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訪問看護の未来

ナースステーションたんぽぽから、病棟へのフィードバックシート

ナースステーションたんぽぽから、病棟へのフィードバックシート
*人物写真(ⓒtec_estromberg)は実物のものではありません。

―― 一般的に、病棟看護師と訪問看護師の交流はスムーズに行くものですか?

丹内:残念ながら、病棟看護師にとって、訪問看護師ってちょっと煙たい存在になっているところもあるようです。以前、入院している利用者さんの病院にお見舞いに行ったことがあるんですが、その利用者さんのちょっとした要望を病棟の看護師さんに伝言した時、やけにそっけなかったんですよね。後で友人に聞いたら、そりゃ、訪問看護師が病棟に来てなんか言ったら、あまりいい気持ちしないんじゃないって言われました。いくら「伝言した」といっても、訪問看護師に指示されたという印象を持ってしまうのではないかと。

内藤:病院によってかなり差があるように感じます。地域を意識している病院は「訪問看護師の…」と名乗って名刺をお渡しすれば、友好的な笑顔で対応してくれて、いつごろ退院できそうか、どんな準備が必要かなんてお話も少し出来たりするし。ほんと、所変われば全く違うって感じです。

―― なるほど。いろいろ違うんですね!

丹内:そうですね。私たちの方は、利用者さんが退院してくる時に病棟看護師やドクターに分からない機器や処置について、どんどん教えてくださいって普通に言えるんですけどね。病気なり処置のことなり、とにかくちゃんと理解しておく必要があるんです。年齢なんて関係なく自分より年下のナースにでも、なんのプライドもなく教えを請いますよ。在宅で利用者さんを守るという明確な目的があるので、ある意味必死です。遠慮なんかしていられない。そうすると、けっこう病棟看護師さんも丁寧に教えてくれます。

内藤:緊急時に困るのは利用者さん。そして、私たちもどう判断し、どう対応したらいいのか困る場面があります。病棟と違って訪問先だと、医療者は自分だけですから、その場で、いろんなシチュエーションに対応していかなくてはならないんです。

―― 病棟看護師と「看看連携」について話したことはありますか?

内藤:先日病棟勤務の友人から話を聞く機会がありました。入院の際、在宅療養希望か入院希望か、本人と家族の気持ち、ドクターの見解、介護度、訪問看護導入の有無などを書く書類はあるけれど、入院当初は、症状にばかり目がいって自分たち看護師はバタバタしているし、ご家族さんも落ち着かなくて、情報収集が後まわしになる。結局、退院する前日まで、その患者さんが訪問看護を受けているかいないかが分からない時もあって、そういう時、訪問看護の方から看護サマリーがくればいいのになーと思うそうです。

丹内:確かにサマリーを出さないステーションもあるようですから、そういう意識にも問題があります。でも、病棟の方から訪問看護ステーションに気軽に電話すればいいのにとも思います。私は、利用者さんが退院してきた時にサマリーがついてこなければ、出してくださいと、すぐに病院に連絡します。こちらも出すからそちらも出してねという感じで。

―― 簡単なことに思えるのですが、何か連携しにくい事情があるのでしょうか。

丹内:病院によっては師長さんが窓口になっており、受け持ち看護師が直接ステーションと連絡がとりにくいなど、病棟のシステム的なこともあります。けど、そこであきらめないで欲しい。せっかく必要だと思ったんだから「訪問看護ステーションからサマリーがこないんですよね~、ちょっと電話してみていいですか~」とか言って電話してしまうとか。

内藤:さっきの友人の話ですが「忙しい、忙しい」ってことで、今必要だと思う情報でも得るためのアクションを先送りしちゃうみたいなんです。「忙しい」それは分かります。でも看護の仕事って何でしょう。家に帰って生活できるようにすることですよね。

丹内:そうそう、退院することが目的ではない、退院して生活できるようにしようってことです。

―― 「連携」の必要性が医療関係者全体に広がるといいのですが。

内藤:大げさと言われるかもしれませんが、国の決め事で、看護師になったら「1年目に訪問看護師を経験する」という決まりにしたらどうでしょうか。システムをかえて、訪問・在宅の経験から始めるといった形にすれば、「生活も視る」ということが1人ひとりの看護師の中に根づきます。その体験があれば、退院指導なんて普通にできるようになるだろうし、看看連携も通常のことと捉えることができると思います。

丹内:訪問看護ステーションに来たらからといって、ずっと訪問看護師でいなきゃならないというわけではありません。早い段階で訪問看護を知ることで、その後の病棟での退院指導が充実すればいいわけだし、訪問看護をやってみたものの、自分に向いていなかったり、病棟でやるべき課題がみつかれば病棟に戻ればいい。反対に、訪問看護をやってしっくりくれば訪問看護の世界にどっぷりはまればいいと思う。両方をきっちり分けて考える必要はないと思いますね。

―― 学校で「在宅看護論」を学んでいる若い世代が今、熱い!? とのことですが。

丹内:私たちが学生のころは「在宅看護論」という科目はありませんでした。カリキュラムに加えられたということは、社会がその存在を必要としているからだと思います。分け方はいろいろだと思いますが、訪問看護師は第一から第四世代に分けられるかなと思います。第一世代は、訪問看護の世界で大御所とされている先輩方(私が独立する機会を与えてくださった前勤務先の社長<看護師>もそのお一人ですが)、看護師主体の訪問看護ステーション始めるぞ!という熱い想いのある世代です。それから私たちが第二世代。第一世代の先輩たちの情熱を身近に感じてきました。第三世代はちょうど、介護保険が始まった世代なのでケアマネを中心としたマネージメントが当たり前になった世代です。この第二世代・三世代は高齢者だけでなく難病や医療依存度の高い方々も訪問し、訪問看護を定着させてきた世代です。そして、第四世代。学校のカリキュラムに「在宅看護論」が導入された今の若い世代で、在宅に関する意識が以前とは違ってきているなと思います。

内藤:総合実習で在宅を選んだ学生たちもすごく意識が高かったですね。超有望です!

丹内:なかなか熱いハートを持っていて、期待大です。看護師の働く場所が、病院やクリニックだけでなく、在宅も当たり前になっていく時代がくると期待しています。(了)


訪問看護師

たんない・まゆみ 1971年東京生まれ。株式会社みゅうちゅある/ナースステーションたんぽぽ所長。看護学校卒業後、都立病院外科病棟勤務。民間会社の在宅事業部巡回入浴、医療法人の訪問看護ステーション数社で訪問看護師を勤めた後、看護師が経営する独立型の訪問看護ステーションに管理者(所長)として4年間勤務。2014年2月に同社から独立し、「株式会社みゅうちゅある/ナースステーションたんぽぽ」を立ち上げる。常時70~80人の利用者をかかえ、地域のコミュニティ拡充と病院医療・看護と在宅医療・看護の橋渡し的な存在を目指す。

株式会社みゅうちゅある ナースステーションたんぽぽ
東京都武蔵野市境5-27-24西原ハイツ305