今回頂いた質問

同居中の祖母の介護を母がしているのですが、私の言葉遣いがきついため、先日も付き添いで行ったスーパーで虐待に間違われたことがあります。高齢者虐待の心理的虐待について詳しく教えてください。

高齢者虐待は2006年4月に施行された高齢者虐待防止法で規定されています。
同法で、高齢者虐待とは65歳以上の高齢者(第2条)に対する養護者及び養介護施設従事者等による虐待(第2条‐2)とされており、「養護者」や「養介護施設従事者等」による虐待についてもそれぞれ規定されています。
また、高齢者福祉に職務上関係のある者は高齢者虐待の早期発見に努めなければならず、養護者による虐待を発見した者も速やかに市町村に通報するよう努めなければならないとしています。

「養護者」による虐待では、『高齢者に対する肉体的暴行』『減食や放置など、養護者による介護の放棄』『高齢者に対する暴言・心理的暴行』『わいせつ行為』『高齢者の財産の侵害』等のいずれかの行為を高齢者に対して行った場合、虐待に当たるとしています。
「養介護施設従事者」による虐待では、老人福祉法に規定する老人福祉施設や有料老人ホーム等に入居する高齢者、もしくは居宅サービス事業や介護予防事業に関わるサービスの提供を受けている高齢者に対し、上記のいずれかの行為を行った場合、虐待に当たるとしています。

ご質問の心理的虐待ですが、厚生労働省は心理的虐待『脅しや侮辱などの言語や威圧的な態度、無視、嫌がらせなどにより高齢者に対して精神的、情緒的な苦痛を与えること』と定義しており、具体的な事例として、
・排泄の失敗を嘲笑したり、他人に吹聴したりして高齢者に恥をかかせる
・怒鳴る、罵倒する、悪口などを言う
・侮辱的に子供のように扱う
・高齢者が話しかけても意図的に無視する などを虐待例としてあげています。

(参考)「家庭内における高齢者虐待に関する調査」(平成15年度) 財団法人医療経済研究機構

なお、「平成24年度高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律に基づく対応状況等に関する調査結果」では、高齢者虐待では『肉体的暴行』(65.0%)が最も多く、次いで『暴言・心理的暴行』(40.4%)、『財産の侵害』(23.5%)、『介護の放棄』(23.4%)の順となっています。
また、被害は男性に比較して女性が多く、8割以上の虐待被害者が虐待者と同居しています。

高齢者虐待行為の分類

●身体的虐待:高齢者の身体に外傷が生じる、又は生じるおそれのある暴行を加えること。
●介護などの放棄(ネグレクト):高齢者を衰弱させるような著しい減食や長時間の放置、養護者以外の同居者による虐待行為と同様の行為の放置など、養護を著しく怠ること。
●心理的虐待:高齢者への著しい暴言、又は著しく拒絶的な対応、その他の高齢者に著しい心理的外傷を与える言動を与えること。
●性的虐待:高齢者へのわいせつ行為、又は高齢者をしてわいせつな行為をさせること。
●経済的虐待:養護者、又は高齢者の親族が高齢者の財産を不当に処分すること。当該高齢者から不当に財産上の利益を得ること。

では、国家試験で出題された高齢者虐待に関する問題を解いてみましょう。

問題

第102 看護師国家試験 午前問題62

家庭内における高齢者虐待に関する調査(2004年)による高齢者虐待の特徴で正しいのはどれか。

1.被虐待者は女性が多い。
2.経済的虐待が最も多い。
3.配偶者による虐待が最も多い。
4.被虐待者は要介護5が最も多い。

1.○ 被虐待者の割合は、男性の23.6%に対し女性が76.2%と男性と比較して女性の割合が圧倒的に高く、虐待被害者の大多数が女性となっている。
2.× 虐待の内容では「心理的虐待」が63.6%と最も多く、次いで「介護などの放棄」(52.4%)「身体的虐待」(50.0%)の順となっており、「経済的虐待」は22.4%で4番目の多さとなっている。
3.× 虐待者と被虐待者との関係では、「息子」が32.1%と最も多く、「息子の配偶者」(20.6%)、「高齢者の配偶者(妻・夫)」(20.3%)となっている。
4.× 被虐待者の要介護度では要支援~要介護2の比較的軽度要介護者の割合が45.4%、要介護3以上の比較的重度要介護者の割合が51.4%となっているが、要介護度別では「要介護1」(21.5%)が最も多くなっている。

答え…1

編集部より

以前、知り合いのケアマネジャーに聞いた話ですが、家族の介護をされている男性の多くが介護を仕事と同じに考え、毎日の掃除や洗濯、食事介助、リハビリなどにノルマを決めて真面目すぎるぐらいに取り組んでいるそうです。その反面、介護知識や技術の不足から要介護者がノルマを達成できないと無理にでも達成できるよう強要し、暴力や罵倒などの虐待に至るケースが多いのだとか。
看護師も同じ、思い通りにいかないことが続けばイラッとくるもの。でも、そのイラッを抑えるのが身につけた知識と技術です。