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訪問看護の未来

新聞を自宅でゆっくり読む。当たり前のことをして最後の日々を過ごす。

新聞を自宅でゆっくり読む。当たり前のことをして最後の日々を過ごす。

―― 終末期での在宅療養中、入院を考える場面も出てくると思いますが、入院についてはどう思われますか?

病院と自宅の行き来は、考えているよりもご本人の体への負担が大きいんです。入退院を繰り返して、在宅での最期を望んでいたにもかかわらず、病院でお亡くなりになってしまうこともあります。環境の変化についていけず、認知症が進む場合もありますし、高齢の方にスタンダードな治療をして逆に体に負荷がかかってしまうこともあります。私としては、利用者さんの普段の生活を見て、症状がたいして悪さをしていない場合は経過をみていくこともありかなと思っています。治療による負担によって、その後、その人が普段通りの生活をできなくなってしまったら意味がありませんから。がんの方ですと、症状が取りきれず症状コントロールのために、緩和ケア病棟への入院をおすすめすることはありますが、自宅で過ごし続けるための短期間利用が主と考えています。

―― 療養者本人や家族がどうしても入院を希望する場合もありますね。

そうですね。ただ、最初に入院が必要だと判断したとしても、たいして症状が改善されず、負担ばかりが大きいということが分かってきて、その選択に疑問を持つご家族も出てきます。そんな時、タイミングを見はからって、入院以外の手段をお伝えするようにしています。「今まで入院していたけれども、おうちでもこんなことができますよ」「もちろん、CTやらなんやらと大きな検査はできませんが、住み慣れた環境で過ごしながら、最期を迎えることもできるんですよ」と。そのように、家族に在宅療養の決断を促すために、まず入院の経験が必要な時もあります。

―― 療養者さんのシンプルな希望が家族の心を動かすこともあるようですね?

新聞を隅から隅まで見ることが日課だった方がいらっしゃいました。でも、病院だとご家族さんが自宅から持ってくる1日遅れの新聞を読むことになるので、家のようにタイムリーに新聞が読めなくて不自由していた。本人も入院を望んでおらず、それから、数回の入退院を見てご家族が揺れ始めていた時期でもありました。私もこのご家族なら家で看られるなと判断したので、ぐぐぐぐぐって迫ってみたんです(笑)。「どうやら本人は大好きな新聞を家にいたほうがタイムリーに読めて嬉しいらしいよ」「〇〇先生に頼めば、病院と同じ療養ができるよ」「これだけ一生懸命なご家族さんであれば、最後まで看られるんじゃないかな」と。「やっぱ、そうかなあ」といった感じで、ご家族さんの覚悟が決まったということもありました。

―― 在宅で最期を迎えるためには、医師とのパートナーシップも大事ですね。

利用者さんの命に向かい合う時、ドクターたちも頭を悩ませストレスを感じることもたくさんあると思います。医療倫理の面でもそうでしょう。残念ながら病気を治すことが難しい状況になった時に積極的な治療をどこまでやるべきかなど、ドクターが判断しなければならない場面も多いですから……。ただ、そういう時こそ、訪問看護師を頼ってほしいなと私は思います。私たちは、ご本人とご家族が今どういう状態で、どういう気持ちでいるかを一番近くで見ています。ドクターだけが悩む必要はないし、一緒に考えていきましょうよ。そのためにご家族とドクターの間に私たちがいるんですよと。私たちが医師と家族をつないで、みんなが納得する穏やかな看取りの環境をつくることができると思うんです。

―― 看護師にも死生観が必要だとおっしゃっていました。

自分なりの死生観がなければ話にならないよってスタッフには言っています。
「丹内さん、死ぬ時ってどういう感じなんだろう。どんな風景なのかな」と訊かれた時、「死んだことないから分かりません」とか、「どうなんでしょうね~」ってあいまいに終わらせるのと、「私も分からないけど、こういう感じなのかなあ」って、言えるか言えないかでかなり違ってくると思います。分からないなりに自分の考えをきちんと伝えると、「この人は、こんなつきつめた話をしても逃げずに答えてくれるんだ」って思ってもらえる。「じゃあ、本音を言っても少し気持ち分かってくれるかな」と思ってもらえる。実はこれって、その質問に意味はなく、この先、この人に自分の最期をたくしていいのかを決めるためのことなのかなって思います。やっとの思いで口にした相手の質問に、「〇〇さんはどう思う?」なんて、コミュニケーションの本に出ているような決まりきったテクニックなんかは通用しないように思います。

(次回へつづく)


訪問看護師

たんない・まゆみ 1971年東京生まれ。株式会社みゅうちゅある/ナースステーションたんぽぽ所長。看護学校卒業後、都立病院外科病棟勤務。民間会社の在宅事業部巡回入浴、医療法人の訪問看護ステーション数社で訪問看護師を勤めた後、看護師が経営する独立型の訪問看護ステーションに管理者(所長)として4年間勤務。2014年2月に同社から独立し、「株式会社みゅうちゅある/ナースステーションたんぽぽ」を立ち上げる。常時70~80人の利用者をかかえ、地域のコミュニティ拡充と病院医療・看護と在宅医療・看護の橋渡し的な存在を目指す。

株式会社みゅうちゅある ナースステーションたんぽぽ
東京都武蔵野市境5-27-24西原ハイツ305