看護師にとって薬理学の知識は必要不可欠!
奥が深いお薬の世界を現役の看護師&薬剤師が丁寧に解説します。
国試の過去問といっしょに学習していきましょう。

1.降圧薬は患者さんごとに種類が違う。。。

厚生労働省が3年ごとに実施している「患者調査」の平成26年調査によると、高血圧性疾患の総患者数(継続的な治療を受けていると推測される患者数)は1,010万8,000人と、前回の調査に比べて約104万人増加しています。そのようなわけで、成人看護学の実習では受け持ち患者さんの半分程度が高血圧の治療中ということもめずらしくありません。ある内科実習では学生6人中4人が降圧薬を内服している患者さんを担当し、しかも4人が4人とも飲んでいる薬が異なっていたため、降圧薬に関する知識が実習内容に深くかかわっていました。降圧薬は種類によってなにが違うのでしょうか。今回はそんな降圧薬について話をしてみたいと思います。
ちなみに降圧薬の目的ですが、血圧を下げることです。そのままという感じですが、この薬を飲めば高血圧症が治るわけではなく、あくまでも血圧を下げる効果があるということです。高血圧が問題なのは、高い血圧そのものの症状だけでなく、脳梗塞や脳出血、心不全などの二次性疾患の予防が目的となっているんですね。

主な降圧薬


★ここ数年配合薬を臨床でもみかけることが増えています。
数種類の薬剤の成分を一剤に含んだもので、単独よりも降圧効果が高まることや服薬アドヒアランスの向上につながるとされています。カルシウム拮抗薬+ARBや利尿薬+ARBなどがあります。


2.人体の「アノ仕組み(RAA系!)」を逆手にとって血圧を下げることができます。

前出の表を見るとばらばらに見えるかもしれませんが、実は降圧薬の作用は大きく分けて2つだけなのです。ゴムで出来たチューブ(血管)に水(血液)を流すと考えるとわかりやすくなります。ゴムの外側にかかる水圧を減らしたい場合、ゴムの幅を広げるか、流す水の量を減らせば圧力は少なくなりますよね。

血管と血液と血圧の関係

血圧も同様にこの2つの働きで下げることができます。

(1)血管を広げることで末梢血管抵抗を少なくする
(カルシウム拮抗薬・ARB・ACE阻害薬・直接的レニン阻害薬)

(2)循環血液量を減らす 
(利尿薬・β遮断薬)

(1)の働きを説明する場合、どうしても理解する必要がある体の仕組みがあります。
★レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAA系)★
私達人間にとって、血圧を保つことが出来なければ末梢まで血液を循環できず、酸素や栄養を受け取ることが出来ない細胞は死にます。つまり、生命維持のためとても大切な仕組みです。その血圧を上昇させようという生理機能の一部を阻害する降圧薬が数種類あります。

レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系における降圧薬の働き

薬剤師から一言

薬剤師

鶴原伸尚さん
つるさん薬局(東京都)の薬剤師。患者さん一人ひとりの想いを大切に日々奮闘中。
主に処方される高血圧の薬は、ARB、カルシウム拮抗薬、利尿薬、β遮断薬。多くの患者さんは作用機序ではなく、なぜこの薬になったのかを知りたがっています。

説明は以下のように行っています。
ARB:穏やかな効果なので、治療開始の第一選択薬として利用したり、他の臓器障害がある場合に利用します。
カルシウム拮抗薬:切れ味が良いので、血圧が高く、比較的すぐに下げたい場合に利用します。
利尿薬:むくみがある場合や、他の高血圧薬を服用していて追加する場合に利用することが多いですね。
β遮断薬:頻脈を伴う高血圧や狭心症に利用します。

これらの基本を踏まえて、薬を変更したり併用して様子を見ていきます。

3.内服のタイミングなどで検査や手術に支障をきたします。

【副作用】
(1)目眩・ふらつき・頭痛
(2)空咳(ACE阻害薬の場合)
*臨床では誤嚥性肺炎のリスクの高い患者さんにあえて処方している医師もいます。
(3)食品との相互作用
カルシウム拮抗薬+グレープフルーツを摂取すると、カルシウム拮抗薬の血中濃度が上昇して過度の降圧になることがあります。カルシウム拮抗薬を内服している患者さんの数は多いので、私達の病院ではグレープフルーツを出さないように薬剤師・栄養士と協力しています。
(4)検査・手術時の内服継続の有無について
1)カルシウム拮抗薬・β遮断薬は術前も中止しない場合が多くなっています(特にβ遮断薬は中断により反跳性高血圧を起こすことがあるため)。
2)胃カメラや大腸カメラなど検査前に禁食にする場合も時間をずらして早めに内服する場合があります(以前、腎生検の前に内服をせず、もともとの高血圧だったことに加え、緊張から検査前の収縮期血圧が190mmHgを超えてしまい、緊急で薬剤を投与し検査時間をずらさなければならなくなったケースもあります)。

グレープフルーツとカルシウム拮抗薬はなぜ相性が悪い?

4.看護のポイント

転倒に注意

血圧低下によるふらつき、めまい、またそれによる転倒に注意する必要があります。
降圧薬を内服している人は高齢者も多く、視力・聴力の低下があり周囲の危険に対して反応が低下する可能性もあります。

既往の疾患とあわせた転倒も

既往に整形疾患や脳梗塞などの内科疾患を抱えADLが低下している場合や、前立腺肥大や神経因性膀胱などで頻尿になっていると、降圧薬との複合により転倒リスクが高くなっているので、統合的にアセスメントし、周囲の環境を整えるなどの配慮が必要です。

血圧の維持を見守ろう

降圧薬は長期間に渡って内服をする必要があり、飲むのを忘れてしまったり、めんどくさくなったりします。そうならないために、普段の血圧を維持し、服薬アドヒアランスを高められるように声をかけ、見守っていく必要がありますね。

●血圧測定

再び薬剤師から。

薬剤師

降圧薬服用中は「ふらつき」に注意が必要です。原因は低血圧だけでなく、高血圧から普通血圧になった時の血圧の差によっても起こります。また、過活動膀胱や前立腺肥大の薬を併用するようになってふらつきが出る場合もありますので、その際は、低血圧になっていないかを確認するようにしてもらいます。

治療開始時の患者さんには「ふらつき」について特に注意する一方で、ふらつきが出たからといってすぐに服用中止とはならないことはお話しします。逆に服用継続をしているとある程度血圧が安定して、自覚症状が無くなることがありますが、自己判断で中止しないようにお話しします。高血圧はサイレントキラーと言われ、放置していると心筋梗塞、脳卒中を突然起こすことがあるからです。
降圧薬を飲み始めて、疲れやすくなったという患者さんがたまにおられます。これは血圧が下がりすぎている可能性もあります。心血管イベントに注意が必要なため「とにかく血圧を下げる」ことを第一との考え方がちですが、下がり過ぎではないかを医師とよく相談することも重要ではないかと感じています。

5 最後に国試の過去問を解いてみよう。

第103回看護師国家試験 午後問題19(必修問題)

転倒・転落するリスクの高い薬はどれか。
1. 去痰薬
2. 降圧薬
3. 抗菌薬
4. 消化酵素薬

正解・・・2
正解は選択肢2の降圧薬。降圧薬による影響として「失神やふらつきを起こす」「起立性低血圧を起こす」などがあるため、転倒・転落のリスクが高くなります。


(テキスト:sakura nurse・鶴原伸尚 イラスト:中村まーぶる)