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訪問看護の未来

「もの言う」丹内所長の蔵書(ほんの一部)

「もの言う」丹内所長の蔵書(ほんの一部)

―― 普段、丹内さんが訪問看護師に必要だと思っていることは何ですか?

「もの言う看護師になる」ということでしょうか・・・。

―― 誰に対して?

すべてに対してです。利用者さん、医者、ケアマネジャー、ヘルパー、ステーションのスタッフ……。「もの言う」というのは「指摘しろ」「言い返せ」という意味ではないですよ。たとえば、身内はいないけれど、家で過ごしたいというがん末期の利用者さんの願いがあったとします。「1人暮らしなんてとんでもないよ!」と医者はまったく違った見解を持っている場合、そこで、私たち訪問看護師が「ああ、そうですね」って言っていいのかってことです。「こうすれば可能性が広がりませんか?」と意見を言えることが、もの言うことだと思います。

―― ある程度自信がないと言えないですね。

責任があるし、自分に根拠がなきゃ言えないですね。そのためには、利用者さんのこと家族のことも十分に把握しなくちゃいけないし、病気のことや社会資源のことも勉強しなければなりません。それから、地域で働く人たちとの関係(困った時に助けてもらえるような)を築いていくことも必要です。けっこう大変です。でも、だからといって、ものが言えなければ訪問看護師ではないと私は思います。訪問看護はバイタルを測定して、状態観察をして医療処置をして、入浴介助をするなどそれだけだったら、ある意味、誰でもできてしまう。けれど、訪問先で何をどうしたら、利用者さんがもっと快適に生活ができるのかってことを考えて、人なり環境なりからいい方法を引き出して、工夫していくのが、訪問看護師の仕事だし、醍醐味ですね。

―― 「もの言う」看護師になるために具体的にどうしたらよいでしょうか。

好奇心旺盛が一番大事ですね。ひとつひとつ興味を持っていろいろな角度から見る。見逃さないってことが大事だと思います。利用者さんの人生にも病気にも家族にも興味を持つ。訪問看護では、いろんな科の利用者さんがいるから、わからないことについて学んでいくと、それだけで、自分の引き出しがどんどん増えていきます。なんでこの人にこんな処置しなきゃいけないんだろうって興味を持てば、当然調べるでしょ? 答えがわかる。「ああ、だからか~」と腑に落ちる。自分の中の引き出しが増えて、その蓄積で自信がついて、ものが言えるようになります。呼吸器病棟のナースは呼吸器に関しては、どんどんエキスパートになっていくけど、その他のことを学ぶ機会が少ないかもしれません。そこへいくと、訪問看護は症例の宝庫です。呼吸器、消化器、脳外科、眼科など、まったく違う症状を持った利用者さんと接することができます。そこをスルーしちゃったらほんと、もったいないと思います。

―― 丹内さんもかつては専門病棟のナースでしたね。

そうですね。消化器外科病棟のナースでした。一例をいえば、外科ってそもそも服薬というより点滴のほうが多いから、在宅に入った時に、利用者さんが飲んでいる薬が何なのかが全然わかりませんでした。だから、薬の番号ひかえて、ステーションに帰ってから調べて、ああこれは利尿剤か~、これは下剤だな~なんて(笑)。内科にいた看護師さんだったらびっくりするような、そんな初歩的なことから始めたんです。誰かが見ているわけではないし、薬の番号がわからなくても、なんとかなってしまうのも訪問看護です。けど、好奇心のかたまりのような私はもったいなくて、スルーなんかできません(笑)。結果、徐々に自分の中にたくさんの引き出しができてきました。私は、地域に育てられた「もの言う看護師」ですって今は堂々と言えますね。

(次回へつづく)


訪問看護師

たんない・まゆみ 1971年東京生まれ。株式会社みゅうちゅある/ナースステーションたんぽぽ所長。看護学校卒業後、都立病院外科病棟勤務。民間会社の在宅事業部巡回入浴、医療法人の訪問看護ステーション数社で訪問看護師を勤めた後、看護師が経営する独立型の訪問看護ステーションに管理者(所長)として4年間勤務。2014年2月に同社から独立し、「株式会社みゅうちゅある/ナースステーションたんぽぽ」を立ち上げる。常時70~80人の利用者をかかえ、地域のコミュニティ拡充と病院医療・看護と在宅医療・看護の橋渡し的な存在を目指す。

株式会社みゅうちゅある ナースステーションたんぽぽ
東京都武蔵野市境5-27-24西原ハイツ305