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訪問看護の未来

終末期に関する書籍で様々な看取りを学ぶ

終末期に関する書籍で様々な看取りを学ぶ

―― 訪問看護の重要な役割として、在宅での看取りがあると思いますが、在宅で最期を迎えるということを丹内さんはどう考えていらっしゃいますか?

私の年代では珍しいかもしれませんが、祖父、祖母、叔父は家で亡くなりました。なので、家で家族が最期を迎えるということが普通の感覚としてありましたね。認知症の祖母の場合は、食べることが難しくなって、貧血もあるし熱も出ているし、特に積極的な治療を望んではいなかったのですが、診療所の先生から入院の話がもち上がりました。その時、私、自分が病棟看護師として勤務していた時のことを思い出したんです。術直後の急性期患者をみながら入院で不安になっている認知症の高齢者を夜勤で担当するのは大変だったなと。祖母が入院する病棟側にもウェルカムでない気持ちがあるかもしれない。そういう環境に身内を預けるのは正直、嫌だったし、祖母もきっと望まないだろうなと思って、うちで最期を看た方がいいよと提案しました。

―― 自宅での看取りの経験が今役にたっていますか?

自分の人生で本当にありがたい経験だったと思います。私自身が家で家族を看取った実体験の話をすると、利用者さんのご家族も耳を傾けてくれます。老衰の場合などは「病院にいて同じように寝ているのであれば、自分の住み慣れた環境でがやがやしている中で、安心して最期を迎えてもいいんじゃない?」ってお話します。祖母がそうだったからそう言えるんですね。それから、祖父の時は、急変が夜中だったので診療所の先生に連絡がつかず、救急車で一旦病院に運ばれました。すでに心肺停止の状態だったので病院で死亡確認をして家に戻ってきて、それから間もなくして監察医が家にやってきました。心肺停止の状態でかかりつけではない医師が診察すると、こんなことになってしまいます。ふすまを閉められ、家族はシャットアウトされて、私たちが何か悪いことしたような気持ちにさせられました。だから、その体験をご家族に話をして、そういう状況にならないようにどうすればいいか一緒に考えていきます。やっぱり、大好きな利用者さんやご家族には、最期の時、こんな切ない気持ちになってもらいたくないですからね。

―― 丹内さん個人では、病院よりも在宅で看取る方が良いと考えますか?

そうですね。実感としてあるから、この信念はあまり揺らぎません。自分にその実体験がなかったとしても、利用者さんの看取りの経験を通じてその実感は確かにあります。自然にそのまま寝ているように逝けるのだなとか、住み慣れた場所で、ご家族さんに囲まれて、こんな風に最期を過ごすことができるのだなと。もちろん、タイミングによっては病院での最期が良いということもあります。でも、選択の余地があるのなら、在宅での最期の方が良いなと実感することが多いですね。あくまでも病院は「積極的な治療をするところ」なので、それを望まなければあまりいい環境ではないと思います。

―― 若い世代では、自宅での看取りを経験していない人が大半ではないでしょうか。

全部が実体験でなければいけないってことでもない。勉強で補うことができます。たとえば、私が27歳で訪問看護師になった当初は、まだその年齢で訪問看護師をしているスタッフは少なく、周囲はアラフォー、アラフィフ、もしくはそれ以上というスタッフでした。訪問すると、ご家族さんに「嫁姑の経験もない人に何がわかるの?」などと言われることが多く、さすがの私もちょっとへこんだんですが(笑)、それでも、家族ケアってものが知りたくて「家族ケア研究所」の研修に通いました。悩みを先生に打ち明けたところ、「だからこそ専門職なのよ」と言われたんです。「全部が全部、経験しなければならないことはない。あなたは専門職で、ここにきて家族ケアについて学んでいる。それが事実。それが重要。だから、専門職としてそういう勉強をしている立場でお話すればいいのよ」と。ああ、そっかと腑に落ちました。そうかそうか、勉強して補うってこともありなんだな。経験のない人は勉強しなくちゃいけないんだなと思えたんです。

―― 経験がないからって逃げてはならないと。

訪問看護実習の際、学生から「おばあちゃんと一緒に暮らしたことがないので何を話したらいいかわからない」と言われたり、家族ケアの中で、嫁姑の微妙な関係について私が話していても、ピンときていないと感じることがあります。確かに若者には、嫁姑の話はピンとこないかもしれません。ですが、「看護師を目指しているのであれば、同世代の子たちと同じ気持ちじゃいけないよ。自分から本を読んだり、テレビをみたりして勉強しましょう」と言っています。

―― 嫁姑の話は、病院実習ではあまり話題にならない。訪問看護ステーション実習ならではの学びかもしれませんね?

「渡る世間は鬼ばかり」はかなりお勧めだったんですがね。その番組さえも知らないという時代になってきているのかもしれません……(笑)。観月ありささん主演で「訪問ナースのお仕事」なんていうドラマを誰か作ってくれないかなと思っています。

(次回へつづく)


訪問看護師

たんない・まゆみ 1971年東京生まれ。株式会社みゅうちゅある/ナースステーションたんぽぽ所長。看護学校卒業後、都立病院外科病棟勤務。民間会社の在宅事業部巡回入浴、医療法人の訪問看護ステーション数社で訪問看護師を勤めた後、看護師が経営する独立型の訪問看護ステーションに管理者(所長)として4年間勤務。2014年2月に同社から独立し、「株式会社みゅうちゅある/ナースステーションたんぽぽ」を立ち上げる。常時70~80人の利用者をかかえ、地域のコミュニティ拡充と病院医療・看護と在宅医療・看護の橋渡し的な存在を目指す。

株式会社みゅうちゅある ナースステーションたんぽぽ
東京都武蔵野市境5-27-24西原ハイツ305