看護師にとって薬理学の知識は必要不可欠!
奥が深いお薬の世界を現役の看護師&薬剤師が丁寧に解説します。
国試の過去問といっしょに学習していきましょう。

1 便を出すためのお薬です。

今回のテーマは下剤。そう、便を出すためのお薬です。
皆さんのまわりでも便秘で悩んでいる人がいるのではないでしょうか。インターネットでは、「便秘外来」をキーワードにして検索すると、たくさんの病院が見つかります。入院患者さんだけでなく、外来通院中の患者さんも含めて下剤のお世話になっている人はたくさんいます。

では便秘とはどんな状態をさすのでしょう。
答えは、排便に困難を感じる状態(3日に1回以下が目安といわれますが、本人が苦痛を感じずに排便できていれば問題にはならないこともあります)。下剤はあまりにも一般的なので、すぐに薬を飲もう!となりがちですが、便秘には種類があり、なぜ便が出ないのか?という原因によって対処方法が異なることを理解しましょう。

便秘イメージ


2 便秘の種類を考える。

1)機能性便秘

弛緩性便秘

大腸の蠕動運動が低下→便がうまく押し出せない

けいれん性便秘

腸管がけいれん収縮→排便が困難

直腸性便秘

習慣的に便秘を我慢→排便反射が弱くなり便が直腸にたまる

2)器質性便秘

大腸がんや腸捻転など消化管が閉塞してしまう→便が通過できない

3)薬剤性便秘

薬の副作用として起こる(パーキンソン治療薬、気管支拡張薬などのように副交感神経を遮断するような薬は便秘になりやすくなります)

主に下剤が使われるのは、食事や生活習慣が原因の機能性便秘の場合です。
器質性便秘は、原因疾患の治療が第一義。また薬剤性便秘の場合は、その薬剤を減量・中止すれば改善することもあります。

薬剤師からひとこと。

薬剤師

鶴原伸尚さん
つるさん薬局(東京都)の薬剤師。患者さん一人ひとりの想いを大切に日々奮闘中。

1)便秘の症状の度合い、薬の効き具合には非常に個人差がありますので、初めて下剤を利用される患者さんには、用量調節をご自身で行ってよいことをお伝えします。また、慢性の患者さんには少し多めの処方だったり、強めの刺激性下剤が処方されたりする場合もあります。
2)がん性疼痛があり、オピオイド鎮痛剤を服用している患者さんには、予防的に下剤が処方されることも多々あります。副作用である便秘が理由で、オピオイド鎮痛剤を服用してもらえなくなる可能性があるためです。こういった処方もアドヒアランス(※)向上につながります。

3 主な下剤をみてみよう。

緩下剤(機械的下剤)

腸管内に水分を移行させる→便が柔らかくなる
・比較的穏やかな作用で習慣性もないといわれている。
・副作用:緩下剤の主成分である酸化マグネシウムは、腎機能が低下していると高マグネシウム血症になることも。また膨張性がある薬だとお腹が張ったり気持ち悪くなったりすることがあります。

刺激性下剤

大腸の蠕動運動を亢進させる
・即効性があり作用も強い。種類によっては耐性や習慣性が出るものも。
・副作用:急性腹症やけいれん性便秘、腹部術後間もない患者さんの場合は症状が増悪することも。

浣腸

直腸内へ剤を注入することで蠕動運動を亢進させる
・副作用:直腸内圧が上がり、さらに排便でいきむと頭蓋内圧が高くなってしまうため使用が禁止されている場合も。

分類機能一般名
緩下剤機械的下剤・水分を調整する酸化マグネシウム・クエン酸マグネシウムなど
刺激性下剤腸を刺激するセンナエキス・モニラックなど
座薬腸を刺激する炭酸水素ナトリウム・ビサコジルなど
浣腸便を軟化・潤滑化するグリセリンなど
漢方薬胃腸の働きを活性化する大建中湯など

再び薬剤師から。

薬剤師

患者さんに合う下剤を見つけるお手伝いをします。

3)下剤を服用している患者さんの副作用の多くは腹痛です。緩下剤(機械的下剤)は作用が穏やかな分、お腹が張るものの腹痛は起きにくくなっています。一方、刺激性下剤は即効性があり作用も強く、腹痛が起きやすくなります。それまでに利用していた薬剤を確認して、服用する下剤がどの分類に入るかを説明し、ご自身に合う下剤を見つけるようにお手伝いしています。

4 看護で気をつける4つのポイント。

1)羞恥心に配慮する!

排泄は患者さんの尊厳に直結する問題です。「看護師さんが忙しそうだから言えない」など気を遣わせない工夫が大切です。

2)浣腸の原則!

左側臥位・挿入の長さは6センチ程度というグリセリン浣腸の原則は絶対に守りましょう。浣腸をすると急に便意を催すので、患者さんから「トイレでしてほしい」と言われることあります。でも、トイレで座ったまま、または立ったままで浣腸を行い、直腸が穿孔した事例が実際にあります。万が一に備えて体の下にパットを敷いたり、トイレに近い処置室で施行したりというケアで精神的な負担を減らすことを考えてみましょう。

浣腸の原則イメージ

3)便の観察も忘れない!

単なる便秘とあなどっていると、便の中に隠れた疾患を見逃してしまうことも。便の性状や随伴症状も合わせて観察するようにしましょう。

4)下剤を使用しない工夫も!

排泄のサイクルが崩れるのは本当につらいもの。下剤を一時的に使用せざるを得ない場合が多いのも現実ですが、薬を使った排便にストレスを感じる患者さんもいます。温罨法、十分な水分摂取、野菜を多めに摂取する、適度な運動など、下剤を使用しない工夫もアドバイスできるといいですね。

下剤を使用しない工夫イメージ


5 最後に国試の過去問を解いてみよう。

第100回看護師国家試験追加試験 午後問題54

Aさん(48歳、女性)は、子宮頸癌の手術を受けた。その後、リンパ節再発と腰椎への転移が発見され、放射線治療を受けた。現在は外来で抗癌化学療法を受けている。癌性疼痛に対しては、硫酸モルヒネ徐放錠を内服している。
Aさんへの外来看護師の対応で適切なのはどれか。

1.「吐き気がしても我慢してください」
2.「毎日、1時間のウォーキングをしましょう」
3.「家族に症状を訴えても心配をかけるだけです」
4.「便秘で痛みが強くなるようなら、緩下剤で調節してください」

正解・・・4
1.× 抗がん薬の副作用である吐き気や嘔吐には、早期に対応する。
2.× 腰椎の転移があるため、運動量の低い散歩などから始めていき、副作用の症状に合わせて増減するのが望ましい。
3.× 患者のソーシャルサポートとして家族が機能することは重要である。
4.○ 便秘は、硫酸モルヒネ徐放錠(オピオイド鎮痛薬)における高頻度の副作用である。患者にとっては苦痛をもたらすため、緩下剤で排便をコントロールする。

こんな例もありました。

薬剤師

便秘でなくても下剤が処方される場合があります。

4)肝不全で高アンモニア血症を改善する薬を服用していたある患者さん。便秘ではないのに下剤が処方されていました。便秘による高アンモニア血症悪化を避ける目的で、予防的に処方されていたのです。便秘でないなら安易に下剤を飲まなくて良い、ということにはならない一例です。この場合は、便秘による高アンモニア血症と、下痢による脱水症状のいずれにもならないような注意が必要になります。

※アドヒアランス:患者さんが積極的に治療方針の決定に参加し、その決定に従って治療を受けること。


(テキスト:sakura nurse・鶴原伸尚 イラスト:中村まーぶる)