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訪問看護の未来

丹内まゆみさん(左)と内藤愛子さん(右)

丹内まゆみさん(左)と内藤愛子さん(右)

―― 今回は、副所長を務めていらっしゃる内藤愛子さんにもご参加いただきます。訪問看護師から見て、病棟看護師は看看連携についてどう思っていると思いますか?

丹内:必要だと思っていると思いますが、病棟側は退院調整の際、何をどうしていいのかわからない、ましてやどのタイミングで訪問看護師を入れたらいいかわからないってことがあるかもしれません。迷っているうちに、私たちとの連携が遅くなってしまう。

―― やはりタイミングが重要ですか?

内藤:早ければ早いほどいいと思います。たとえば、訪問看護の依頼が退院の1週間前だったりすると、普通でも準備にばたばたしますが、それが、珍しい病気だったりすると、受け入れ準備はさらに大変です。それから、介護者が高齢だと老老介護になってしまうので、ヘルパーさんを入れるとか、デイサービスの利用を考えるなど、在宅療養前に計画しておかなければならないことがたくさんあるんです。

丹内:老夫婦二人で在宅療養となる場合、入院から退院支援を始めたほうがいいですね。入院が14日間だとしたら、その期間内でどんな調整ができるかを逆算して始めることができるので、患者さんは安心して家に帰れる。この連携は退院調整を主に行う地域連携室だけでなく、担当医や病棟看護師の協力があって初めて成り立つのだと思っています。

内藤:知り合いの師長さんに聞いた話ですが、家族などで話し合って考えた末やっと入院できた患者さんに向かって、すぐに退院の話をするとクレームになったりすることもあるといいます。でもその師長さんは、逆に「じゃあこの閉鎖された環境でずっといたいんですか?」って聞くそうです。いや、入院してほっとした思いもあるけれど、やっぱり帰りたいって気持ちもあるから、そこで耳を貸してくれるようですね。退院について考えるというのは当然のことなので、入院当初から退院調整の○○ですって、挨拶に行ってもおかしくないだろうって。

丹内:今、国は在宅へとつながる流れを作り、医療機関も常に患者さんを自宅に帰すという視点でいます。だから病院も以前より在宅医療や訪問看護について真剣に考えているように思うし、考えざるを得ない状況なんでしょうね。そういう意味では、今、連携のタイミングも含め「看看連携とはどういうことか」をお互いが考えるチャンスなんです。

―― 看看連携の成功例はありますか?

丹内:たとえば、在宅で薬をきちんと飲み続けるのは、ただでさえハードルが高いんですね。たいていは食事と一緒に飲むということになるのですが、私たちが担当になったお宅で、食事を1日2回しか摂らないという利用者さんがいらっしゃいました。その利用者さんは、複数の疾患をかかえていて、大事な薬が何種類も入っていたのですが、それを1日4回服薬するってことになったんです。えー、こりゃ無理だろうなと思いましたので、退院カンファレンスの時に「1日4回の服薬って非現実的ですよね?!」って言いました。とにかく回数を少なくしてほしいと訴えたんです。じゃあ3回ということになりそうだったんだけど、「食事は2回なんだから、2回じゃなくちゃ維持は無理ですよ~」ってさらに訴えました(笑)。利用者さんの生活スタイルなども細々と伝えていたら、なんとか2回にしてくれたんです。この時は、病院の医師も看護師もがんばってくれたなと思います。もちろん難しいこともあるかもしれませんが、自宅での状況をお伝えすることは大事です。

―― 看看連携の体制がなかなか浸透しないのは、どうしてだと思いますか?

丹内:「退院調整は地域連携室のMSW(医療ソーシャルワーカー)の仕事」「退院調整ナースが行うことだから、任せておけばいい」と病棟看護師が思っているのかな? と思うことがあります。病院は大きな組織ですし、役割分担があるのはわかりますが、入院中は病棟の看護師がいちばん患者さんに近い存在であるのだから、お任せありきではもったいないと思うんです。看護師には「療養上の世話」という責務があります。この「療養上の世話」はその患者さんが家に帰った時まで入ると思う。だから、病棟看護師には意識して自宅に戻ってからの生活を想像してもらいたいし、生活視点で話を聞いてみてほしいですね。

内藤:病棟の医師や看護師にすれば、普段より一歩踏みこまなければならないので、業務上大変だろうけど、生活をイメージしながら、「この患者さんは退院してからも医療が継続できるのだろうか」を考えなければ、これからの日本の看護は成り立たないと思います。

―― 看看連携の実際はどうでしょうか。

丹内:病院によって様々ですね。こちらから要請しなくても、退院後の治療方針などがきちんと調整されて患者さんが退院してくる病院もあるし、いいタイミングで私たち訪問看護師を呼んでくれる病院もあります。でも中には、退院カンファレンスなのに病棟看護師が手に何も持たずに来たりして、何か? って涼しい顔している。いやいや、患者さんの退院についての話し合いなんだから、まずはカルテ持ってきなさいよって、心の中でつっこんだりしています(笑)。病院によって違いがあるし、まだまだなところもあるけど、「看看連携」が動き出していることはいるので、それは良きことかなと思います。退院してからのご様子を一生懸命フィードバックして、積み重ねていくしかないかなって思います。

内藤:看看連携の一環で、退院した患者さんの生活の様子や患者さんからのメッセージや退院指導がどう生きているか、などを手紙に書いたりしているんです。退院調整の方というより担当ナースさんに向けて。でも、病院側からは、ほぼ反応がありません。一方通行です(笑)。けど、今はこの地道な一方通行の時間が必要なんだと思います。退院後の生活をイメージする材料になってもらえればと思っています。

(次回、最終回へつづく)


訪問看護師

たんない・まゆみ 1971年東京生まれ。株式会社みゅうちゅある/ナースステーションたんぽぽ所長。看護学校卒業後、都立病院外科病棟勤務。民間会社の在宅事業部巡回入浴、医療法人の訪問看護ステーション数社で訪問看護師を勤めた後、看護師が経営する独立型の訪問看護ステーションに管理者(所長)として4年間勤務。2014年2月に同社から独立し、「株式会社みゅうちゅある/ナースステーションたんぽぽ」を立ち上げる。常時70~80人の利用者をかかえ、地域のコミュニティ拡充と病院医療・看護と在宅医療・看護の橋渡し的な存在を目指す。

株式会社みゅうちゅある ナースステーションたんぽぽ
東京都武蔵野市境5-27-24西原ハイツ305