今回頂いた質問

実習先で、前立腺肥大症の患者さんが「この後、前立腺癌になってしまうのでしょうか?」と担当看護師に質問している場面がありました。「そんなことはありませんよ。ドクターに聞いてみますか?」と答えていたと思いますが、前立腺癌と前立腺肥大症はまったく別のものなのでしょうか?

ご質問にあるように「前立腺肥大症ががん化して、前立腺癌になるのでは?」と考える人が多いのは事実です。理由としては、前立腺癌がその名の通り前立腺辺縁域にできることが多く、肥大症と合併することも少なくないためだと考えられます。ただし、前立腺癌の発生組織は前立腺肥大症とは異なります。肥大症を未治療のままにしたからといって癌化することはありませんが、前立腺肥大症と前立腺癌が併存しているケースがあるため、鑑別のための検査が重要となります。

前立腺癌と前立腺肥大症

前立腺癌

・60歳以上の男性に多く、日本でも増加傾向にある。
・前立腺と合併するものも少なくないが、肥大症が癌化するとは考えられない。
・進行すると精嚢・尿道・膀胱へと浸潤し、骨盤内リンパ節、骨に転移する。
・組織的には、大部分が腺癌である。
・初期には無症状、ある程度腫瘍が増大すると排尿障害があらわれる。
・直腸内診で前立腺後面に硬度を増した結節に触れ、進行すると表面が不整で石のように硬い腫瘤として触知できる。
・腫瘍マーカーであるPSA(前立腺特異抗原)の異常値により発見されることが多い。

・治療は手術療法、放射線療法、抗男性ホルモン療法(内分泌療法)、化学療法など。
・内分泌療法のひとつとして、下垂体に作用してゴナドトロピンの分泌を抑制し、アンドロゲンを去勢レベルまで下げるLH-RH作動薬(アナログ)が薬物去勢法として用いられる。

前立腺肥大症

・前立腺の内側の尿道周囲の粘膜下腺(内腺)に発生する良性の腫瘍。
・特に夜間の頻尿を伴うことが多く、遷延性排尿障害(排尿をしようとしてから実際の排尿までに時間を要する)、苒延性排尿障害(排尿し始めてから、なかなか排尿が終わらず、だらだらと続く)を伴う。
・直腸診では肥大した前立腺を触知する。表面は平滑で、硬度は均等なのが特徴である。
・治療は肥大した前立腺組織のみを切除する。経尿道的前立腺切除術(TUR-P)、前立腺被 膜下摘出術(前立腺が大きな場合や膀胱結石を伴う場合の開放手術)、レーザー治療、高温度療法がある。

前立腺癌と前立腺肥大症

前立腺癌と前立腺肥大症

回答は以上になります。
では、国家試験の問題を実際に解いてみましょう。

問題

第104回 看護師国家試験 午後問題34

前立腺癌の治療薬はどれか。

1. インターフェロン
2. α交感神経遮断薬
3. 抗アンドロゲン薬
4. 抗エストロゲン薬

1.× インターフェロンは抗ウイルス効果を持ち、C型肝炎や腎臓癌、骨髄腫、慢性骨髄性白血病の治療に有効である。
2.× 前立腺肥大症に対してはα交感神経遮断薬(α1遮断薬)、黄体ホルモン製剤、アンドロゲン受容体阻害薬が使用される。
3.○ 前立腺癌の発生や生育に関するシグナルは、男性ホルモンのアンドロゲンとその受容体(androgen receptor: AR)によって細胞に伝達される。そのため、アンドロゲン産生阻害薬や抗アンドロゲン薬を用いた内分泌療法が用いられる。
4.× 女性ホルモンのエストロゲンが乳癌を増悪させるため、抗エストロゲン薬が乳癌の治療に用いられる。

正解…3

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科目別強化トレーニング「疾病の成り立ちと回復の促進」「成人看護学」

編集部より

中年男性の「最近、おしっこのキレが悪くなってきた」というセリフがドラマなどでよく聞かれますが、このセリフで「前立腺肥大症」を真っ先に思い浮かべると看護師の友人が言っていました。もちろん原因はさまざまですが、加齢によって起こる人体の変化について、周囲の人のちょっとした言動に注意してみると案外勉強になったりするようです。