作用のみを有する(アセトアミノフェン、スルピリン水和物)

薬剤師から一言

薬剤師

鶴原伸尚さん
つるさん薬局(東京都)の薬剤師。患者さん一人ひとりの想いを大切に日々奮闘中。
痛みは、不調の重要なサインです。頭痛ひとつとっても、風邪による頭痛、偏頭痛、筋緊張性頭痛、脳梗塞の前兆等、様々な原因が考えられます。

鎮痛剤が処方された場合には、その不調のサインを見逃さないために、なぜその痛みが起きているかを一緒に考えます。「何の痛みに対して利用するのか」「医師が何の病気と考えているのか」を確認し、わからなければ、どんな検査をしているかを確認します。そうすれば、医師が何を心配しているかが想像できるからです。
痛みを鎮痛剤で抑えてしまえば、その場は良いのですが、後で取り返しのつかないことになる場合もあるので、注意が必要です!

3 解熱鎮痛剤(抗炎症薬)はそれぞれの作用・副作用の組み合わせで処方されます

(1)消化性潰瘍

シクロオキシゲナーゼはCOX-1とCOX-2の2つのタイプがあります。通常COX-1がプロスタグランジンを産生して胃酸の分泌を抑制していますが、炎症が起こるとCOX-2がプロスタグランジンを産生して、痛みや発熱の症状を起こします。従来の非ステロイド性抗炎症薬は、COX-1とCOX-2の両方を阻害するので、痛みや発熱を抑える一方で、胃酸の分泌抑制と粘膜保護の効力も低下させるため、消化性潰瘍を起こしやすくします。無症候性に突然下血や吐血をする場合もあるため、注意が必要です。COX-2選択的阻害薬であるセレコキシブでは胃腸障害が少ないとされています。

(2)血圧低下

臨床では、特にジクロフェナクナトリウムの座薬の場合に起こることがあります。これは解熱鎮痛薬の効果により解熱し、発汗が多量になった場合に循環血液量が減少して血圧低下を起こすといわれています。

(3)血小板凝集抑制

実は、この副作用を利用して現在アスピリンを低用量で使用し、心筋梗塞や脳梗塞の予防に用いられています。実習でも、目にしたことがあるのではないでしょうか。

(4)アスピリン喘息

様々なNSAIDsにより誘発される喘息発作のことをいいます。名前から、アスピリン内服時にのみ出現すると思われがちですが、それ以外の薬でも誘発されます。すべての喘息患者に起こるわけではありませんが、一旦発作が起こると重症化しやすいため注意が必要です。そのため、アナムネ(アナムネーゼ:患者の既往歴)聴取の時など喘息既往がある場合は、医師・薬剤師に早めに報告しましょう。

(5)ライ症候群

小児に発生する急性脳症のひとつで、インフルエンザや水痘ウイルスに罹患した際にアスピリンやジクロフェナクなどのNSAIDsを内服すると発症のリスクを高めるとこといわれています。インフルエンザの初期の症状で風邪と区別するのは難しい場合も多く、小児に対しては解熱鎮痛薬として一般的にアセトアミノフェンを投与しています。


4 看護のポイント

解熱鎮痛薬は上手に使うと、患者さんのQOLが高められます。

●術後、疼痛を我慢すると離床も進まず腸蠕動低下、イレウスになる。
●なかなか痰の喀出ができず無気肺になりそのまま肺炎に移行してしまう。
●痛みがつらいと睡眠の十分にとれない。
●あまりにも強い痛みは嘔吐を誘発する。
●血圧の上昇、心拍数の上昇など心血管にも負担が大きくなる。
だから、上手に薬と付き合うことは大切です。でも、期待した作用だけでなく、副作用があるのも事実です。だから解熱鎮痛薬を使用した後は、その効果とともに、想定される副作用症状についても観察できるようにしましょう。

解熱鎮痛薬服用の際に行う工夫で、鎮痛の効果を高める方法はたくさんあります。

●タイミングの工夫
・痛みを伴う処置をする場合には、処置の前にあらかじめ鎮痛薬を使用する。
・術後離床の前にあらかじめ鎮痛薬を使用する。
●疼痛の緩和ができる生活援助
・開腹術後離床時ならば、ベッドをあらかじめギャッジアップする。
・軽く前傾姿勢をとりながら腹圧をかけないように立ち上がることで創部痛は軽減される。
●患者さんに寄り添い、安心感を与える
・痛みが強くなるのではないかという緊張があると疼痛を強まるので、きちんと患者さんの訴えに寄り添い、適切な対応をすることで精神的に安定してもらえるようにする。

精神安定イメージ

再び薬剤師から

薬剤師

歯科治療を行ったあと、「麻酔が切れてくると痛むので、薬をもらったらすぐに飲んでください」という場合と、「痛み止めは胃を荒らすのでなるべく飲まずに、痛かったら飲んでください」と医師の説明が異なる場合があります。

実はこれ、単に医師によって説明が異なるということではなく、患者さんによって説明が異なっている場合があるのです。
痛みに対する強さ(これは歯の治療中にある程度、分かるのかもしれません)、胃の強さ(鎮痛剤によって胃腸障害を起こすか起こさないかなど)には個人差があるので、説明が異なってくるのも当然ですね。これらの情報は患者さん自身が自覚していることも多いので、痛みに強いか弱いかなどを率直にお伺いしてしまって、なぜ医師がそのようなアドバイスをしたのかを説明をするように心がけています。

5 最後に国試の過去問を解いてみよう。

第100回看護師国家試験 午前問題64(疾病の成り立ちと回復の促進)

薬物と特に高齢者で観察すべき内容との組合せで正しいのはどれか。

1.ループ利尿薬―――――――――――――出血傾向
2.ベンゾジアゼピン系睡眠薬 ―――――――血中尿酸値
3.非ステロイド性消炎鎮痛薬 ―――――――消化器症状
4.β遮断薬―――――――――――――――血中カリウム濃度

正解・・・3
非ステロイド性消炎鎮痛薬は、消化器症状が出やすい。消化器の潰瘍や胃や腸での出血に注意する。


(テキスト:sakura nurse・鶴原伸尚 イラスト:中村まーぶる)