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訪問看護の未来

現在、日本の医療業界は在宅医療に本格的に舵をきったといわれています。
入院期間を最小限にとどめて、在宅で過ごす。
病気とともに在宅で暮らし、在宅で死を迎える。
看護師の活躍の場も病院・クリニックから在宅へと広がりを見せはじめています。
病棟勤務のナースであっても、在宅での看護について知っておかなくてはならず、また訪問看護師との連携が重要となってきます。
このインタビューコラムでは、東京の武蔵野市で今年2月に訪問看護ステーションを立ち上げた丹内まゆみさんに訪問看護の現実とこれからの可能性について尋ね、病棟看護師と訪問看護師の連携をうたう「看看(かんかん)連携」を充実させていくにはどういう方法がよいのかを考えます。このコラムを読んで、看護学生にも訪問看護の現実を知ってもらい、自らが目指すナース像に彩りをくわえてもらいたいと思います。

―― ダイビングのインストラクターを3年やって、東京に戻ったんですね。

東京に帰る前に半年ほど、地元の訪問看護ステーションで働きました。若い世代が少なく、老老介護がほとんどで、在宅医療の資源が乏しい、いわゆるへき地医療の実態を目の当たりにしましたね。

―― そして東京でまた医療法人での訪問看護を……

訪問診療専門のクリニックでした。医者、リハビリスタッフ、看護師、相談員と一緒に働いていました。業務内容は、医者のスケジュール管理、物品の手配などと自分たちの訪問看護。非常勤も含めてけっこうな人数の医者がいたので、それぞれの医者の特徴をふまえて「この人にこういう言い方をすると怒るな」とか「この人にはこう言えば、調子よく働いてくれるな」っていうことを自分なりに工夫しました。わたしは調子いいから、どんなドクターでもうまくあわせちゃいます。「その調子のいい口がほしい」と言われたこともあります(笑)。やってほしいことをやってもらうために医者とうまくコミュニケーションをとることも看護師のスキルだと思っています。どんな仕事でも同じですけどね。

―― そのクリニックで学んだことは?

ここは受け持ち制ではなく、看護師4人で1人の利用者さんを担当しました。当然、担当する患者さんが増えるわけですから、経験する症例数も増える。そこでいろんなケースを経験したというのが財産ですね。それから、実感したのが「看護観」ということ1人ひとりの「どういう看護をしたいのか」っていう思いがどれだけ大事なのかを認識できました。一方で家族も看護師もこの病人を看護するのは家では無理です。やはり病院でしょう! って考える。一方で、ちょっと家での療養が無理そうに見えても、ご家族にこんな方法がある、こんな制度を使いましょうと言って、ちょこちょこっとアプローチしたら大丈夫かもしれないなって思う看護師もいる。180度違う考えでは成り立たない。

―― 医者とも意見が違うことが?

「こんな状態でいつ何が起こるかわからないから、1人暮らしなんて無理だよ!」とまあ、当然そういう医者もいます。でも、何が無理なのか? そういったリスクも含めて本人が家で暮らしたいと言ってるんだから、それもありじゃないのかと。何か起こった時、緊急事態の時にどうすればいいかを考えるのが私たちの仕事ですから。

―― その後、同クリニックが開設した訪問看護ステーションの閉鎖なども経験して、看護師が経営するいわゆる独立型の訪問看護ステーションに入職した。

それまで、医療法人ですから経営のトップが医者でした。看護師がいくらがんばっても評価されることが少なかった。なので、看護師が自分たちの給料と運営費を自分たちで稼ぐ独立型のステーションがとても新鮮に思えた。医者と財布が違うのは、なんて気持ちがいいんだろうと思いましたね(笑)。看護師と医者が同じ立場で意見を交換し、利用者に何が一番いいのかを話あう。そういう本来の姿がそこにはありました。

―― 4年ほど所長業務をこなし、社長の勧めもあって、独立を決意された。

まだまだその会社でやっていくつもりでいたのですが、そういうご縁をいただきました。

―― 独立といってよいのでしょうか。

利用者さん、スタッフなどもそのまま引き継がせていただいて、いわゆる「のれん分け」といった形でしょうか。経営としては、完全に独立してやっていかなければならないので、今は日々悪戦苦闘といった感じですね。

(次回へつづく)


訪問看護師

たんない・まゆみ 1971年東京生まれ。株式会社みゅうちゅある/ナースステーションたんぽぽ所長。看護学校卒業後、都立病院外科病棟勤務。民間会社の在宅事業部巡回入浴、医療法人の訪問看護ステーション数社で訪問看護師を勤めた後、看護師が経営する独立型の訪問看護ステーションに管理者(所長)として4年間勤務。2014年2月に同社から独立し、「株式会社みゅうちゅある/ナースステーションたんぽぽ」を立ち上げる。常時70~80人の利用者をかかえ、地域のコミュニティ拡充と病院医療・看護と在宅医療・看護の橋渡し的な存在を目指す。

株式会社みゅうちゅある ナースステーションたんぽぽ
東京都武蔵野市境5-27-24西原ハイツ305