今回頂いた質問

2014年の御嶽山(おんたけさん)に続いて、今年は箱根山、口永良部島(くちのえらぶじま)の火山活動がニュースになっています。また、震度4以上の大きな地震も日本各地で相次いで起きていて、自分が将来、災害時医療に携わることについて考えるようになりました。DMATというのは、どういう組織なのか教えてください。

DMAT(ディーマット)とは、災害派遣医療チーム(Disaster Medical Assistance Team)の略で、1995年の阪神・淡路大震災での「防ぎえた死(Preventable Death)」の可能性を教訓として、2004年に東京都が東京DMATを、2005年には厚生労働省が日本DMATを発足させました。現在は各道府県や日本赤十字社などがDMATを組織しています。
DMATは「医師、看護師、業務調整員(医師・看護師以外の医療職及び事務職員)で構成され、大規模災害や多傷病者が発生した事故などの現場に、急性期(おおむね48時間以内)に活動できる機動性を持った、専門的な訓練を受けた医療チーム」(*)と定義されています。
*「日本における災害時派遣医療チーム(DMAT)の標準化に関する研究」より

DMATの任務

1. 被災地域内での医療情報の収集と伝達
2. 被災地域内でのトリアージ、応急治療、搬送
3. 被災地域内の医療機関、特に災害拠点病院の支援・強化
4. 広域搬送基地医療施設(ステージング・ケア・ユニット)における医療支援
5. 広域航空搬送におけるヘリコプターや固定翼機への搭乗医療チーム
6. 災害現場でのメディカルコントロールの発揮による他の医療従事者(救急救命士、看護婦等)の支援、活性化など
「日本における災害時派遣医療チーム(DMAT)の標準化に関する研究」より

チーム構成

◆規模は大規模(30~50 名)の部隊としての行動も可能
◆活動時期は通常急性期のみ
◆トレーニングは必須、参加資格、認定制度あり
◆職種は医療従事者、必要に応じては救助・救命士・救助犬等の多職域と連携
◆DMAT特殊チームとしてUS&R(Urban Search and Rescue/都市型探索救助)、NBC(Nuclear, Biological, Chemical/放射性物質、生物剤、化学剤による特殊災害)対応、広域搬送、精神専門チームを想定
「日本における災害時派遣医療チーム(DMAT)の標準化に関する研究」より

DMAT隊員の資格

1. DMAT隊員の資格の更新
DMAT隊員の資格更新は5年ごとに行われる。ただし、年度途中に隊員として認証を受けた場合は、認証を受けた当該年度及びその後4年間を、DMAT隊員の資格の有効期間とする。
2. DMAT隊員の資格の更新要件
DMAT隊員の資格更新要件は、以下のとおりとする。
資格有効期間において、DMAT技能維持研修に2回以上参加していること
※DMAT地方ブロック訓練への参加要件を満たせない場合は、政府総合防災訓練への参加実績を慮する。
「日本DMAT活動要領の一部改正について」(平成25年)より

DMATはこれまで東日本大震災をはじめ、多くの災害や事件・事故で出動してきました。昨年(2014年)の御嶽山噴火での活躍も記憶に新しいところです。
日本DMATでは、DMATが組織されたことによって「中越沖地震のような限局的な災害では、発災直後から救出・救助が行われ、傷病者を災害拠点病院に集め、重傷者を航空機や救急車で機能している災害拠点病院に搬送することにより、生命的・機能的予後の改善が認められた」と評価する一方で、「東日本大震災では、多数のDMATが被災地に参集する一方、津波災害により、外傷傷病者等への救命医療ニーズが少なかったこと、通信が困難であったこと、派遣調整を行う本部の対応が不十分であったことなど、DMATの活動について多くの課題も明らかとなった」と問題点を挙げています。
今年(2015年)5月には、衛星通信機器を搭載し、大規模災害時に情報の収集・発信の手段を確保できる「DMATカー」が兵庫・姫路医療センターに配備されましたが、これもDMATの活動を改善していく動きの一端でしょう。
各都道府県にはDMAT指定病院があり、災害時に迅速に行動できる医療体制の整備を進めています。DMATに参加したいと考えるなら、こうしたDMAT指定病院に勤務し、DMAT隊員の資格を取得する研修を受けるのが近道です。日本DMATによると、DMATの隊員資格は個人のものですが、資格取得のための研修はチームを組んで受けるため、職場単位で参加することが多いそうです。

●参考サイト
DMATとは?
http://www.dmat.jp/DMAT.html
日本における災害時派遣医療チーム(DMAT)の標準化に関する研究
http://plaza.umin.ac.jp/GHDNet/circle/12/w511-04.pdf
災害医療等のあり方に関する検討会報告書
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001tf5g-att/2r9852000001tf6x.pdf
東京DMATについて
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/iryo/kyuukyuu/saigai/tokyodmat.html

回答は以上になります。
では、国家試験の問題を実際に解いてみましょう。

問題

第103回 看護師国家試験 午前76

災害派遣医療チーム〈DMAT〉の活動で最も適切なのはどれか。

1. 被災地域内での傷病者の搬送を行う。
2. 外傷後ストレス障害〈PTSD〉に対応する。
3. 長期の継続的な医療を行う。
4. 被災地の復興を手助けする。

1. ○ 正しい。DMATはドクターヘリや救急車などによる傷病者の搬送を行う。
2. × 災害から1か月以内に治癒するものは急性ストレス障害(ASD)と呼ばれ、1か月以上続くものがPTSDと呼ばれる。PTSDは通常、災害の急性期に起きるものではなく、DMATの活動対象とはならない。
3. ×
4. ×
DMATの活動時期は通常、災害発生直後~48時間のみ。継続的医療や被災地の復興はDMATの活動対象とならない。
答え…1

●災害時の看護は国家試験の出題基準では「看護の統合と実践」になります。
「看護の統合と実践」の理解を深めるにはこちらの教材をご利用ください。
科目別強化トレーニング「看護の統合と実践」

編集部より

昨年(2014年)9月の御嶽山の噴火では、長野県立木曽病院を拠点に、県内外から30隊、計約130名のDMATが集まり、医療活動にあたりました。しかしながら、「DMATの認知度が低く、下山者らがいた避難所などでは活動させてもらえなかった」という報告があります(*)。昨年1月~3月にDMATの活動を描いたTVドラマが放送されて注目されましたが、まだまだDMATへの認知度は低いようです。DMATへの理解が広がることで災害時医療の迅速化が進むことが期待されます。

*信濃毎日新聞 http://www.shinmai.co.jp/ontakesan/article/201411/15010809.html