今回頂いた質問

阪神・淡路大震災や東日本大震災で、せっかくがれきの下から救出されたのに、数時間経った後急変し、死亡した人が何人もいたと聞きました。「挫滅症候群」「クラッシュ症候群」と呼ばれるそうですが、災害に遭遇した時、看護師としてどう行動したらよいのでしょうか。

がれきなど重いものに腰や腕、腿などが長時間挟まれた場合、筋肉細胞が障害・壊死を起こし、それに伴ってミオグロビンやカリウムといった物質が血中に混じり毒性の高い物質が蓄積されます。救助後、圧迫部分が解放され、血流が再開すると毒素が急激に全身へ広がり、心臓の機能を悪化させて死に至ることがあり、一命をとりとめても、腎臓にダメージを受け、腎不全で亡くなってしまう場合があります。これが挫滅症候群です。
阪神・淡路大震災をきっかけに医療者だけでなく、一般の人々にも広く知られるようになりました。救出された時には元気でも数時間後に急変することがあり、見落とされることもあるので注意が必要です。

挫滅症候群を疑う状況・徴候を知っておく

■2時間以上腰、腕、腿などが、がれきの下敷き状態にあった。
■軽度の筋肉痛や手足のしびれ、脱力感などの症状がある。
■尿に血が混じり、茶色の尿が出る。
■尿の量が減る。

応急対応を知っておく

点滴による水分補給や乳酸リンゲル液や酢酸リンゲル液を使って血液中の毒素を薄めることが優先され、最終的には血液浄化療法(血液透析・血漿交換)を行うことが重要で、救出後はできるだけ早く人工透析を行うことが必要です。
ただし、これは救助隊が来た時の話。何も用意のない状態で災害に遭遇した場合は、どうしたらよいのでしょうか。

「がれきの中の医療」という考え方

挫滅症候群を防ぐには、救助する側の「消防」と、災害医療に携わる「医師・看護師」とが密に連携する必要があります。阪神・淡路大震災の教訓として、無理に救助することが必ずしも最善の救助とは限らず(「がれきの外の医療」)、医師ががれきの中に入り、救助活動と同時に治療する「がれきの中の医療」という考え方にスポットがあてられるようになりました。

「連携」の訓練も大事

防災訓練で、医師や看護師が救助隊員と一緒に現場で活動し、迅速に「がれきの中の医療」を行う訓練がされるようになってきました。消防と医師・看護師がスムーズに連携できるように、DMAT隊(災害医療派遣チーム)が各都道府県で次々と設立されています。 普段から、災害時を想定して、知識を広げ、訓練において、現場における冷静さを培っておくことも必要でしょう。

では、挫滅症候群について問われた国家試験の過去問題を解いてみましょう。

問題

第98回 看護師国家試験 午前問題51

35歳の男性。震度6強の地震発生36時間後、がれきの下から救出され、病院に搬入された。長時間両大腿部が圧迫されていたため、下肢に知覚・運動障害を認めたが、意識は清明で呼吸と循環動態とは安定していた。入院後、両下肢が著しく腫脹し、赤褐色尿を認め、全身状態が急速に悪化した。血液検査で血清クレアチンキナーゼ(CK)値と血清カリウム値とが急激に上昇した。  最も考えられるのはどれか。

1.PTSD
2.深部静脈血栓症
3.ネフローゼ症候群
4.挫滅症候群(クラッシュ症候群)

1.× PTSDは災害・事故・犯罪の被害などのできごとにさらされたことによる精神的後遺症のことである。
2.× 赤褐色尿やCK値とカリウム値の急激な上昇は、深部静脈血栓症ではみられない。
3.× 腎障害が起こる可能性もあるが、現段階でネフローゼ症候群であるかどうかを判断できない。
4.○ 搬入時は、意識が清明で呼吸と循環動態とは安定していた。急変時に赤褐色尿がみとめられ、CK値とカリウム値が急激に上昇している点からも、挫滅症候群と判断できる。

答え…4

編集部より

「挫滅症候群」を知っていれば、被災者をただやみくもにがれきの下から救出することが最善の選択であると決めることができなくなります。目の前で苦しんでいる人を放っておくことは、なかなかできることではありませんが、圧迫されていた時間、どの部分が、どのくらいの重さで、何によって圧迫されていたかの状況を到着したレスキュー隊、搬送先の医師らに伝えることも大事な救助活動のひとつだと考えられます。