看護師にとって薬理学の知識は必要不可欠!
奥が深いお薬の世界を現役の看護師&薬剤師が丁寧に解説します。
国試の過去問といっしょに学習していきましょう。
1 止血しづらくするのが役割。
「血液は血管内ではよどみなく流れ、血管外では固まる」
これが血液の大原則です。
例えばケガをして血管に穴が開いてしまうと、その穴を塞ぐために血小板が活性化して血栓を作ります。その血栓をフィブリンという線維でしっかりフタをします。これが血管の外で血液を固める一連の流れです。
これらの働きを抑制して止血しづらくするのが、抗血小板薬と抗凝固薬です。
抗血小板薬は、活性化した血小板の動きを防ぐ役割。
抗凝固薬は、フィブリン血栓が作られる過程を抑制します。
思い出そう! 凝固の仕組み
「一次止血=血小板の活性化」を防ぐのが抗血小板薬
「二次止血=フィブリン血栓の生成」を予防するのが抗凝固薬
血栓と塞栓の違いも復習しておこう。
血栓
血の塊が大きくなってその先の血流をとめること。
塞栓
剥がれた血栓が血液の流れにのって別の場所の血管をつまらせること。
関連リンク
あねごの検査データまるわかり。|第9回 血液凝固系の検査データ(1)
2 主なお薬と副作用
種類 | 薬品名 | 商品名 |
---|---|---|
抗血小板薬 | アスピリン シロスタゾール クロピドグレル硫酸塩 チクロピジン塩酸塩 | バイアスピリン プレタール プラビックス パナルジン |
抗凝固薬 | ヘパリン ワルファリンカリウム ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩 エドキサバントシル酸塩水和物 アビキサバン | ヘパリンナトリウム ワーファリン プラザキサ リクシアナ エリキュース |
副作用
1)「止血しづらい効果」が強すぎると生命にかかわります。
例えば、脳梗塞後の再発予防として抗血小板薬や抗凝固薬を使用することは多々あります。でも、脳梗塞を起こす人はそもそも動脈硬化の進行でもろい血管になっている場合が多く、血圧コントロールが不十分だと、脳出血を起こし重篤化する可能性があります。
2)医療行為を行う上でも、さまざまな場面で注意が必要。
採血時に止血しづらく、きちんと止血確認をしないと大きな内出血になることがあります。
3)周術期管理も重要です。
薬によって休薬期間に違いがあります。例えば低用量アスピリンは7日間、シロスタゾールは3日間、またワルファリンカリウムはヘパリンの点滴に置換し、凝固能を見ながらコントロールをします。ヘパリンには、即効性がある、作用に持続性がないという特徴があるので、外科手術において出血リスクを短時間に抑えることができます。
さらに最近では、出血リスクの低い手術や検査内容によっては休薬しない場合もあります。休薬することで血栓塞栓症を誘発するリスクのほうが大きいとの考えからです。
4)他の副作用として、シロスタゾールは頭痛・頻脈・心不全が誘発しやすいなども。
利用者に高齢者も多く、腎臓・肝臓の機能低下により、薬の薬効が強くなることもあります。
薬剤師から一言
鶴原伸尚さん
つるさん薬局(東京都)の薬剤師。患者さん一人ひとりの想いを大切に日々奮闘中。
出血には細やかな注意をしています。
服薬は、効果と副作用のバランスが重要ですが、脳梗塞や心筋梗塞は死に至る重篤な疾患なため、副作用への注意よりも治療を優先するように心がけています。
また、怪我をして出血しても、大抵の場合は少し長く止血をすれば止まりますが、万一の事故に備えて、抗血小板薬・抗凝固薬を服用していることをご家族にお知らせしたり、お薬手帳を携行することをお勧めしています。
抗血液凝固薬に注意が必要な食材
注目されるのは大きく分けて2つ!
1)ビタミンK × ワルファリンカリウム
ビタミンKがワルファリンカリウムの効果を減弱させてしまいます。
ビタミンKが大量に含まれているのは、納豆・青汁・クロレラなど。摂取は避けたほうがいいでしょう。
2)グレープフルーツ × シロスタゾール
シロスタゾールは、肝臓の酵素で代謝されて体外へ排出されます。
グレープフルーツは、その代謝の働きを阻害するため、抗血小板の効果が強くなり出血リスクが高まります。
薬剤師から一言
今日だけなら大丈夫と思うのは危険です。
また、最近利用されるようになったエドキサバントシル酸塩水和物、アビキサバンなどは、ビタミンKとの飲みあわせを気にする必要はありません。その一方で、腎障害の患者さんには利用できないというデメリットがあります。
日常生活はココに注意!
歯茎や鼻血などの場合、なかなか止血しにくいと感じることがあります。
多少出血があってもきちんと止血されれば問題ありませんが、やわらかめの歯ブラシを使用する、転倒時の打撲などは、内出血の広がりに注意するなどの指導が必要です。
そして、最後にもうひとつ。
患者さんに伝えたいのは、血尿や血便が出る、ぶつけていないのに内出血があるなどのケースは、薬の効果が強すぎる可能性の現れなので受診をしてほしいということです。外来の患者さんの場合、普段の生活で変化に気づけるのは患者さん自身や家族の方です(最近では施設の方も)。普段の生活での気づきが重篤化を防ぐキーになります。
5 最後に国試の過去問を解いてみよう。
第105回看護師国家試験 午前問題72
Aさん(60歳、男性)は、胃癌の手術目的で入院した。大動脈弁置換術を受けた既往があり、内服していたワルファリンをヘパリンに変更することになった。
確認すべきAさんの検査データはどれか。
1.PT-INR
2.赤血球数
3.白血球数
4.出血時間
5.ヘモグロビン値
正解・・・1
ワルファリンの効果測定に使われるPT-INR(プロトロンビン時間)で血液凝固能を管理し、基準値(年齢によって異なる)から外れないよう投与量を調節する。
(テキスト:sakura nurse・鶴原伸尚 イラスト:中村まーぶる)